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シニア向けオンライン趣味コミュニティが開拓する「体験+EC」とは?

シニア向けに、趣味を通したオンラインコミュニティを運営するオースタンス(東京都新宿区)の「趣味人倶楽部」。趣味コミュニティのオフラインイベントは月に1600回も開催され、延べ1万人前後が参加していたが、新型コロナウイルスの流行により自粛せざるを得ない状況となった。

その一方でオンラインでの投稿数は2倍以上になり、自粛期間が続く中で「趣味の話をしたい」「趣味を楽しみたい」というニーズが増加したことが分かる。そこで新たにオンラインイベントを開催できる機能を4月にリリース。その結果、1カ月ほどで500名以上が参加した。

工夫を凝らしたイベント続々

「オンラインイベントで人気なのはカラオケです。さすがに臨場感はリアルに劣りますが、聴いてくれる人がいて拍手や反応がもらえることが喜ばれているようです」(同社広報の佐藤璃子氏)。自分たちでアーティストを呼んで弾き語りをしてもらう、限定公開されているオンライン美術館に行くなど、工夫を凝らしたユニークなイベントも開催された。

「オンライン酒蔵ツアー」の様子

また、オースタンスが主催するオフィシャルイベントも開催。オンラインイベントの利用法や企画の仕方などの講座を行った。さらに、新たな取り組みとして企業とコラボレーションしたオンラインイベントを実施。5月下旬には楽天が運営するフリマアプリの楽天「ラクマ」と共同で、「シニア向けフリマアプリ教室」を開催した。2日間のプログラムで、実際に参加者が不用品を出品し、落札後の配送までフォローした。

6月下旬には旭酒造の日本酒「獺祭」の「オンライン酒蔵ツアー」を行った。参加者には事前に「獺祭飲み比べセット」と「イベントキット」が自宅に届き、当日は日本酒に関する講座や利き酒、オンラインでの酒蔵見学が行われた。オンラインで希薄になってしまう参加感を補うため、クイズや利き酒のためのワークシートなどを使い、双方向性を重視したという。

「シニア世代は時間とお金に余裕がある人が多く、今までは旅行などの外出ニーズが高かった。しかしコロナ禍にあっては難しい。今後も自宅にいながら同じような体験ができるイベントを企画していきたいと考えています」(オースタンスCEOの菊川諒人氏)。

オンライン酒蔵ツアーの概要

また、コロナ禍ではシニア層でもインターネットの利用時間が増加し、これまで抵抗感の強かったECの利用意欲も数%から25%に増加している(※)。「オンライン酒蔵ツアー」は利き酒セット購入も含めた参加費が2000円。オンラインではあるものの、ECと旅行を組み合わせたような企画となっている。

今後も企業とコラボしたオフィシャルイベントは定期的に行っていく予定で、ワイナリー、クラフトビールメーカー、食品メーカーとのイベントも企画中だ。企業としても、シニア向けマーケティングの一環として活用できる利点がある。

同社では4月にシニア世代の詳細な調査、およびそのビジネス活用を推進する組織「趣味人倶楽部シニアコミュニティラボ」を設立。34万人以上いる会員の声を活かし、シニアのシンクタンク的に情報発信していく考えだ。「シニア層は社会に貢献したいという欲求を持っている人が多い。社会参加をする、仕事につなげるというところまで行えたらと考えていますが、まず短期的には社会参加の一環になればと思います」(菊川氏)。

オースタンスCEOの菊川諒人氏

ニーズは多いが足りないものは

趣味人倶楽部の会員は普段からウェブサービスに親しんでいる「アクティブシニア」が多いが、それでもオンラインイベントに対する戸惑いはあったという。同社では電話による接続サポートや、オンラインイベント参加の際の注意点などを伝えるなどの取り組みを行っている。「電話サポートには80代の方からの問い合わせがありました。接続できたことに喜ばれて、その後積極的にオンラインイベントに参加しているそうです」(佐藤氏)。

オンラインイベント参加者からは「はじめはハードルが高かったが、つながった時の感動は何とも言えない」という感想が多く寄せられた。週2回開催する精力的なコミュニティも現れてきたという。

また、「オンラインだからこそ会えるようになった」という声もあった。「例えば遠方に住んでいて年一回の旅行でしか会えなかった人や、今まで参加できずにいた人でも、オンラインイベントであれば気軽に会うことができます。その点に価値を見出した方々がはまっている印象です」(菊川氏)。

外出自粛が終了しても、地方在住や、健康上の問題、介護問題など、シニアならではの外出できない事情は多い。そういった人たちでも家にいながらイベントを体験でき、趣味を共有できるのはオンラインの利点だ。

一方、オンラインイベントのニーズが高まり、参加者も増えているものの、会員主催イベント自体や主催者が増えないことが課題となっている。同社では、主催者に必要なサポートをヒアリングしてサービスに反映、印刷用マニュアルを配布するなどの対応を進めている。「趣味人倶楽部は10年以上継続しているサービスで、長く続いているコミュニティも多い。管理人や会員のノウハウや知恵を生かし、ルールや規則を作るなど、コミュニティを円滑に運営していただいています」(菊川氏)。

シニア層が何か新しいことを始めよう、取り入れよう、というときにコミュニティの存在が重要になってくる。今回のオンラインイベント普及に関しても、コミュニティの力がうまく働いた。「周りがやっていると参加するという特性は強い。ネットなど新しいものへの心配、不安が他の世代に比べて多い分、周りがやっていると挑戦できる。シニア世代をアップデートする必要があるときには、コミュニティが活用されればスムーズにいくのではと感じました」(菊川氏)。

健康寿命が伸び人生100年時代と言われるようになった。歳を重ねるごとにコミュニティや行動範囲が狭まっていく中で、趣味は新しいチャレンジや人との出会いを広げるトリガーになりやすい。趣味人倶楽部では、趣味を広げ、深めるためにオンラインサービスを活用、その趣味コミュニティがさらに新たな挑戦や生活へのきっかけとなる、という相乗効果が生まれている。

(※)博報堂シニアビジネスフォース、および趣味人倶楽部シニアコミュニティラボ「新型コロナウイルスによる生活への影響に関するアンケート」より

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