電動車いすの会社じゃない!「WHILLが建築をやる可能性も」と語るワケ

【連載#16】ポスト平成の経営者 WHILL最高経営責任者・杉江理氏

 WHILL(ウィル、横浜市鶴見区)のパーソナルモビリティー「ウィル」は、デザイン性の高さと新しい運転感覚で、電動車いすを『乗りたい物』に変えた。最近では自動走行により、歩道領域のラストワンマイル移動の担い手として注目される。杉江理最高経営責任者(CEO)に移動の未来を聞いた。

移動の未来


 -街でウィルを見かけ、利用が広がってきたと感じます。
 「今、累計販売は世界で1万台に届かないくらい。乗る人が増え、社内のモチベーションも上がっている。プロダクト販売では地域や対象ユーザーを拡大し、販売を加速したい。歩道領域の自動運転システムによるMaaS(乗り物のサービス化)事業は、2020年のサービス開始に向け実証実験を重ねる。例えば、空港内で目的のゲートまで人を乗せて自動走行し、無人で元の場所に戻るような利用をイメージしている」

 -従来の電動車いすとのどんな違いが、『乗りたい』と思われるポイントになったのでしょうか。
 「普通は動かないイスが動くと違和感があるため、イスに見えないことにこだわった。バイクや車と同じように運転姿勢をとれる。一方、運転操作は右手のジョイスティックで、コンピューターのマウス操作の感覚でできる。前輪タイヤは、小さな24本のタイヤを輪っか状に連ねた特殊な構造。地面に接した一部のタイヤだけが横に回転して、横移動もできるため走破性がいい」

目標は“ツルツル”の地球


 -会社の将来像は。
 「電動車いすの会社と思われているが、そうではない。『全ての人の移動を楽しくスマートにする』が当社のミッション。あたかも進む先に何の障害もない、地球を全て“ツルツル”にしたような世界を目指す。段差を平たんにしたり、避けるルートを示したり、やり方はいろいろある。もしかしたら、建築やドアを手がけるかもしれない。可能性は無限大だ」

地球が“ツルツル”なら、誰でも簡単にどこにでも行ける(WHILL提供)

 -想定される事業領域は幅広いですね。
 「13年にツルツルの地球を絵にした際は、最初は『理解不能』と言われたが、多くの人が覚えてくれた。最近のMaaSなどはイメージに近づいている。ここへ向かう過程で、当社が勝てる方法を見つけ、実行する」

放浪から起業へ


 -ビジョンを実現するチームのカギは。
 「設立当初からミッション起点の組織ということが良かった。私はSNS(参加型交流サイト)もあまりやらず、個人としての情報発信力はない。ミッションやプロダクトに共感して人が集まってくれる。ベンチャーにとって資金調達は常に課題となるが、チームと市場性、時流に乗ったことで達成した。創業者は私を含め3人。製品を作れて、やめそうにないチームだ」

 -起業する前、仕事をしながら世界を放浪していたそうですね。
 「中国語を話せたらいいなと思い、最初は中国へ行った。『生きることは何だろう』と思って放浪していた。その答えは見つからなかったが、たまたま出会いがあって、ウィルというやることが見つかった」

「本気で作らないならやめろ」


 -車いすユーザーの『100メートル先のコンビニに行くのも諦める』という言葉から、ウィルを開発したエピソードが印象的です。
 「週末に一緒にモノづくり仲間同士で制作し、11年の東京モーターショーに出展したコンセプトモデルは世界中から好評を得た。だが、ある一人の車いすユーザーから『買えないものを見せるのは残酷だ。本気で作らないならやめろ』と怒られた。本当に言われた通りで、大企業の新事業開発なども世に出ないものが多い。『そういうのはやめよう』とメンバーと話し、量産して皆が買えるようにするため、会社を立ち上げた」

