セブン&アイ・鈴木敏文氏、流通王が語るリーダーに必須の力

【連載#15】ポスト平成の経営者 セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問・鈴木敏文氏

 コンビニエンスストア「セブン―イレブン」の創業や、流通業界初の銀行「セブン銀行」の設立。日本の流通業界に数々の革命を起こしたセブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文名誉顧問に、市場を変える新しい発想について聞いた。

数々の革命を起こせた理由


 -コンビニの創業をはじめ、数多くの“国内初”や“業界初”を実現しました。
 「社内も流通業界の大物も、スーパーマーケット全盛期に小さなコンビニは成り立たないと反対した。だが、いつまでも続くものはない。小規模店が時代の変化に対応できていないだけだと考え、コンビニで生産性を高めた。私は長く流通業界にいるが、現場は経験していない。いつも常に客観的に、世の中は常に変わると見ていた。変化にショックを受けたこともない」

 -新しい発想を生むには何が必要ですか。
 「難しいことは考えてない。あれば便利だから工夫して実現した。現在のセブン銀行は、時間を気にせず現金を出し入れできたら喜ばれると思った。過去の成功や経験にとらわれると発想できない。プロはそうなりがちだ。『雨が降れば傘をさす』のと同じで、世の中が変わるのは当たり前。その変化を捉え、困り事を見つけ、常に挑戦する意欲を持つことが重要だ」

変化はネットで終わりじゃない


 -ネット通販が拡大してきた今の小売業界をどう見ていますか。
 「私は現役時代の最後に『オムニチャネル戦略』を始めたが、ネットは手段で、重要なのは商品開発だ。スーパーなどの既存の小売店は、どの店も同じ商品を販売しているため、飽和状態になって沈滞した。自主マーチャンダイジング(商品企画、MD)を行い、自分たちの力で差別化しなかったからだ。最初に自主MDを行ったのはセブン―イレブンだった。衣料品では『ユニクロ』、家具では『ニトリ』。いずれも自主的に差別化した企業が残っている」

 -平成の時代の国内産業界を振り返ると、電機や出版業の衰退が顕著でした。
 「新しいものを生み出さなければ、衰退するのは当たり前だ。従来のものは、いずれ全て成長が止まる。ただ、時代の変化に挑戦すれば、また状況は変わる。例えば、雑誌や新聞などの活字媒体はガタガタきて、今はネットと騒いでいるが、これで終わりではない。次に受け手がどう変わるか考え、そこに対する手を打つ。5-10年後、人工知能(AI)やITで世の中は更に変わる。どう変わるのかを考え、現在は何をするべきかを考えるといい」

リーダーに必須の力


鈴木敏文氏

 -これからの時代の経営トップの条件は。
 「どんな業種であれ、トップがきちっと先を見て決断し、それを徹底できなければ、企業は衰退する。自分で発想できる人間でなければ、新しい時代のリーダーにはなりえない。ビッグデータやコンサルタントの助言は過去の話。人に頼ってはいけない。自分で発想できないなら、トップになってはいけない」

 -発想のために普段から続けてきたことはありますか。
 「私は勉強家でも何でもないが、出社時には車のラジオをつけたままにしていた。出てきたいろいろな話を何となしに頭の中に置いておく。何かを学ぼうと思って聴くのではない。雑誌や出版物で読んだ内容もそうだ。すると、何かに挑戦しようとした時、それをもとに発想できる」
 「不況は発想するチャンスだ。何かが欠けた状態の方が、それを埋めようと工夫し、努力する」

どう仕事と向き合うべきか


 -日本でも転職が簡単になり、働き方の選択肢が増えました。鈴木名誉顧問も出版業界のトーハンから流通業界へ転身しましたが、今、仕事との向き合い方についてどのように考えていますか。
 「私は流通業界に興味はなかった。番組制作プロダクションを立ち上げるためトーハンを辞め、ヨーカ堂にプロダクションのスポンサーになってもらうため一時期の手伝いのつもりで入社した。入ってみると話が違い、転職も考えたが、トーハンを辞める時に散々反対されたため『そら見たことか』と言われるのが癪(しゃく)で居着いた」
「私にとって、仕事は給料を得ると同時に、自分の発想を生かす場。目の前のことに挑戦すれば、思わぬところからもやりがいは出てくる。今の仕事を越えるものを見いだせるなら転職もいいが、今の仕事で挑戦もせず、うまくいかないから辞めるのはよくない」

