コロナ危機、個々人のいかなる経験も想像力も超える圧倒的な崩壊に備えよ

グラファーCEO・石井大地

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【非対面化、長期に継続か】

新型コロナウイルスの感染拡大とそれに対する対応は、1カ月、2カ月などの短期間で簡単に収束・解決し、それ以前の状態に復帰するものではないことが明白となった。徐々に判明してきたウイルスの性質や諸外国の状況を考慮に入れると、程度・強度の差はあれど、断続的な外出制限とさまざまな社会活動の非対面化を、数カ月、あるいは数年にわたり継続せざるを得ない。

この危機が短期で収束すると考えた場合の対策と、長期間続くと考えた場合の対策はまったく異なる。短期の対策としては、例えば急場の資金繰り支援で飲食店などの影響が大きい業種を支援し、感染リスクの温床になり得る混雑した役所の窓口を閉鎖する、といった、取り急ぎの対応が求められる。

しかし長期にわたって、このような状態が継続するとなれば、融資や支援金で手元資金に多少のゆとりができたとしても、飲食店などの営業継続はいずれ難しくなる。繁華街から人々が住む住宅地へ、大規模な需要の地理的なシフトが起こるであろうし、その場合に人々が欲する飲食サービスは、これまでのものとは質的にも異なる可能性が高い。

役所の窓口も、市民生活に必要不可欠なものであるから、長期にわたり閉じるわけにはいかない。といって、今までと同じような運用をするのでは、窓口での感染リスクは高止まりしたままだ。既に全国の多数の自治体で、ウイルス感染に起因する窓口の閉鎖が起きている。役所の手続きの多くを、できるだけオンラインで行えるようにしていかない限り長期的な解決にはなり得ない。

【過去に類ない不確実性】

「コロナ禍が収束したら」と人々は言うが、「今日をもって感染は収束」と言えるような明確なピリオドは永遠に来ない可能性もある。我々がハッピーエンドを待ちわびている間にも、苦境に陥った事業者は次々と廃業し、あるいは新たな業態に転換してゆく。大規模なイベントの再開は相当先になることが予想され、延期された五輪の開催すら今や不確実だ。

人類社会はいま、大規模な需要の消失と経済の構造転換を強制されている状態にある。過去に類を見ないほどの広範な失業や廃業が生じ、深刻な経済縮小が生じるだろう。

筆者は行政手続きのオンライン化を手がける会社を経営しているため、今回の危機によって表面的には事業にプラスの影響がみられる。しかし、あまりに短期間に急激に需要が増大したため、従業員にかかる体力的・精神的負荷が高まっている。需給の逼迫(ひっぱく)する小売業などにも共通する課題であり、状況は予断を許さない。

【想定超す需要増で圧迫】

ビデオ会議サービスを提供する米Zoom社は、2019年12月には1000万人であった利用者が3億人を超える規模にまで急激に成長したが、同時にさまざまなセキュリティー上の懸念・混乱に見舞われている。危機によって収益を拡大させる企業があったとしても、事態は笑顔で乗り切れるほど甘いものではないかも知れない。想定を超える激しい需要増は、その企業に巨大なストレスを与え、経営そのものを揺るがすリスクをはらむ。

しかし、前述のような事態ですら奇跡と呼べるほどの幸運だ。何より、この危機を通じてどれだけ多くの人が仕事を失い、生きがいを失うのかと考えると、背筋が凍る。我々がウイルスとの闘いに勝利しても、ウイルスは戦争賠償金を払ってくれない。幸運を自覚する者はみな、社会に何を還元するのか考えなければならない。

いま我々が直面している危機は、個々人のいかなる経験も、想像力をも超える圧倒的なものになる。もしもあなたが「あと1カ月頑張ればなんとかなる」という甘い見通しや期待を少しでも持っているのであれば、今すぐその気持ちを捨て、人類史に残る凄惨(せいさん)な経済社会の崩壊に心して備えるべきだ。

【略歴】

いしい・だいち 東大医学部に進学後、文学部に転じ11年(平23)に卒業。同年に第48回文藝賞(河出書房新社主催)を受賞し、小説家デビュー。リクルートホールディングスなどを経て17年にグラファーを創業。秋田県出身、34歳。

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