米大統領選は環境政策で真っ向対立。バイデン就任なら一気にEV普及か
米大統領選は、気候変動対策も争点だ。トランプ大統領は環境対策は経済活動を妨げるとし、国際ルール「パリ協定」からの離脱を推進。一方、民主党のバイデン前副大統領は大胆な対策強化を掲げ、就任後には2050年の温室効果ガス排出実質ゼロを目指すと宣言する予定だ。両候補の主張は真っ向から対立し、結果次第では世界の気候変動政策にも影響を与える。
トランプ氏は前回16年の大統領選で「温暖化問題は中国のでっちあげ」と発言。“強い米国復権”のためにエネルギー自給率100%を主張し、二酸化炭素(CO2)を多く発生する石炭火力発電を容認した。
大統領就任後の17年6月、パリ協定からの離脱を表明し、19年11月に国連に離脱を正式通告。国内では発電所のCO2排出規制の撤廃、資源採掘の制限緩和などオバマ前政権の政策を真っ向から否定。今回の選挙戦でも「パリ協定は我々のビジネスを破壊する」と語り、気候変動問題への具体策はみられない。対照的にバイデン氏は「地球温暖化は人類存続への脅威」と述べ、公約として“環境正義”を掲げる「バイデン計画」を公表している。50年までの100%クリーンエネルギー経済と排出実質ゼロの達成をビジョンに据え、就任初日に小・中型車の100%電気自動車化、洋上風力発電を倍増するためのプロジェクト推進などの大統領令に署名する。
他にも35年までの電力の脱炭素化、4年間で400万の建築物と200万の住居の改良など数値目標が並ぶ。環境・エネルギー政策に詳しい東北大学の明日香壽川教授は「今までの大統領候補で最も“過激”」と語る。自然災害に直面する米国民は気候変動への関心が高く「若者だけでなく、人種を超えて支持をまとめられる可能性がある」という。
自然エネルギー財団(東京都港区)の大林ミカ事業局長は外交に着目する。パリ協定への復帰はもちろん、バイデン氏は就任100日以内に気候サミットを開催して主要排出国首脳に目標強化を約束させる方針だ。全世界に化石燃料補助金禁止を求め、中国を名指しして石炭輸出補助の中止も求めるなど強気だ。大林氏は「貿易と気候政策を切り離していない。中国だけでなく日本にも影響を与えるだろう」と予想する。
またバイデン計画は蓄電池や新冷媒、再生エネ由来水素、小規模原子炉などの研究強化や低コスト化の項目も多い。日本では50年実質ゼロの達成を技術革新に頼りすぎるという声もある。バイデン計画にも似た点はあるが、明日香教授は「アメとムチがあり、産業界としても分かりやすい」とみる。厳しい燃費規制が迫られる自動車産業に対しては100万人の雇用を創出するなど、失業者対策もねられているためだ。
米国民はバイデン氏の積極的な政策を受け入れるのか、世界の気候変動政策の転換点となる大統領選となる。