東電・川村氏「日本の“ぬるま湯”に甘えるな。今、変革せよ」

【連載#9】ポスト平成の経営者 東京電力ホールディングス会長・川村隆氏

 東京電力ホールディングスの川村隆会長は、日立製作所が2008年度に当時製造業として史上最大の当期赤字を計上した後、会長兼社長として再建に奮闘した。日本は景気拡大が続く一方、世界経済リスクがくすぶる。今こそ必要な危機対策の本質を聞いた。

※川村氏の「隆」は旧字体(右側"生"の上に"一")



今が危機対策の時


 -日立と東電の再建に携わってきました。
 「日立は次に金融危機が来れば倒産するまで状況が悪化していた。1991-08年頃まで虚弱事業の見直しをサボっていたためで、本来は企業統治や経営トップの決意で防げる。大きな反省事項だ。今、日本企業は政策で保護され、働きが悪くてもそこそこ稼げる。余裕のある時こそ、非常時を想定した体質の健全化が必要だ。そうすれば、非常時に多くの人を救えるだろう」

 -日立はITバブルが崩壊した01年度も大赤字を出しました。
 「営業赤字となり、相当に致命的だった。その時は全体で人員を減らし、痛みを薄く分け合うという手を打った。だが、弱い事業が残ったため、数年後に火を噴いた。本当の対策は、伸びない事業をちゃんと潰し、伸びる事業に資源を移すこと。今の世の中の情勢を見ると、大金融危機はどこかで来る。備えをするべきだ」

稼ぐことが企業の使命、2倍稼げ


 -再建や企業改革のポイントは何ですか。
 「経験で言えば、英国や米国など欧米の空気を吸った人間や外国人、あるいは社外を経験した人間を会社に多く入れるといい。このままでは日本はダメだと思う人間。日立の再建時はそうした。小事は『情』でいいが、倒産危機ぐらいの大事は『理』で考え、実行しなければならない。海外で働いた人間は情と理のバランスがわかる」

 -米国に比べ日本企業の稼ぐ力の弱さが指摘されています。
 「企業は稼ぎ、社会に還元することが使命。国に保護された“ぬるま湯”に浸り、甘えたまま、少ない稼ぎで社会分配も少ないのは怠慢だ。この20年、日本企業は本当の変革への挑戦が決定的に足りなかった。企業は本気でイノベーションを考え、そして今の2倍稼がなければならない。日本は健康寿命の長い良い社会のため、稼げる国になれば世界の模範になれる」

“ラストマン”は小集団から生まれる


 -東京電力で生かせた日立時代の経験は。
 「イノベーションの重要さを社内に広めている。最初は小集団活動がわかりやすい。例えば、火力発電所の定期検査の短縮を目標にすると、加工期間の短い材料への切り替えや、試運転の改善などの案が出てくる。稼働日が増えれば、長さによっては例えば数億円を稼ぐこともできる。そこでよくやった人間を『君は意思決定して結果を出した“ラストマン”だ』と褒める。小さな組織で練習すれば、大きな組織でもやれる。そんな人間が出てきている」

東京電力HD・川村隆会長

 「こういった活動を重ね、既存事業を筋肉質化している。効率化によって浮いた人員で、再生可能エネルギー発電などの新事業をやりたい。既存事業と新事業で利益を出し、国から借りた資金を返す。普通の電力会社より稼げる会社にする。そこに、自分たちで考え、意思決定しながら会社を直す企業の風土が役に立つ」

LNGは誰かが買ってくれるものじゃない


 -エネルギー問題は次の世代への大きな宿題となります。
 「エネルギー問題は日本の大問題だ。失敗すると国力を低下させる。国が政策を出す前に、もっと国民討議が必要だ。石炭や液化天然ガス(LNG)を使い続けると、未来の資源を費やすことになる。また、日本の人口減少に伴う将来の国力低下を考えると、LNGを輸入する力は減っていく。日本には多くの電力を使う工場もあるため、原子力をベースに残し、再エネの発電量の変動の大きさを火力や水力で平準化させる形は考えられるのではないか。全てのエネルギーに長所と短所がある。長所だけではなく、それぞれの短所もしっかり比較し、国民の考えを収斂(しゅうれん)させなければならない」

