キヤノン・御手洗氏「米国流に頼るな。グローバル経営に国民性を」

【連載#2】ポスト平成の経営者 キヤノン会長兼CEO・御手洗冨士夫氏

 次の時代もモノづくりは日本の強みとして残せるのか。産業界の中でも国内生産にこだわる、デジタルカメラ・複合機大手キヤノンの御手洗冨士夫会長兼最高経営責任者(CEO)に話を聞いた。

流動性の低い社会でこその合理性がある


 -日本でモノづくりをする強みは何ですか。
 「日本は現場の改善力が高いが、それだけが理由ではない。強み弱みの前提なしに、雇用確保を一番に考えた結果が日本のモノづくりだ。雇用確保は私の経営者としての命題。経営で一番大事だと思っている。当社を日本に残す信念のもと、徹底的にコストダウンを追求した。結果として強みがより強くなった。次の時代もこの強みは生かせるし、生かしていく」

 -長期雇用の考えに対し、今は人材の流動性が注目されています。
 「商品がグローバルなITや金融業界は、国際的な流動性が高いのが自然だ。だが、製造業、特にモノづくりは蓄積が重要なため、長期雇用に結びつく。十把一絡げにはできない。良い悪いでもない。何より、経営はその国の国民の持つ文化や考え方に沿うことが一番合理的だと、私は思う。日本は島国で流動性が少ない社会。一部の業種は異なるが、大多数は終身雇用で落ち着いて生涯を暮らしたいと思っている。私は大多数の考えに棹さし、土台を置き、経営したい」

全てに良い“シャングリラ”はない


 「会社というのは、どこの国でも社員は国民。キヤノンは日本国民をキヤノンという枠で囲って存在している。米国のGEもそう。だから、その国の文化や考え方、行動形式にそって成り立つ。宗教を重んずる国では、それに沿わなければうまくいかない。終身雇用も、流動性社会も、良い面と悪い面がある。完璧に全て良い“シャングリラ”は世の中にはない。フィットしてるか、してないかが問題だ。中国には中国国営企業の経営スタイルがある。米国流経営が全てではない。米国流が世界に広がっても、私は違う。形だけ真似ても社会にフィットしなければ成功しない。経営の多様性を認めるべきだ」

 -人工知能(AI)の進化は雇用を奪いませんか。
 「今、当社はAIなどを入れて工場の無人化を進め、どんどん人を余らせている。社内の学校に入れ、ソフトや機械設計分野に転職させるためだ。長寿で少子高齢化が進む日本は、技術が変われば人を教育し、新しい産業に振り向けることが合う。雇用を守っても、会社を古くさくしない。人によるが、50歳を過ぎても新しい事をやれる。会社は投下資本の拡大再生産の機関であり、機関士は人。上も下もそれをどう養成し、いかにうまく動かすかが重要だ」

 「キヤノンはそうやって、自社技術を使い、新しいものを求めて多角化してきた。失敗したものもたくさんある。今結果として、多くの事業を持ち、根っこではつながっている」

グローバル化の功罪


 

 -平成の約30年間はバブル崩壊やリーマン・ショック、巨大地震など、経営に打撃を与える変化が相次ぎました。
 「キヤノンは、キャッシュフロー経営で常に財務体質の強化を堅持し、それを乗り越えてきた。リーマン・ショックは無借金だったので、会社には何の関係もなかった。一方、平成の間に、ITによるイノベーションが社会や人間の生活を大きく変え、その変化に対して日本は遅れた。もう一つの大きな変化であるグローバリゼーションによって、ヒト・モノ・カネが自由自在に動くようになり、世界中を潤した。だが、それによる犠牲も出た」

 -英国の欧州連合(EU)離脱など、グローバル化に逆行する動きが出てきました。
 「グローバル化には矛盾や副作用もあり、平成の終わりに急激に顕在化してきた。だが、私の希望も含めて、グローバル化は止まらない。国際政治で矛盾を再調整し、良い形で続ける努力を人類は迫られている。次の時代への課題だ」

堂々と先へ進め


 -グローバル経営の要諦は。
 「各国の文化や考え方に沿う、多様性を重視した経営が一番合理的だ。米国的な合理主義が全てではない。国際人は無国籍人ではない。その国で持って生まれた、血となり肉となる文化があって、知識として他の国の文化を知っている。その国に行けばその国の人間として働き、日本に帰れば日本人として生活する。そうなると、自ずと経営は人がしているんだから、国際企業のあり方はわかる」

 「経営の仕方や組織のあり方、人の扱い方は(買収した企業に)日本流を押し付けないが、技術はインターナショナル。どんどん技術共有をしていく」

 -若者に何を引き継いでほしいですか。
 「今後もやっぱりグローバル化は続く。日本は島国で、異民族との接触もなく、同一民族同一言語で人は育つ。だから、文化も宗教も色んな意味で多様性を学び、身に付けてほしい。急成長する諸外国に勢いはある。悪いところを反省して直すのは当たり前だが、劣等感は全く必要はない。横行している自虐的な考え方はよくない。日本は戦後それ以上の成長を遂げた。私の時には完成しないと思うが、キヤノンは次に目指す姿として日米欧の3極体制を定めている。みな堂々と、その先をやるべきだ」
 

連載「ポスト平成の経営者」


激動の平成を支えたベテラン経営者と、今後を担う若手経営者に「ポスト平成」への提言・挑戦を聞くインタビューシリーズ
(1)キッコーマン取締役名誉会長・茂木友三郎氏「世界の情勢に乗るな。自ら需要を創り出せ」
(2)キヤノン会長兼CEO・御手洗冨士夫氏「米国流に頼るな。グローバル経営に国民性を」
(3)テラドローン社長・徳重徹氏「『世界で勝つ』は設立趣意。不確実でも踏み込め

日刊工業新聞2018年12月5日掲載から加筆・修正

梶原 洵子

梶原 洵子
12月06日
この記事のファシリテーター

御手洗会長が合理主義について国民性をベースに考えていたことを、過去2年間キヤノンの取材を担当して、初めて知りました。御手洗会長は米国勤務が長いため、かなりイメージと違い、驚きました。たしかに米国から入ってきた委員会制度がうまく機能してない日本企業もあります。失敗した企業ばかり注目されるので、そこだけ見るのは公平ではありませんが、視点を変えれば日本に合うガバナンスも考えられそうです。次回予定は13日、テラドローンの徳重徹社長です。なぜ“メガベンチャー”という大きな目標へ邁進するのか。今の日本にもとんでもないことを目指す人がいます。ご期待ください。

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