東電新会長・川村氏が語る国や企業が朽ちる最大の理由
第二次世界大戦の敗因「方向を転換するたった1人の大リーダーがいなかった」
一番最近に読んだのが、リンダ・グラットンさんの『未来企業 レジリエンスの経営とリーダーシップ』。これまで資本主義の駒として企業は社会を繁栄させてきたが、資源の搾取や環境破壊、格差拡大を助長させてきたことも事実で、これからは繁栄の担い手だけではなく、世界の課題に向き合う必要性が強調されている。
ちょうど日立製作所も「稼ぐ力」が戻ってきて、自社の置かれている状況と、本の内容が重なり興味深く読んだ。従来は中流層以上をベースにビジネスをしてきたが、日立としても貧困問題などに対し、どのような事業を提供できるかを真剣に考えないといけない。
アジアでは貧困問題は少しずつ解決していく方向にあると思う。問題はアフリカ。そして資源があるのに平均寿命が下がっているロシアは、もう工業立国として世界を引っ張る力がない。国の盛衰を考えるうえで、地政学に興味があり、『100年予測』(ジョージ・フリードマン著)は、100年後の世界を、まさに見てきたかのように面白く書いてある。
フリードマン氏によれば、日本はやっぱりアジアの「大国」として生き延びようとし、中国は国が大き過ぎるために衰退すると予測しているが、過去の歴史を振り返ると、ローマ帝国は1200年、ベネチア共和国は1000年続いた。日本は明治維新からまだ150年もたっていない。急成長した国家は多くあるが、ローマ帝国のように安定成長に移行し、それを維持し続けるのは難しく、それを企業の時間軸に当てはめてみるとどうだろうか。
ゼネラル・モーターズ(GM)は創立100年の年に経営破たんし、日立も99年目に巨額赤字を出した。私が社長だった時はGMの衰退過程をすごく意識したが、本当の非常事態に、トップを任せられる人間を3人ぐらいは用意しておいた方がいい。
日本が第二次世界大戦になぜ突っ走ってしまったのか。『敗戦真相記』は、“大リーダー”が10年にわたっていなかったことだと結論付けている。日常の仕事をきっちりこなす優秀な文官はたくさんいたし、国力を比較する情報も入ってきていたはず。方向を転換するたった1人の大物がいなかった。次に危機が訪れる場面では強いリーダーが必要で、多様性のある社会から、そのような人材は出てくると思う。日本は貿易でしか生きていけない。自由協調路線は絶対守るべきだ。
【余滴】
会長時代の2年前に自身が執筆した短編コラムの冊子を作り、関係者だけに配った。タイトルは「一俗六仙」。仕事が俗、趣味が仙。会社人生で長く六俗一仙の一週間を送ってきたが、逆転する生活をしたいという願望からだ。相談役になって、少し近づいたかもしれない。死ぬまでにあと何冊の本が読めるかいつも逆算していて、「トム・ソーヤの冒険」など児童文学の本編も面白そうだという。冊子の最後の一文は「老いて学べば死して朽ちず」である。
(文=明豊)
東京電力ホールディングスの会長就任が内定した川村隆元日立製作所会長(77)、新社長となる小早川智明取締役(53)が都内で記者会見を開いた。日立の業績を回復させた力量を買われた川村氏は「福島復興への責任を果たすことと事業成長は不可欠」との認識を示した。小早川氏は「非連続の改革に挑戦し、日本のエネルギーに貢献したい」と語った。
6月末の株主総会後の取締役会を経て新経営体制が発足。川村氏は今回、世耕弘成経済産業相から「難題だけど、企業を回復させたやり方を東電でもやってほしい。日本のエネルギー産業に大切だ」と説得されたという。「だいぶ長い時間をかけて考えた。若い経営者の経験不足を補おうと思い、引き受けた」と明かした。
小早川氏は自由化が進む電力小売り事業を切り盛りし、他社との提携を進めた柔軟な経営手腕の持ち主。「社会からの要望を聞くことで得たことが財産」とし、新事業拡大に意欲をみせた。