WHILLの杉江理CEO

 -起業を決意することに、心理的なハードルはありませんでしたか。
「当時の私は“ニート”みたいなものだったので、特に迷わなかった。起業で生活が変わるわけではない。それまでの延長線の感覚で起業した。その後、他の2人の創業者も会社を辞めて、ウィルに加わった」

やれる場所を見つけて


 -量産までには、どんな苦労がありましたか。
 「最初にプロダクトを購入してくれる人を5人探し、その人たち向けのプロダクトを作りながら仕様を固めていった。この段階が大変だった。使ってもらえばもらうほど、他の課題が見えてくる。日本での50台の組み立て、台湾での500台の量産も、それぞれ違う難しさがあった」

 -起業家志望の人に伝えたいことは。
 「やりたいことがあれば、柔軟な思考回路で、それをやれる場所を見つけてやるといい。日本に限らない。当社は投資家がいたから、米シリコンバレーに行った。始めると、予想してなかったことがいろいろある」
 「ウィルを出て起業した人もいる。最初から起業しようと思っていたかはわからないが、今の段階はウィルで学べることが多い。そういう人が出てくるのはいいことだと思う」

連載「ポスト平成の経営者」


激動の平成を支えたベテラン経営者と、今後を担う若手経営者に「ポスト平成」への提言・挑戦を聞くインタビューシリーズ
(1)キッコーマン取締役名誉会長・茂木友三郎氏「世界の情勢に乗るな。自ら需要を創り出せ」
(2)キヤノン会長兼CEO・御手洗冨士夫氏「米国流に頼るな。グローバル経営に国民性を」
(3)テラドローン社長・徳重徹氏「『世界で勝つ』は設立趣意。不確実でも踏み込め」
(4)ユーグレナ社長・出雲充氏「追い風に頼るな。ミドリムシで世界を席巻」
(5)プリファードネットワークス社長・西川徹氏「誰もが自在にロボット動かす世界をつくる」
(6)元ソニー社長・出井伸之氏「これが平成の失敗から学ぶことの全てだ」
(7)日本生命保険名誉顧問・宇野郁夫氏「経営に『徳目』取り戻せ。これが危機退ける」
(8)オリックスシニア・チェアマン・宮内義彦氏「変化を面白がれば、先頭を走っている」
(9)東京電力ホールディングス会長・川村隆氏「日本のぬるま湯に甘えるな。今、変革せよ」
(10)JXTGホールディングス会長・渡文明氏、10兆円企業の礎を築いた合併・統治の極意
(11)ダイキン工業会長・井上礼之氏「二流の戦略と一流の実行力。やっぱり人は大事にせなあかん」
(12)昭和電工最高顧問・大橋光夫氏、初の抜本的な構造改革、個人の意識改革が最も重要だった
(13)パナソニック特別顧問・中村邦夫氏、次の100年へ。中興の祖が語る「改革」と守るべきもの
(14)住友商事名誉顧問・岡素之氏、終わりなき法令遵守の決意。トップは社員と対話を
(15)セブン&アイHD名誉顧問・鈴木敏文氏、流通王が語るリーダーに必須の力
(16)WHILL CEO・杉江理氏、電動車いすの会社じゃない!「WHILLが建築をやる可能性も」と語るワケ
(17)ispace CEO・袴田武史氏、宇宙ベンチャーの旗手が語る、宇宙業界を変える民間の力

日刊工業新聞2019年4月17日掲載より加筆

梶原 洵子

梶原 洵子
04月18日
この記事のファシリテーター

ウィルに乗ってみると、初めてでも思い通りに動けました。植木鉢の周りもくるっと回ってキュッと止まれるので、自分の体の延長のように感じて、どこにでも行けそうな気になります。ただ、実際は屋内も屋外も段差やドアがたくさんあり、モビリティーだけでは自由には動けません。“ツルツルの地球”はインパクトのあるビジョンなので、いろいろな企業や人が共有して、実現に向けて協力できればいいと思います。余談ですが、某マンガに出てくる、超一流のおじいさんパイロットが乗っていた“バギー”みたいだと思いました。

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