 -政治の力が問われそうです。
 「今、子孫にツケを回すような問題が相当ある。後回しにして、今をぬるく生きようというのは卑怯だ。政治家は民の声を聞くのが大事だと言うが、民の声をつくるのも政治家の仕事。普通の民は『LNGは誰かが買ってきてくれる』と思っているが、皆が頑張らないと続かない。政治家は皆が言う事と違っても、正しい事なら納得させなければいけない」

本気でイノベーションを


 -今後、経営層になる50代の成長に必要なことは。
 「自分で考え、自分の意思決定で稼いだ実感を持っている人間があまりいない。会社の歯車として働いてきた人が多い。その状況を変えるため、孫会社などの小さな会社の社長にして、経営を経験させるのは一つの方法だ。本当は海外の孫会社の社長をやり、厳しい経験を積んだ方がいい。最終意思決定者ではない副社長ではダメだ」

 -大手企業からベンチャー企業への転職する若者など、働き方が変わり始めました。
 「イノベーション創出の担い手として、ベンチャーに期待している。大企業だけでは、なかなか社内に波風を立てて変革することまではできない。成功した起業家の話を聞き、日本を飛び出す若者が増えてほしい。語学力よりも、本気でイノベーションをやる気概の問題だ。また、ずっと1社に勤務する働き方も変わるかもしれない。小集団でラストマンを経験すれば、プロを目指して転職や学び直しを選択する人が必ず出てくる。もっと波にもまれてほしい」

東京電力HD・川村隆会長

連載「ポスト平成の経営者」


激動の平成を支えたベテラン経営者と、今後を担う若手経営者に「ポスト平成」への提言・挑戦を聞くインタビューシリーズ
(1)キッコーマン取締役名誉会長・茂木友三郎氏「世界の情勢に乗るな。自ら需要を創り出せ」
(2)キヤノン会長兼CEO・御手洗冨士夫氏「米国流に頼るな。グローバル経営に国民性を」
(3)テラドローン社長・徳重徹氏「『世界で勝つ』は設立趣意。不確実でも踏み込め」
(4)ユーグレナ社長・出雲充氏「追い風に頼るな。ミドリムシで世界を席巻」
(5)プリファードネットワークス社長・西川徹氏「誰もが自在にロボット動かす世界をつくる」
(6)元ソニー社長・出井伸之氏「これが平成の失敗から学ぶことの全てだ」
(7)日本生命保険名誉顧問・宇野郁夫氏「経営に『徳目』取り戻せ。これが危機退ける」
(8)オリックスシニア・チェアマン・宮内義彦氏「変化を面白がれば、先頭を走っている」
(9)東京電力ホールディングス会長・川村隆氏「日本のぬるま湯に甘えるな。今、変革せよ」
(10)JXTGホールディングス会長・渡文明氏、10兆円企業の礎を築いた合併・統治の極意
(11)ダイキン工業会長・井上礼之氏「二流の戦略と一流の実行力。やっぱり人は大事にせなあかん」
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(13)パナソニック特別顧問・中村邦夫氏、次の100年へ。中興の祖が語る「改革」と守るべきもの
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(17)ispace CEO・袴田武史氏、宇宙ベンチャーの旗手が語る、宇宙業界を変える民間の力

日刊工業新聞2019年2月20日掲載から加筆

梶原 洵子

梶原 洵子
02月21日
この記事のファシリテーター

「今のぬるま湯のまま満足していたら、じりじりと悪くなる」。川村会長は何度も「ぬるま湯」という言葉を使い、強烈な危機感を口にしていました。業績が良い時に改革や変革をするのは、経営者にとって、とても勇気がいると思います。事業売却などは特に。今、日本経済は景気拡大が戦後最長となった可能性が指摘される一方、米中の貿易摩擦による先行き不透明感が増しています。何かを決断するタイミングは、もう迫られているのだと感じました。次回は、10年間に5社との合従連衡を行ったJXTGホールディングスの渡文明名誉顧問に、企業再編について聞きます。

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