 -独立して、自分の会社で自分の発想を実現するという考えはなかったのですか。
 「ヨーカ堂では人事として社員の満足を考え、セブン―イレブンではコンビニオーナーの生活を考えてきた。自分のことは二の次、三の次だった。学生に『ウチの会社に来て』と言ったのに、私が辞めたら無責任だろう。伊藤雅俊名誉会長との相性もよかった。そうでなければ何十年も一緒にやってこれない」

若者よ、全ては挑戦だ


 -若い世代に引き継いでほしいことは。
 「全ては挑戦だ。この山を越したら、次の山が見える。それを越そうと思って私はやってきた。誰かに頼まれたわけでも、命令されたわけでもない。これが生きがいだ。日本人の多くは、まねすることが勉強だと思っているが、まねでは二番手や三番手にしかなれない。皆が新しいことに挑戦すれば、日本はより豊かな国になる」

鈴木敏文氏

連載「ポスト平成の経営者」


激動の平成を支えたベテラン経営者と、今後を担う若手経営者に「ポスト平成」への提言・挑戦を聞くインタビューシリーズ
(1)キッコーマン取締役名誉会長・茂木友三郎氏「世界の情勢に乗るな。自ら需要を創り出せ」
(2)キヤノン会長兼CEO・御手洗冨士夫氏「米国流に頼るな。グローバル経営に国民性を」
(3)テラドローン社長・徳重徹氏「『世界で勝つ』は設立趣意。不確実でも踏み込め」
(4)ユーグレナ社長・出雲充氏「追い風に頼るな。ミドリムシで世界を席巻」
(5)プリファードネットワークス社長・西川徹氏「誰もが自在にロボット動かす世界をつくる」
(6)元ソニー社長・出井伸之氏「これが平成の失敗から学ぶことの全てだ」
(7)日本生命保険名誉顧問・宇野郁夫氏「経営に『徳目』取り戻せ。これが危機退ける」
(8)オリックスシニア・チェアマン・宮内義彦氏「変化を面白がれば、先頭を走っている」
(9)東京電力ホールディングス会長・川村隆氏「日本のぬるま湯に甘えるな。今、変革せよ」
(10)JXTGホールディングス会長・渡文明氏、10兆円企業の礎を築いた合併・統治の極意
(11)ダイキン工業会長・井上礼之氏「二流の戦略と一流の実行力。やっぱり人は大事にせなあかん」
(12)昭和電工最高顧問・大橋光夫氏、初の抜本的な構造改革、個人の意識改革が最も重要だった
(13)パナソニック特別顧問・中村邦夫氏、次の100年へ。中興の祖が語る「改革」と守るべきもの
(14)住友商事名誉顧問・岡素之氏、終わりなき法令遵守の決意。トップは社員と対話を
(15)セブン&アイHD名誉顧問・鈴木敏文氏、流通王が語るリーダーに必須の力
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(17)ispace CEO・袴田武史氏、宇宙ベンチャーの旗手が語る、宇宙業界を変える民間の力

日刊工業新聞2019年4月10日掲載より加筆

梶原 洵子

梶原 洵子
04月11日
この記事のファシリテーター

素直に「あったらいいな」と思えるものを、工夫して、努力して実現してきた。鈴木名誉顧問の成功を言葉にすると、とてもシンプルです。これは、連載初回のキッコーマンの茂木名誉会長の話にも一致します。聞けば聞くほど、難しく感じてしまうのですが、取材中に「理屈ばっかりで考えてはダメ」とも言われました。「何かをやってやろう」という意欲を持ちながら、自然体でアンテナをはって、これからの変化を見ていきたいと思いました。これも文章にすると、とても簡単そうなのですが。

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