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次世代型太陽電池の本命「ペロブスカイト太陽電池」がわかる。研究開発と産業化への現在地

次世代型太陽電池の本命「ペロブスカイト太陽電池」がわかる。研究開発と産業化への現在地

ペロブスカイト太陽電池と、その〝生みの親〟として知られる宮坂力・桐蔭横浜大学特任教授

次世代型太陽電池の本命「ペロブスカイト太陽電池」の実用化が近づいている。政府は今秋にも導入目標や価格目標を盛り込んだ戦略を策定し、産業化を後押しする構えだ。ペロブスカイト太陽電池の実現に向けた研究開発の現状や課題、国内メーカーの動きと「次世代型太陽電池の本命」とされる理由やその仕組みを紹介する。

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「本命」の理由と事業化への課題

ペロブスカイト太陽電池は、2006年に桐蔭横浜大学の宮坂力研究室で生まれた日本発の技術だ。その特徴を一言で言えば、「原料の溶液を基板に塗って乾かす」という印刷技術で作製できる薄膜の太陽電池。フィルムやガラスを基板とし、その上に光を吸収して電気に変える半導体(ペロブスカイト)を極薄の発電層として被覆して作製する。基板にフィルムを用いると、薄くて軽く曲げられる太陽電池が実現できる。現在主流のシリコン太陽電池は、発電層に用いるシリコン(ケイ素)が割れやすい。一般に強化ガラスに貼り付け、ポリマーのシートで挟む構造のため、固くて重くなる。ペロブスカイト太陽電池はシリコン太陽電池の10分の1の重さを実現できるとされ、これまで太陽電池の設置が難しかった耐荷重の低い屋根や壁面などに設置できる。「次世代型」の所以だ。

ではなぜ本命とされるのか。最大の理由は、光を電気に変える効率(変換効率)の高さにある。米国国立再生可能エネルギー研究所(NREL)によると、ペロブスカイト太陽電池の小面積セルの変換効率は23年7月時点で26.1%。シリコン太陽電池(26.1%/23年12月時点)と同等の水準に達している。特に、13年7月時点で14.1%だったところから、わずか10年で急上昇したことが、「本命」に位置付けられる要因になった。

ペロブスカイト太陽電池の優位性としては、安価に製造できる可能性もポイントだ。ペロブスカイト太陽電池は150℃未満の低温で発電層を形成できる。シリコン太陽電池は製造過程で1000℃以上の高温環境が必要になるため、それに比べてエネルギー消費量が減らせる。また、基板にフィルムを用いると、生産効率が高いとされる、ロール状の長いフィルムを巻きだして成膜・加工するプロセス(ロール・ツー・ロール〈R2R〉)で製造できる。さらに、主要原料はヨウ素や鉛で、シリコンに比べて安価だ。薄くて軽ければ、搬送や設置に必要なコストの低減も見込める。

一方、産業化に向けて大きな課題が三つある。一つは耐久性。ペロブスカイトは水分や酸素などに弱く、劣化しやすい。二つ目は実用サイズの大面積モジュールにおける高効率化だ。研究室で作製する小面積セルは再現性高く20%以上の変換効率が実現されているものの、30cm角を超えるサイズでは20%になかなか届かない。ペロブスカイト太陽電池は溶液を塗って発電層を作製するが、大面積の場合は、その際の均質な成膜が難しいためだ。

主要原料の鉛は環境に有害で、それも問題になる。鉛の使用量を減らしたり無くしたりする研究開発が進められているが、そのハードルは高く、実用化当初は適切な管理・回収体制が不可欠になる。

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積水化学が先行、素材メーカーの技術もカギ

ペロブスカイト太陽電池の製品供給に向けて、複数の国内メーカーがそれぞれの戦略で研究開発を進めている。その中で、積水化学工業は先行する一社だ。30cm幅のフィルム型ペロブスカイト太陽電池についてR2Rで製造するプロセスをすでに確立しており、25年の事業化を目指す。同年の大阪・関西万博に提供するほか、都内で建設中の超高層ビルに1メガワット分を供給する計画を持つ。同じくフィルム型では、東芝エネルギーシステムズなどが事業化を目指す。

一方、パナソニックホールディングス(HD)はガラス型での供給を目指す。建材ガラスに発電層を形成するプロセスで製造し、建材一体型太陽電池(BIPV)として、26年に試験販売を始める計画だ。また、アイシンは厚さ0.3mmの軽量ガラスを基板に用いることで、ガラス型ながら薄くて軽い太陽電池の実現を目指す。

