次の100年へ。パナソニック中興の祖が語る「改革」と守るべきもの

【連載#13】ポスト平成の経営者 パナソニック特別顧問・中村邦夫氏

 パナソニックの中村邦夫特別顧問は2000年代初め、経営理念を除き聖域なき改革の断行で当時の経営危機を脱し、V字回復を達成した。“経営の神様”と言われる松下幸之助氏が同社を創業して100年を越えた今、厳しい環境変化の中で企業の守るべきものを聞いた。

規模を追う意味ない


 -『破壊と創造』という強い言葉で、構造改革を進めました。
 「何事も破壊する時は一番批判が高まる。1万3000人のリストラに、私は当然悩んだ。創業者の思索の場だった『真々庵』で決断したことを覚えている。社長は創業者の分身。経営理念と自分の決断は合っているのか、常に考えた。ただ、技術などは猛スピードで進化する。時には理念を乗り越え、新しいものを創る必要がある」

 -社長退任後、リーマン・ショックなどで業績は再び低迷しました。
 「私はある程度『破壊』はできたが、新事業を開発して成長する『創造』に課題を残した。独自技術に裏打ちされた強い体質を持ち、事業創造できる会社にできなかった。当時『電機メーカー10兆円の壁』という言葉もあったが、規模を追う意味はない。大事なのは強い体質だ」

幸之助さんが大好きで入社した


 -人材の流動化によって、日本企業のあり方は変わりそうです。
 「私は幸之助さんが大好きで入社した。『企業は社会の公器』と話し、無償でラジオの特許を公開するなど、常に公を念頭にした経営に、感銘を受けた。今の人は『若い時は苦労しろ』という私のような考えを嫌うかもしれないが、創業者の理念を知らずに企業活動していいのだろうか。一方、事業で成功しなければ、良い人材は集まらない。事業で成功し、理念に共鳴する真面目な人材を集め、大事にしてほしい。そういうグループにしてもらいたい」

 -雇用関係や働き方は米国流に近づくのでしょうか。
 「米国は契約社会で、個人と会社の関係はお互いに厳しい。申告した成果を達成できなければ辞めてもらう社会だ。日本は曖昧なところが良くない。上司と部下のお互いにとってもったいない。契約社会になるべきではないか。部下が年間の目標を立て、達成すれば給料を上げるという契約をする。その目標に向けて仕事をすれば、上司は不要な干渉をしなくなる。パワハラはなくなり、若い人は成長する。その上で、思いやりなどの日本的な良さを残してほしい」

厳しい環境を恐れるな


 -若手社員に期待することは。
 「若い人は他人のせいにせず、自分が頑張ってほしい。最初は言われた通りに真面目にやり、自ら進んで貢献してほしい。これが私の念願だ」
 「一方、スマートフォンに依存する人が増え、考える力の衰えが懸念される。鍛えるには読書がいい。偏らず、いろいろな本を読んでみてほしい。最近、私は幕末史を読む。若い人が日本の大きな構造改革を成し遂げた、すごい時代だったとあらためて感じる」

 -企業のビジネス変革には何が必要ですか。
 「各企業が厳しい環境を恐れず挑戦すれば、それぞれの企業の中に変革できる人材、英雄が出てくると信じている。それには苦戦した方がよく、不況になった方がいいかもしれない。当社も何度もつぶれかけ、創業者以外にも、井植歳男さんや高橋荒太郎さんなど救世主が現れた」

日本の土俵で勝負を


 -変革に向けて、経営陣などの若返りは必要でしょうか。
 「大企業も含めた企業全般において、30代や40代の人が社長をやるような時代に早くなってほしい。それくらい変わっていかなければならない」
 「私が社長に就任した00年、メールのできる携帯電話が登場して、コミュニケーションが大きく変わった。技術進化が人間社会と企業経営に極めて大きく影響した。だが、個人も組織も進化に対応できていなかった。この時、順応が早かったのは若い世代だ。この世代が力を発揮できる会社にしなければいけないと思った」

