ニュースイッチ

コロナ禍で売上高最高…コト売り時代、ギターのフェンダーが出した「サブスク」という答え

コロナ禍で売上高最高…コト売り時代、ギターのフェンダーが出した「サブスク」という答え

イメージ

従来、企業の役割は製品を販売して顧客に「所有」させることだった。極論で語れば、売ることさえできればよかった。所有させたところで企業の役割が終わっていた時代もあった。ただ、今の顧客の多くは製品を所有することを目的としていない。使い楽しむことに関心が変化している。これが消費がモノからコトに移っているといわれる背景であり、それにいかに対応するかが大きな課題になっている。

こうした地殻変動のひとつの解となっているのがサブスクリプションサービス(以下サブスク)だ。業種を問わず当たり前のビジネスモデルになって久しいが、多くの企業が苦戦している。そうした中、成功例としてよく語られるのが高級ギターのを手がけるフェンダーの取り組みだ。

ギター市場は意外なことに初心者が市場を占める割合が多い。同社も売上高のほぼ半分が初心者だ。ただ、その9割が「難しい」という理由で1年以内にギターに触るのをやめていたという。「指先が痛い」「弾き方がよく分からない」「コードが押さえられない」などの理由で、弾かなくなってしまうのだ。

そこで、同社は単にギターを販売するだけではなく、初心者向けに定額制オンライン教育動画サービスを始めた。数百あるレッスン楽曲から好きな曲を選び、動画を視聴しながら技術を習得できる仕組みだ。初心者のギター継続率が伸びれば、ギター人口が増えて、市場全体が活性化する。結果的にフェンダー製品を購入してもらう機会も増えるという好循環が生まれる。

結果的に、同社のサブスクは新型コロナウイルス禍による巣ごもり需要も捉え、業績に寄与した。2020年のフェンダーの売り上げは過去最高を記録した。

ギターを売るのではなく、楽曲を学ぶ楽しさを提供する。動画を使って練習しやすい環境をつくりだす。顧客が望んでいるのは製品ではなく、製品を使って実現できる結果を提供する。これこそコト売りの本質だ。

わかりやすいのが乗り物だ。自動車メーカー各社は「もはや車を売る時代ではない」と「車」ではなく「移動」を売ろうとしている。タクシーやレンタカー、高速バス、飛行機などの移動手段を毎月、定額で提供する取り組みもある。

コトを売るためには顧客が何を欲していかを知らなければいけない。実は、この「何を欲しているか」の膨大な情報を手にしているのが製造業だ。あらゆる物が、内蔵されたセンサーによってインターネットにつながり始めたことで企業は顧客のニーズを汲み取りやすくなっている。製造業は古くからある業態だが、あらゆるデータを収集、分析できる時代になり、宝の山を手にしつつある。周囲を見渡せばビジネスの改善の余地や新しいサービスの可能性にあふれている。新興企業が喉から手が出るほど欲しい顧客とのつながりはすでにあるのだ。

コト売りはモノをサービスにかえるのではない。顧客のニーズと真正面からトコトン向き合うことである。そして、この本質を見抜いた企業のサービスに注目が集まっている。

編集部のおすすめ