月50万人受講するドコモのスマホ教室、デジタルリテラシー底上げするか?
「お嫁さんに教えてもらってたんだけど、毎回聞くのもなんだか悪くて…」「半年前に買ったんだけど、まだよく使い方が分からないのよ」―ドコモショップに集まったのは70~80代のシニアたち。スマートフォンの使い方をレクチャーする「ドコモスマホ教室」で講師の話に真剣に耳を傾ける。聞きたいことをたくさん紙に書いて持ってくる方も多いという。(取材・昆梓紗)
現場の声を受け整備
NTTドコモでは2018年1月より「ドコモスマホ教室」を開始。スタート当初の受講者は5万人ほどだったが、毎月約5万人ずつ増え、2019年ではのべ500万人、現在(※)では月50万人が受講している。60代以上が90%を占めており、50代と60代の間がリテラシーの境目になっていることがわかる。
3G回線が2020年代に終了することもあり、必要に迫られてスマホを購入したものの、使い方が分からないままというシニアが多いようだ。
講座自体は各店舗に任されているが、基本は1日3回の開催で、9割以上が月90~100回開催している。カリキュラムには、文字の打ち方、メールや電話の使い方など基本的なものから用意されているが、最近ではアプリや「dメニュー」サービスに関する上位カリキュラムなども人気だ。
教室開始当初は簡単なカリキュラムしか用意しておらず、その後現場から「こういった講座が必要」という声に応えて追加していった。上位カリキュラムの人気講座も昨年度の初めに立ち上がったもので、そこから徐々に教室運営や講座内容を整備していった。「去年出た時よりもテキストが分かりやすくなっている」と受講者からは好評だ。
カリキュラムは5~6ステップにレベル分けがされ、受講者のリテラシーに応じてステップアップしていける仕組みになっている。そのためリピーターも多く、わからなければ何回も受講するという参加者もいる。
「スマホ教室の前には電話教室を開催していたのですが、整備されていないことも多く、1回受講して終了という形でした。今回のようにお客様が成長するモデルができたからこそ、ここまで受講者が増えていると思います」(同社販売部チャネルデザイン担当部長藤井政樹氏)。もとは法改正による説明義務を果たすというきっかけで始まった教室だったが、受講者と現場の要望を受け成長していった。
スマホを持っていない人向けの講座や、ドコモのサービスを紹介する講座もあるが、あくまでも便利な使い方を教えることを重視し、サービス加入は目的にしていないという。しかしスマホ非所持者向け講座からの購入率は高く、「一定の効果はあると思っている」(藤井氏)。
コロナ禍での在り方
スマホ教室を支えるのは、全国2300店舗で教える1万人の講師だ。教室の参加率は店舗スタッフの意欲や教室を重視する気持ちが反映されているという。「月に1000人くらい受講者が集まる店舗のスタッフと意見交換すると、本当にスマホ教室が好きで、情熱をもって取り組んでいるんです」(北村氏)。
そういった店舗では受講者も意欲が高く、リピーターになったり、知り合いを誘って参加したりとエンゲージメントが高くなる。「参加される方はお友達から誘われてという方が多く、口コミの力を感じます」(d garden五反田店のスマホ教室担当者)。シニア向けサービスでは、人とのつながりが行動に与える影響は大きい。
しかしコロナ禍により、3月以降の教室開講が難しくなってしまった。これに対応するため急遽オンラインで学ぶための動画を作成。4月より提供開始した。スマホ教室は7月より再開したが、復習としても動画が活用されることを期待している。
さらに今後はリアルタイムのオンライン教室開催を検討しており、8月より実証を開始する。「リテラシーが低い方に最新のオンライン会議システムを使ってもらうので、ハードルは高いと思います。ただ、スマホの使い方に合わせてオンライン会議システムを使えるようになることもシニアの方へのサポートの1つかなと考えています」(藤井氏)。
「スマホの使い方を学ばなければと思っている方は増えているのではと感じる」と藤井氏は話す。休止中も「いつ再開するのか」といった問い合わせが多く寄せられた。一方で、リピーターの受講者の割合が多く、一度も受講していない大多数の人のフォローはできていない状況だ。学ぶ意欲があっても「大人数で参加するのは気が引ける」という人もいるため、まずは動画やオンライン教室など選択肢を増やすことでカバーできる部分もあると想定している。
教室を通して得たシニアに関する知見や、シニアを教えるプロと受講者とのつながりを生かし、デジタルリテラシーを底上げする仕組みのバリエーションを増やすことが求められる。
(※)2020年2月。3月~6月は新型コロナウイルス対策のため開催休止。7月より再開