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AI革新けん引する…次世代国産プロセッサー、富士通「モナカ」の全容

AI革新けん引する…次世代国産プロセッサー、富士通「モナカ」の全容

上から見た際の3D積層技術のモナカの内部構造(右)と実物大の試作品

IT産業の歴史は半導体の技術革新と重なり、最前線では半導体プロセッサーが活躍し、世の中を変えてきた。今は生成人工知能(AI)の登場で画像処理プロセッサー(GPU)が主役に躍り出た格好だが、AIの社会実装が進む中でデータセンター(DC)からエッジ(現場)まで、さまざまな形で多様な計算処理が求められるのは必須。これを見据え、国産の次世代プロセッサーの開発も進む。にっぽん・プラスXの先駆けとなりそうだ。(編集委員・斉藤実)

生成AIは大規模言語モデル(LLM)がカギとなり、その学習には膨大な計算パワーが必要となる。そこで一躍脚光を浴びたのは並列処理に強い米エヌビディアのGPUであり、当面、GPUの需要は揺るぎない。

一方で、米グーグルの「TPU(テンソル・プロセッシング・ユニット)」など、AIに特化した専用プロセッサーが続々と登場している。GPUを含め、これらAIの専用プロセッサーが担う役割は学習と推論がメーンとなるが、今後は学習した成果をいかに活用するかがカギとなる。 人に代わって業務を自律的に行う「AIエージェント」はその先駆けであり、専門知識を備えた多くのAIコンポーネント(構成部品)がさまざまな形で分散配置され、それらが連携して動作する時代を迎える。

産業界でも「AI主権の観点を含め、一つの大きなAIシステムに全て任せる中央集権型ではなく、分散型AIが重要になってくる」(米AIベンダーの開発者)という意見が強まっている。

今後、AIの普及とともにデータの利活用が広がる中で、GPUやTPUだけでなく、多様なアプリケーションに対応できる中央演算処理装置(CPU)のブレークスルーも問われている。

2ナノと5ナノの混載で価格抑制

最前線に立つのは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の次世代グリーンDC技術開発プロジェクトの一環で、富士通が開発する国産プロセッサー「MONAKA(モナカ)」だ。2027年の出荷開始を予定している。

モナカはArm(アーム)仕様の64ビット汎用プロセッサーで、コア(回路)数は144個。開発を指揮する富士通研究所の吉田利雄先端技術開発本部エグゼクティブディレクターは「超並列のスーパーコンピューターの技術をベースとしながらも、汎用サーバー単体でもエッジでも使えるように、高性能と省電力の両立に加え、コストを徹底的に絞った設計となっている」と語る。

モナカは線幅2ナノメートル(ナノは10億分の1)の先端プロセスの採用と、複数の半導体チップ(チップレット)を垂直方向に積み重ねてパッケージ化する3D(3次元)積層技術が話題だ。具体的にはプロセッサーコア、キャッシュメモリー、I/O(入出力)を三つのシリコン(半導体)ダイに分けて設計し、プロセス技術はコアが2ナノメートル、キャッシュとI/Oが5ナノメートルに分けている。

「2ナノメートルは新しいトランジスタ構造ゆえに、製造コストが高い」(吉田エグゼクティブディレクター)。2ナノメートルプロセスを全体の3割以下とし、製造コストを抑えるのが狙い。当然、「普及させるには値段が安くなければいけない」(同)からだ。

超低電圧動作技術で空冷 高安全性を実現

富士通は半導体技術の課題である「微細化に伴う熱との戦い」でもブレークスルーに挑んでいる。その一つは空冷の採用だ。吉田エグゼクティブディレクターは「ハイパースケーラー向けのCPUを作るなら、消費電力が大きくてもDCやサーバーラック(収納棚)に備わった水冷システムで冷やせばよい。だが、そもそも電力効率が高いと、コストが高くなる上、エッジも含め、いろいろな場所で使えない」と打ち明ける。

モナカでは通常の半導体技術の進歩から言えば「規格外」ともいえる富士通独自の超低電圧動作技術を取り入れ、空冷でも高い性能を引き出せるようにする。線幅1・6ナノ―1・7ナノメートルといった1世代以上先の半導体技術であり、富士通のプロセッサーが凝縮された格好だ。

モナカはハードウエアレベルの暗号化により、ユーザーごとの仮想マシン(VM)に鍵をかけられる「コンフィデンシャル・コンピューティング」と呼ぶ、先進技術も実装する。複数のVMを同時に動かすハイパーバイザーがハッキングされてもデータ保護が可能だ。

産業を支えるデジタルインフラの安全性は経済安全保障の観点からも重要であり、モナカは次世代の国産プロセッサーの先駆モデルとしても注目される。
日刊工業新聞 2025年01月01日

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