 -グーグルやアップルなどの「GAFA」と称されるIT大手の台頭で、国内電機産業は進む道を模索しています。
 「日本の電機は自信喪失気味ではないか。経営学者のピーター・ドラッカー氏は『日本人の特質は物を小さくすること』と端的に語った。要するに製造業だ。ある企業は、家庭用ビデオカメラの試作品を水に沈め、出てくる泡で小さな空隙も探すほど小型化への執念があった。この特質は今後も世界の競争に打ち勝つ。GAFAの発想は米国特有で、日本がそこで競争すれば失敗する。土俵を変えなければならない」

世界が期待するもの


 「日本の土俵は製造業だ。パナソニックはトヨタ自動車と提携し、電気自動車(EV)の時代を一緒に飛躍させようとしている。世界にない電池の品質、機能を目指す。GAFAと競争せず、日本にしかないものを生み出すべきだ。製造立国に立ち戻り、成功企業が出てくることを世界も期待している。創造には独自技術の強みに加え、奇想天外な発想も必要だろう。GAFAによる支配など、今の人は心配しすぎだ」

パナソニック特別顧問・中村邦夫氏

連載「ポスト平成の経営者」


激動の平成を支えたベテラン経営者と、今後を担う若手経営者に「ポスト平成」への提言・挑戦を聞くインタビューシリーズ
(1)キッコーマン取締役名誉会長・茂木友三郎氏「世界の情勢に乗るな。自ら需要を創り出せ」
(2)キヤノン会長兼CEO・御手洗冨士夫氏「米国流に頼るな。グローバル経営に国民性を」
(3)テラドローン社長・徳重徹氏「『世界で勝つ』は設立趣意。不確実でも踏み込め」
(4)ユーグレナ社長・出雲充氏「追い風に頼るな。ミドリムシで世界を席巻」
(5)プリファードネットワークス社長・西川徹氏「誰もが自在にロボット動かす世界をつくる」
(6)元ソニー社長・出井伸之氏「これが平成の失敗から学ぶことの全てだ」
(7)日本生命保険名誉顧問・宇野郁夫氏「経営に『徳目』取り戻せ。これが危機退ける」
(8)オリックスシニア・チェアマン・宮内義彦氏「変化を面白がれば、先頭を走っている」
(9)東京電力ホールディングス会長・川村隆氏「日本のぬるま湯に甘えるな。今、変革せよ」
(10)JXTGホールディングス会長・渡文明氏、10兆円企業の礎を築いた合併・統治の極意
(11)ダイキン工業会長・井上礼之氏「二流の戦略と一流の実行力。やっぱり人は大事にせなあかん」
(12)昭和電工最高顧問・大橋光夫氏、初の抜本的な構造改革、個人の意識改革が最も重要だった
(13)パナソニック特別顧問・中村邦夫氏、次の100年へ。中興の祖が語る「改革」と守るべきもの
(14)住友商事名誉顧問・岡素之氏、終わりなき法令遵守の決意。トップは社員と対話を
(15)セブン&アイHD名誉顧問・鈴木敏文氏、流通王が語るリーダーに必須の力
(16)WHILL CEO・杉江理氏、電動車いすの会社じゃない!「WHILLが建築をやる可能性も」と語るワケ
(17)ispace CEO・袴田武史氏、宇宙ベンチャーの旗手が語る、宇宙業界を変える民間の力

日刊工業新聞2019年3月20日掲載より加筆

梶原 洵子

梶原 洵子
03月21日
この記事のファシリテーター

「不況になった方がいい」という中村特別顧問の言葉に最初は驚きましたが、松下幸之助氏の言葉に「好況よし、不況さらによし」があるとあとで知りました。厳しい状況で製品も経営も吟味され、磨かれ、良いものはかえって成長するという意味です。松下氏は平成元年に亡くなりました。この間、日本は「失われた20年」とも「30年」とも言われましたが、その言葉を嘆く理由として使ってはいけなかったのだと感じました。

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