SDGsで製造現場の新しい目標をつくろう!
最近、仕事や生活の場で「SDGs(エスディージーズ)」という言葉をよく見聞きするようになった。“持続可能な開発目標”と訳されるSDGsは、近年、企業にとって経営戦略上の重要目標となりつつある。生産現場においても例外ではないが、現場にとっての意義や価値は十分に理解されているとはいいがたい。本連載では、とある町工場の夕陽丘製作所のエピソードを通じて、SDGsとは何かから、取り組むプロセス、ポイントを解説していく。
主な登場人物
萬代総務部長:古町工場長の指示でSDGs担当者に。52歳。
古町工場長:取引先の役員からの話でSDGsに興味を抱く。59歳。
燕さん:経理部。工場で最もSDGsに精通する25歳。
妙高生産部係長:生産部の若きリーダー。30歳。
夕陽丘製作所のSDGs目標をつくるため、SDGs推進チームの燕さんは、チームメンバーである生産部の妙高係長と議論を始めた。
燕「生産部が考えたSDGs活動を聞かせて下さい」妙高「ゴール7『エネルギーをみんなに そしてクリーンに』の達成に向け、省エネ活動を頑張るよ」
燕「省エネは以前からも取り組んでいますよね。SDGsは2030年までの目標です。現状ではなく、10年後を想定した目標をつくりませんか?」
妙高「ターゲットには『エネルギー効率の改善率を倍増する』と書いてある。ざっくりと理解して、効率2倍はエネルギー消費50%減と同じ意味だよね。だから『2030年までにエネルギー消費半減』を目標にするよ。けど、実現できるか不安だな」
燕「来年は無理でも、10年後までに半減ならできそうですね。最新の省エネ型設備を導入すると達成に近づきます。2030年までのどのタイミングで投資するか考えましょう」
妙高「すべての設備を一度に入れ替えるとなると腰が引けるけど、2030年までの段階的な投資なら気持ちが楽になる。それにエネルギー消費が減ると電気代とガス代の節約になるし、生産コストも下がる」
燕「『エネルギーコストを半減』と思えば前向きになれますね」
妙高「実はゴール6のターゲット『水の利用率を大幅に改善』を読んで水道料金の明細を確認したら、水の使用量が増えていた。節水の目標も考えるよ」
社内での議論は本格化してきた。次は総務部とのミーティングに臨む。
<解説 2030年を想定し、現状の活動をレベルアップできる>
前回「マッピング」について説明しました。自社の事業や製品とSDGsとの関連性を整理し、自社の存在価値、製品と社会との関わりをチェックする作業です。
マッピングは「現状」の確認です。燕さんも指摘していましたが、「省エネ活動を頑張る」は現状の話です。ほとんどの企業が省エネ活動を行っているので、SDGsの取組みとしては新鮮味がありません。SDGsに整合した活動を継続することは大切ですが、せっかくなので現状のレベルアップに挑戦しましょう。
妙高係長はゴール7のターゲットを解釈し、「エネルギー消費半減」という目標を導き出しました。これが現状の活動のレベルアップです。漠然と「省エネ活動を頑張る」というよりも明確です。ターゲットを参考にすると、どのくらいを目指せばよいのか、目標の基準もわかります。
さらにSDGsは未来に視線を向けさせてくれます。エネルギー関連でいうと、国は「2030年度には温室効果ガス排出量を13年度比で26%削減する」という目標を推進しています。大企業の多くも「30年度30%減以上」を自社の排出削減目標としています。
省エネは温室効果ガス削減の重要な手段です。「26~30%減」は国や大企業の目標ですが、中小企業も同レベルの省エネが求められると思います。国や大企業の動きから30年の省エネ水準を予測し、設備投資を計画的に実行すると、厳しい要求に先取りした対応ができます。30年になってから慌てずに済みます。
SDGsをきっかけに未来に目を向けると、世の中の潮流に乗った30年の世界が想定できるので、的を射た長期目標をつくれます。
SDGsから新しい活動も見いだせます。妙高係長は水の使い過ぎに気づき、節水も目標にしようと考えました。
他にも気づきがあるのではないでしょうか。たとえば、ゴール12のターゲットに「適正な化学物質の管理を実現」があります。製造業は有害な化学物質を扱った時、国が定めた「安全データシート(SDS)」に記載し、取引先に交付しているはずです。国は提供義務のない物質でもSDSの入手・交付を推奨しており、「必ずSDSを受け取る、交付する」も立派なSDGsの実践になります。SDSの情報は職場での化学物質の安全な管理に役立ち、従業員の健康を守ります。
SDGsには生産現場にも身近な目標があります。ターゲットを読み、新しい目標をつくってみましょう。
ポイント
●SDGsは目標をつくる基準を示してくれる
●2030年までの目標値を設定し、達成までの計画をつくる
●ターゲットを熟読して不足する活動を発見し、新しい目標を設定する
松木 喬(まつき たかし)
日刊工業新聞社 第二産業部 記者、編集委員
2009 年から環境・CSR・エネルギー分野を取材。現在、日刊工業新聞「SDGs面」(毎週金曜)の取材・編集を担当。主な著書に『SDGs 経営“社会課題解決”が企業を成長させる』(日刊工業新聞社)。新潟県出身。
工場管理 2020年6月号 Vol.66 No.8
【特集】 全部門で挑む!工場まるごと生産性向上の進め方
生産性とは、生み出した付加価値を従業員や勤務時間など労働の投入量で割って算出した効率の指標である。生産性向上には分母となる投入量の抑制に注力しがちだが、長期的な成長を見据えて、特集では分子となる付加価値を最大化することで生産性を高める方法を模索。特に従業員の意欲や働きがいと生産性との関係性に着目する。
製造部門をはじめ、研究・開発・営業部門、生産技術・生産管理・品質管理などの間接部門、総務・人事などの総合部門まで、工場運営に関わるすべての部門それぞれに課せられた役割・使命を紐解き、部門の特徴から引き起こす日常業務の困り事や生産性を阻害する要因を分析。業務プロセスや成果を見える化するマネジメント手法を用いて、働きがいを引き出しながら生産性を高める方法を実践事例を交えて解説する。モノづくりの川上から川下まですべての観点から生産性を上げ、競争力を高めていく方法を指南する。
雑誌名:工場管理 2020年6月号
判型:B5判
税込み価格:1,540円
販売サイトへ
Amazon
Rakutenブックス
Yahoo!ショッピング
日刊工業新聞ブックストア
※第7回は6月25日頃公開予定