経産省の東電改革委員会では、他電力との事業統合が提言されている。川村氏は、中部電力と合意した火力事業の統合を念頭に「従来とは違う分野を核とした統合があるだろう」と語った。
ちょうど日立製作所も「稼ぐ力」が戻ってきて、自社の置かれている状況と、本の内容が重なり興味深く読んだ。従来は中流層以上をベースにビジネスをしてきたが、日立としても貧困問題などに対し、どのような事業を提供できるかを真剣に考えないといけない。
アジアでは貧困問題は少しずつ解決していく方向にあると思う。問題はアフリカ。そして資源があるのに平均寿命が下がっているロシアは、もう工業立国として世界を引っ張る力がない。国の盛衰を考えるうえで、地政学に興味があり、『100年予測』(ジョージ・フリードマン著)は、100年後の世界を、まさに見てきたかのように面白く書いてある。
フリードマン氏によれば、日本はやっぱりアジアの「大国」として生き延びようとし、中国は国が大き過ぎるために衰退すると予測しているが、過去の歴史を振り返ると、ローマ帝国は1200年、ベネチア共和国は1000年続いた。日本は明治維新からまだ150年もたっていない。急成長した国家は多くあるが、ローマ帝国のように安定成長に移行し、それを維持し続けるのは難しく、それを企業の時間軸に当てはめてみるとどうだろうか。
ゼネラル・モーターズ(GM)は創立100年の年に経営破たんし、日立も99年目に巨額赤字を出した。私が社長だった時はGMの衰退過程をすごく意識したが、本当の非常事態に、トップを任せられる人間を3人ぐらいは用意しておいた方がいい。
日本が第二次世界大戦になぜ突っ走ってしまったのか。『敗戦真相記』は、“大リーダー”が10年にわたっていなかったことだと結論付けている。日常の仕事をきっちりこなす優秀な文官はたくさんいたし、国力を比較する情報も入ってきていたはず。方向を転換するたった1人の大物がいなかった。次に危機が訪れる場面では強いリーダーが必要で、多様性のある社会から、そのような人材は出てくると思う。日本は貿易でしか生きていけない。自由協調路線は絶対守るべきだ。
【余滴】
会長時代の2年前に自身が執筆した短編コラムの冊子を作り、関係者だけに配った。タイトルは「一俗六仙」。仕事が俗、趣味が仙。会社人生で長く六俗一仙の一週間を送ってきたが、逆転する生活をしたいという願望からだ。相談役になって、少し近づいたかもしれない。死ぬまでにあと何冊の本が読めるかいつも逆算していて、「トム・ソーヤの冒険」など児童文学の本編も面白そうだという。冊子の最後の一文は「老いて学べば死して朽ちず」である。
(文=明豊)
日刊工業新聞2014年11月17日「書窓」より
「若い経営者の経験不足を補おうと思い、引き受けた」
東京電力ホールディングスの会長就任が内定した川村隆元日立製作所会長(77)、新社長となる小早川智明取締役(53)が都内で記者会見を開いた。日立の業績を回復させた力量を買われた川村氏は「福島復興への責任を果たすことと事業成長は不可欠」との認識を示した。小早川氏は「非連続の改革に挑戦し、日本のエネルギーに貢献したい」と語った。
6月末の株主総会後の取締役会を経て新経営体制が発足。川村氏は今回、世耕弘成経済産業相から「難題だけど、企業を回復させたやり方を東電でもやってほしい。日本のエネルギー産業に大切だ」と説得されたという。「だいぶ長い時間をかけて考えた。若い経営者の経験不足を補おうと思い、引き受けた」と明かした。
小早川氏は自由化が進む電力小売り事業を切り盛りし、他社との提携を進めた柔軟な経営手腕の持ち主。「社会からの要望を聞くことで得たことが財産」とし、新事業拡大に意欲をみせた。
経産省の東電改革委員会では、他電力との事業統合が提言されている。川村氏は、中部電力と合意した火力事業の統合を念頭に「従来とは違う分野を核とした統合があるだろう」と語った。
日刊工業新聞2017年4月4日