鉄鋼業界の悲願「水素で鉄をつくる」、2100年を見据えた壮大な超革新技術

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水素による還元とCO2の分離・回収によってCO2の30%削減を目指すプロジェクトの試験高炉

2100年を見据えた壮大な技術開発の一里塚を、いま私たちは目の当たりにしているのかもしれない。

舞台は日本製鉄の東日本製鉄所君津地区(千葉県君津市)。鉄を作る過程で排出されるCO2(二酸化炭素)削減を目指し、日本製鉄やJFEスチールなど民間4社が国と進める官民プロジェクト「COURSE(コース)50」。高炉からのCO2を抑制する技術と、発生したCO2を分離・回収する技術を組み合わせCO2排出量30%削減を目指している。その中核技術である水素を活用した還元が試験高炉で、削減目標達成の手応えを得て、いよいよ実用化へ向けた開発段階を迎えている。

温暖化対策の切り札に

製鉄の上流工程にあたる「高炉」では鉄鉱石中の酸素を取り除くため、石炭を蒸し焼きにしたコークスが使われるが、その反応過程でCO2が発生する。このコークスの役割の一部を水素に置きかえれば発生するのはCO2ではなく水。「水素還元」と呼ばれるこの技術が、地球温暖化対策の切り札として有望視されている。しかも現時点での実証で用いられている水素はコークス製造時の副生ガス。製鉄所内での資源循環を実現している格好だ。コークス炉由来水素をめぐっては、2005年の愛・地球博の際に会場間を運行したバスの燃料のひとつとして、日本製鉄の名古屋製鉄所から供給された実績もある。

10年以上にわたる挑戦

環境負荷の少ない水素を使った製鉄は欧州アルセロール・ミタルをはじめ世界で開発が進む。しかし、10年以上にわたりプロジェクトとして推進してきた日本には一日の長がある。

「現象そのものは古くから知られ、目新しいものではありません。これを次世代の製鉄技術としていかに実用化するかに各国はしのぎを削っているのです」。

日本製鉄の村上英樹フェローがこう指摘するように、すでに確認されている還元メカニズムや反応制御の原理原則を踏まえ、精度を向上させながら実際の操業へ応用していくことはたやすいことではない。

COURSE50のプロジェクトリーダーを務める野村誠治フェローも「試験高炉では、高炉内に吹き込む水素系ガスの量やその位置、刻々と変わる還元反応の制御など、実験とシミレーションモデルの組み合わせで徐々に精度を高め、ようやくCO2の10%削減にこぎづけることができました。そもそも水素還元は反応が進むと高炉内の温度が下がってしまうことも大きな課題でした」。

日本製鉄の村上フェロー。「高炉を持つ一貫製鉄所は所内のエネルギー最適化を追求してきたが、これからは他産業の工場とも手を携える必要がある」と語る

現在、実証が進む高炉は試験高炉としては世界最大級だけに「今後の検証はさらに未知の領域に入ってくる」(野村フェロー)。プロジェクトでは、CO2を貯留するインフラ整備と経済合理性が確保されることを前提に、2030年頃までの1号機の実機化と、高炉設備の更新タイミングを踏まえ、2050年頃までの普及を目指している。

その先にある「超革新技術」

一連のプロジェクトで得られた知見を足がかりにさらなる革新技術の検討もすでに始まっている。ひとつは、高炉における水素還元比率の向上。さらにその先には、高炉を用いず鉄鉱石をすべて水素で還元する新たな製鉄技術「水素還元製鉄」も射程に入る。もとより、鉄鋼業界が目指す「2100年までにCO2排出ゼロ」は、こうした「超革新技術」なければ達成困難だ。

野村フェロー。「技術の転換期にあることを実感する」

最大の課題は水素の調達である。水素還元技術が実用化されれば、コークス炉由来水素だけでは当然、生産量を賄えない。水素は自動車や民生など幅広い産業分野で利用されることからも「社会共通基盤のエネルギーキャリアとして開発、整備されていることが前提となる」(日本鉄鋼連盟)。とりわけ基礎素材である鉄鋼製造に利用される水素は、安定した供給体制、経済合理性が欠かせない。

日本における近代高炉の誕生は安政時代にさかのぼる。それから200年以上の時を経て、「水素でつくる鉄」「ゼロカーボン・スチール」の時代が到来しようとしている。基幹産業に押し寄せる変革のうねり。それは持続可能な世界を実現する原動力でもある。

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