日本生命・宇野氏「経営に『徳目』取り戻せ。これが危機退ける」

【連載#7】ポスト平成の経営者 日本生命保険名誉顧問・宇野郁夫氏

 日本生命保険の宇野郁夫名誉顧問は2000年前後に相次ぎ生命保険会社が破綻した“生保危機”に、徹底的に財務基盤を強化して乗り越えた。「安定的な社会をつくることが経済の基本思想」と断言する。次の時代に向けた企業と社会の関係を聞いた。

おかしな事に苦笑いはするな


 -平成30年間の変化をどう見ていますか。
 「経済界を含めて社会の秩序が乱れに乱れ、強烈な曲がり角に来ている。おかしな事が起きても皆苦笑いして、何も行動しない。ケインズやアダム・スミスを見ても、経済学は道徳に対する学問として発生した。そこを離れたのが問題の始まりだ。今こそ『徳目』を取り戻す姿勢に立たなければいけない。特に生命保険は金もうけでは続かない。30年、40年と、ずっと続くには、人や社会に尽くす長期的な視点が必要だ」

 -今、経済と道徳の関係を感じません。
 「さまざまな技術を含めた文明は中庸や節制、正義などの『徳目』をひたすら学べというギリシャ哲学の基本から成長した。10年前に亡くなった現代経済学の父であるサミュエルソンも、そう言い残した。だから経営は道徳が一番大事。これを皆で心がけ、取り戻そう。トップが言い続ければ必ずできる」

いつも孤独だった若手時代


 -バブル崩壊や失われた10年にどんな心構えで対応しましたか。
 「めちゃくちゃな状態を復興させた経営者は、『失われたではなく、取り戻した10年だ』と怒っていた。何もしない人に限って被害者の顔をするが、災害ではなく人災。リーマン・ショックも皆がやった。当社にも問題の金融商品が提案されたが、担当者が『理解できない』と断っていた。誰も自慢しないから、私も後から知った。私が何かというより、そんな作法や条理をわきまえた人が会社を長期的に発展させる」

 -そうした人をどう育成しますか。
 「背中を見せる。そして『良いところを見つけよう』と見守る。視線の温かさが人を奮い立たせる。私は日本生命に入り、酒も飲めず、マージャンもしないから、仲間に入れてもらえず、いつも孤独だった。仕事がなく干されていた時、ある上司に『この題で論文を書け』と言われた。その後、しばらくして雑誌に載っていて『これ原稿料だ』とお金の入った封筒をぽんと渡された。その後も、この人に鍛えられた。男の中の男だ。これが日本の経営の原点だ」

自社が抜きに出る唯一の方法


日本生命保険・宇野郁夫名誉顧問

 -徳目は、生保以外の業界にも関係しますか。
 「関係する。元GE経営者のジャック・ウェルチ氏は自伝で、『自分は何の能力もなくて、何の役にも立たなかったが、行き詰まった時に助けてくれる友人がいた。アドバイスしてくれるいろんな人がいた。もう一つ言えば、それが得られるだけのインテグリティを両親から受け継いだことではないか』と語っていた。インテグリティは誠実で、真面目で、胆力があって、剛毅なという意味合いがある。それがGEをあそこまでしたのだと思う」

 -少子高齢化など、解決策の見えない問題が増えています。
 「理屈をきちっと見つめ、努力すれば解決できる。その勇気を持てば、問題は問題でなくなる。社会保障などは解決してきた他国から学ぶべきだ。また、労働力を量ではなく『質』で見直せば、日本はがらっと変わる。会社経営も同じだ。先輩や同業他社から良いところを学ぶ。自社が抜きに出ようと思ったら、まともに考え、まともにぶち当たればいい。どこからやるか考えず、できる事からひたむきにやり、汗をかき通す。手品のようなことは絶対にない」
 「私も10年間実績のない企業に通い続けた。社長になってから、(実績ができたと)通知が来たのでお礼に行くと、ニコニコして『お礼なんかいらんよ。何年来てくれたんだ』と言われた。立派な人は断り続けると相手に悪いと思う。こちらが臆せずやり続ければ、その人が近づいてきてくれる」

“悪知恵”も学び、問い、学問せよ


 -人生100年時代は、どうやって生きていくのか不安もあります。
 「私は大病をしたから、神様に生かされている思いがある。高校生の時、肺結核になり、弟を亡くして次は私と言われていた。全快した時、世界が輝いて見えた。生きることは素晴らしい。何歳まで生きるかわからないけど、生きるというのは、生きたらいいんじゃないか。考えるヒマがあったら、したいことがたくさんある」

 -次の世代に伝えたいことは。
 「学んで人に問う。要するに学問せよ。私のところにも若い者が“悪知恵”を聞きに来る。というのも、仕事は狙いをどう実現するか方法論が大事だからだ。だから内心、これからに期待している。近頃の若い者はダメというのはうそ。若い人はいかに持ち上げ、自ら奮闘するように持っていくか。謙虚に食らいつき、学んでほしい」

日本生命保険・宇野郁夫名誉顧問

連載「ポスト平成の経営者」


激動の平成を支えたベテラン経営者と、今後を担う若手経営者に「ポスト平成」への提言・挑戦を聞くインタビューシリーズ
(1)キッコーマン取締役名誉会長・茂木友三郎氏「世界の情勢に乗るな。自ら需要を創り出せ」
(2)キヤノン会長兼CEO・御手洗冨士夫氏「米国流に頼るな。グローバル経営に国民性を」
(3)テラドローン社長・徳重徹氏「『世界で勝つ』は設立趣意。不確実でも踏み込め」
(4)ユーグレナ社長・出雲充氏「追い風に頼るな。ミドリムシで世界を席巻」
(5)プリファードネットワークス社長・西川徹氏「誰もが自在にロボット動かす世界をつくる」
(6)元ソニー社長・出井伸之氏「これが平成の失敗から学ぶことの全てだ」
(7)日本生命保険名誉顧問・宇野郁夫氏「経営に『徳目』取り戻せ。これが危機退ける」
(8)オリックスシニア・チェアマン・宮内義彦氏「変化を面白がれば、先頭を走っている」

日刊工業新聞2019年2月6日掲載より加筆

梶原 洵子

梶原 洵子
02月07日
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「何もしない人に限って被害者の顔をする」という言葉が響きました。哲学好きな方は物静かなイメージがありましたが、そうではありません。汗をかき通す。今まで苦境を乗り越えた何人かの経営者の方に話を聞きましたが、どうやったかの答えは驚くほどシンプルで、原理原則に従って真面目にやることでした。次回はオリックスの宮内義彦氏です。

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