元ソニー社長・出井氏、これが平成の失敗から学ぶことの全てだ

【連載#6】ポスト平成の経営者 クオンタムリープ代表取締役・出井伸之氏

 日本の電機産業は平成の半ばに加速したIT化の波に乗れず、競争に敗れた。この変化の中でソニー社長・会長を務めた出井伸之氏は、現在クオンタムリープ代表取締役として、次世代リーダーらを支援する。新しい産業が興る今、過去をどう生かせるのか聞いた。

今や“電機産業”ではない


 -電機産業の敗北から見えてきたことは。
 「日本は、テレビ生産などで欧米の民生電子機器産業を圧倒したが、資本集約型産業の半導体メモリーなどでは韓国に負け、パソコンなどの低付加価値大量生産では中国に圧倒された。しかし、その中国も今アジア新興国らの台頭を恐れる。まるで川の流れのように変化し続けている」

「さらにインターネット革命が起き、モノからネットのデータ価値を生かした新産業のプラットフォーマー時代には日本は完全に乗り遅れた。今や電機産業というカテゴリーでは区分できないような新しい産業が生まれている。しかし、次のパラダイムではまた、新しい産業が生まれるだろう」

 -ネット社会を次の段階へ進める技術革新が起きています。
 「今はネット革命と次の変化の中間にある。日本にグーグルなどのようなプラットフォーマーが生まれなかった理由と、『プラットフォーマーが次世代の技術でどう変わるか』を、今こそ多くの人が考えてほしい。10年後には必ず出てきている。そして官はその変化を奨励するルールをつくる。これが平成の失敗から学ぶことの全てだ」

目につかない変化を見よ


 -ソニーの経営者時代、IT化に合わせて企業を変えようとしてきました。なかなか変わらなかった理由は。
 「企業を変えるには10年くらいかかる。すぐに変わるとは思ってなかった。だから『デジタルドリームキッズ』という言葉で方向を示した。技術に夢を持ち、お客さんは子どものように目をキラキラさせた人。それに向けて変わろうと呼びかけた。日本で起きる変化は2通りあって、明治維新や第二次世界大戦後のような急激な変化と、ゆっくりした変化だ。これが混ざり合い、いろいろな変化が起きる。技術による変化は徐々に進む」

 「例えば、テレビもネットと融合し、変わり始めた。テレビをテレビと思っている人は気づかない。キッコーマンは、容器を変えたことでしょうゆビジネスをガラッと変えた。目につかない変革の影響は実は大きい。何事にも好奇心を持つことが重要だ」

 

日本を変える


 -人工知能(AI)やブロックチェーンなどへの期待は。
 「新しい技術は日本を変える良いチャンス。最後のチャンスかもしれない。日本は今、若い人が一生懸命勉強している。世界的な競争力も悪くない。蓄積を大事にしながら次へ挑戦する大企業と、ゼロベースで事業開発する起業家の両方の流れがいる。日本は過去を反省し、新しいビジネスを創らなければならない」

 -日本では新ビジネスが生まれにくいように見えます。
 「オープンイノベーションをもっと大きくやるべきだ。日本には研究開発投資は多いが、研究員が自社の研究所内にいて閉鎖的なため効率が悪い。米国ではIBMやGEを除き、大学とのコラボレーションが当たり前。大学周辺に関連技術を持つ各社の研究員が集まり、街全体が研究所のような場所もある。オランダのASMLが半導体露光装置で日本企業に勝ったのもコラボがあったからこそ。江戸時代の藩のように1社でやる時代は終わってきた」

今は個の時代、横で協力を


 -大学との関係など、産業界以外も変わる必要がありますね。
 「今、日本は教育や農業など、何からかにから変えなければならない時だ。例えば、ビジネスには数学が必要なのに、教育は過度に文系と理系を分けている。農業は一生懸命おいしい作物を作っても、農協で値段が決められる。それに官庁の区分けはもっと効率的にならないだろうか。外国から受け入れる労働者は年々増加している。10年先に必要なのはどういった人材だろうか。すぐに変わるものではないが、今がんばらなければならない。チャンスは目の前にある。政治家には日本の将来を考え、ビジョンを持ってほしい」

 -日本でも起業家による産業創出が期待されます。
 「技術系の起業家が増え、今までにない動きが出てきた。これをクオンタムリープで加速させたい。今は個の時代だ。個人で影響のある人を集めるのがいいだろう。皆が横で協力し合えば、ムーブメントになる。若者の起業などへの期待は大きいが、新しいことをやりたい、知りたいという意欲を持つことに年齢は関係ない。皆も冒険しよう」

 


連載「ポスト平成の経営者」


激動の平成を支えたベテラン経営者と、今後を担う若手経営者に「ポスト平成」への提言・挑戦を聞くインタビューシリーズ
(1)キッコーマン取締役名誉会長・茂木友三郎氏「世界の情勢に乗るな。自ら需要を創り出せ」
(2)キヤノン会長兼CEO・御手洗冨士夫氏「米国流に頼るな。グローバル経営に国民性を」
(3)テラドローン社長・徳重徹氏「『世界で勝つ』は設立趣意。不確実でも踏み込め」
(4)ユーグレナ社長・出雲充氏「追い風に頼るな。ミドリムシで世界を席巻」
(5)プリファードネットワークス社長・西川徹氏「誰もが自在にロボット動かす世界をつくる」
(6)元ソニー社長・出井伸之氏「これが平成の失敗から学ぶことの全てだ」
(7)日本生命保険名誉顧問・宇野郁夫氏「経営に『徳目』取り戻せ。これが危機退ける」
(8)オリックスシニア・チェアマン・宮内義彦氏「変化を面白がれば、先頭を走っている」

日刊工業新聞2019年1月16日掲載から加筆・修正

梶原 洵子

梶原 洵子
01月17日
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今回の取材にあたり、いろんな記事を読み返しました。印象に残ったのは、ソニー社長時代の2000年の、「1億人と新たな顧客関係を結びたい」というコメント。今、トヨタ自動車がつながるクルマによって変わろうとする姿と重なります。当時はインターネット革命の真っ只中。電機産業の変わり目。あらためて、今も大きな節目にあるのだと再認識しました。

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