このほか、ペロブスカイト太陽電池と同じく有機物を発電層に用いる色素増感太陽電池を事業化したリコー、シリコン太陽電池で実績のあるカネカ京都大学発スタートアップのエネコートテクノロジーズなどが、それぞれ独自の技術を生かして事業化を目指している。

ペロブスカイト太陽電池の世界市場(『素材技術で産業化に挑む-ペロブスカイト太陽電池』より)

富士経済は、ペロブスカイト太陽電池の世界市場が40年に2兆4000億円に拡大すると予測している。その市場は積水化学やパナソニックといった完成品メーカーだけでなく、ペロブスカイト太陽電池を構成する部材を供給する素材メーカーや、それを設置・流通する企業にとっても商機になる。特に素材メーカーにはそれぞれが持つ技術によって、先に挙げた耐久性や大面積モジュールにおける高効率化という大きな課題の解決に向けた貢献が期待される。

ここで改めて、ペロブスカイト太陽電池の構成を紹介したい。フィルム型で見ていこう。大きく5つの層で構成する。透明電極、電子輸送層、ペロブスカイト層、正孔輸送層、裏面電極だ。太陽光など光のエネルギーが透明電極側からペロブスカイト層に入ると、電子と正孔(ホール)が発生し、電子は電子輸送層、正孔は正孔輸送層を通り、電極にそれぞれ移動することで、電気を生み出す。これを、封止材やバリアフィルムを用いて封止することで、耐久性を高める。つまり、封止材やバリアフィルムの性能は、ペロブスカイト太陽電池の耐久性に影響する。そのほか、5つの層に用いるそれぞれの部材(電極材や電子輸送材、正孔輸送材など)は、変換効率や耐久性、成膜のしやすさに影響する。

ペロブスカイト太陽電池の構造と仕組み(『素材技術で産業化に挑む-ペロブスカイト太陽電池』より)

ペロブスカイト太陽電池の事業化は、素材の製造やそれらを扱う技術によって課題を解決できるかがカギを握る。完成品メーカーはもちろん、素材メーカーにとっても、自社の技術を生かす舞台になる。

新刊「素材技術で産業化に挑む-ペロブスカイト太陽電池」

<販売サイト>
Amazon
Rakutenブックス
Nikkan BookStore

<書籍紹介>
次世代太陽電池の本命「ペロブスカイト太陽電池」の実用化が近づいている。その産業化のカギは、素材の製造やそれを扱う技術が握る。取材を重ねてきた著者が、ペロブスカイト太陽電池をビジネスの視点で捉えつつ、技術的解説や日本企業と世界市場の動向をまとめるとともに、ペロブスカイト太陽電池の誕生や、その実用化への舞台裏を詳らかにする。技術監修はペロブスカイト太陽電池の“生みの親”である宮坂力・桐蔭横浜大学特任教授。
著者:葭本隆太
技術監修:宮坂力
判型:A5判
総頁数:160頁
税込み価格:1,980円

<目次(一部抜粋)>
第1章 ペロブスカイト太陽電池が必要な理由
近づく事業化/国内メーカーの現在地/国際動向と日本の勝ち筋/インタビュー1:資源総合システム・貝塚泉首席研究員/コラム1:特許出願のこれまでとこれから/ドキュメント1:宇宙応用の可能性を拓いたJAXA研究員/ドキュメント2:京大発スタートアップ誕生秘話
第2章 ペロブスカイト太陽電池の仕組みを知る
太陽電池の仕組みと種類/ペロブスカイトが持つ独特の結晶構造/ペロブスカイト太陽電池の構造と材料/極薄の層を成膜する製造工程
第3章 ペロブスカイト太陽電池の素材技術を追う
国産原料「ヨウ素」の生かし方/耐久性を左右する「封止技術」/特性を決める「基板」/「電極」製造プロセスを安価に/電子・正孔を運ぶ「電子・正孔輸材」/鉛問題を考える/競争力の源泉「成膜技術」/耐久性問題に対応するもう一つの方法/コラム2:材料・工程にAI生かせ
第4章 ペロブスカイト太陽電池の舞台を整える
素材メーカーの力を生かす/需要を創出する/適切な市場を整備する/インタビュー2:産業技術総合研究所ゼロエミッション国際共同研究センター有機系太陽電池研究チーム・村上拓郎研究チーム長
スペシャルドキュメント ペロブスカイト太陽電池誕生
宮坂研とペクセル・テクノロジーズ/ペロブスカイトの研究/きっかけ/誕生/変換効率10%超/対談・ペロブスカイトと太陽電池をつないだ研究者(手島健次郎さん×小島陽広さん)
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