素材メーカーの研究開発、コロナ禍で直面した限界と新たな可能性
新型コロナウイルス感染症は素材の研究開発にも影響を及ぼした。感染拡大防止の観点から、海外拠点や他の企業、研究機関などとの交流がしにくい状況だ。研究開発の一部は延期や、オンラインや在宅での実施を余儀なくされた。
ただそれにも限界がある。「特に実験は出社しなければできない。ある程度の個人の努力と犠牲の上で成果を得ている点に関しては、感謝と申し訳ないという思いしかない」と、ある化学メーカーの首脳は打ち明ける。
一方で社内外の交流を促進し次の開発につなげるための仕掛け作りは進んでいる。積水化学工業は高機能プラスチックスカンパニーの主要研究開発拠点である開発研究所(大阪府島本町)に、オープンイノベーションの拠点を設けた。顧客との試作などに向けた実験設備や打ち合わせ場所のほか、社員が気軽に対話できるスペースを随所に設置した。
住友ベークライトは青果物の鮮度保持フィルムに関するオープンラボを11月に拡充。来場者が過去の実験結果を確認できるモニターや、オンラインでの商談や開発向けのカメラなどを設けた。「リモートとフェースツーフェースの手段をともに活用することで、さらに情報発信していきたい」(田中厚フィルム・シート営業本部長)と意気込む。
コロナ禍をきっかけにオンラインツールが普及したことで、遠隔地の研究者や顧客との打ち合わせはしやすくなった。ただ素材に触れる必要があったり、秘密保持の面でリモートでは難しかったりといった案件も多い。
別の化学メーカー首脳は「新型コロナは一過性。研究開発は続けなければならない。リモートで可能なことには限界があるため、しっかりと感染対策をしていく」と強調する。足元の業績は苦戦している企業が多いが、各社ともアフターコロナを見据えた事業の種まきには、前向きな姿勢を崩さない。オンラインなども活用しつつ、新しい研究開発の動きが進むかが新年の焦点になる。