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「マッピング」で事業とSDGsの関連を明確に!

雑誌『工場管理』連載 町工場でSDGsはじめました 第5回
 最近、仕事や生活の場で「SDGs(エスディージーズ)」という言葉をよく見聞きするようになった。“持続可能な開発目標”と訳されるSDGsは、近年、企業にとって経営戦略上の重要目標となりつつある。生産現場においても例外ではないが、現場にとっての意義や価値は十分に理解されているとはいいがたい。本連載では、とある町工場の夕陽丘製作所のエピソードを通じて、SDGsとは何かから、取り組むプロセス、ポイントを解説していく。

主な登場人物
萬代総務部長:工場長の指示でSDGsの情報を収集中。ISO14001を構築した経験も。52歳。
古町工場長:取引先の役員からの話でSDGsに興味を抱く。理系大出身の59歳。
燕さん:入社3年目の経理部社員。工場で最もSDGsに精通する25歳。

発足したSDGs推進チームは早速、勉強会を企画したり社内啓発を検討したりと活動を始めている。萬代総務部長は、途中経過を古町工場長に報告しにやってきた。

 萬代「SDGs 推進チームでマッピングを行いましたので、結果を報告します」
 古町「マッピングってあれか、『自社事業とSDGsとの関連を整理する作業』だったな」
 萬代「その通りです。事業だけでなく企業理念、総務部が担当する社会貢献活動も含めて整理してみました。まず事業ですが、当社では太陽光パネルの部品を製造していますよね。これはゴール7『エネルギーをみんなに そしてクリーンに』と、ゴール13『気候変動に具体的な対策を』に該当します。7は再生可能エネルギーの普及、13は気候変動を抑える温暖化対策を求めています」
 古町「だけど、太陽光パネルを販売しているのは取引先の中越電器産業じゃないか」
 萬代「われわれは中越電器産業への部品の供給を通じて、太陽光パネルの普及、そして温暖化対策に貢献しています」
 古町「なるほど」
 萬代「当社の経営理念である『社員を大切にし、技術で地域産業に貢献する』は、ゴール8『働きがいも経済成長も』と、ゴール9『産業と技術革新の基盤をつくろう』に関連します」
 古町「すごいじゃないか。これで『SDGsに貢献します』と宣言できるな!」
 萬代「それが、経理部の燕さんは『インパクトに欠ける』と言うのです。それで次は、SDGsを活用した具体的な活動を考えようと言い出しているですが……」
 古町「いいじゃないか、どんどん検討してくれ!」

SDGs推進チームは次回、生産部とミーティングし、SDGsを業務に取り入れる方法を検討する。

<解説 世界の目標と会社の方向性の一致を実感できる>

環境省の『SDGs活用ガイド』は、中小企業に対して「自社の活動内容の棚卸を行い、SDGsと紐付けて説明できるか考えること」を勧めています。こうした棚卸や紐付けを行うことを「マッピング」と表現します。

マッピングを簡単に言ってしまうと、SDGsと関連する企業活動を見つける作業です。経営理念、事業、製品、社員研修など、会社に関わる活動やモノを見渡してみると、17のゴールのどれかに当てはまります。SDGsはいわば「こういう未来にしたい」という社会からの要請です。紐付けたゴールを見てみると、自社も要請に応えられる存在なのだとわかります。「世界の目標(=SDGs)と会社の方向性が一緒だった」と気づくと、誇らしい気持ちになれるのではないでしょうか。

ここでお願いしたいのが、ゴールだけでなくターゲットとも突き合わせてもらいたいということです。たとえば、ゴール7の日本語訳は「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」です。関連するターゲット(具体的な目標)を熟読すると、再生可能エネルギーの普及やエネルギー効率の改善(省エネ)を求めています。すると、職場での省エネ活動もゴール7に貢献するとわかります。『SDGs活用ガイド』には「SDGsとの紐付け早見表」が掲載されているので参考にしてください(図)。


重要なのは、紐付けた理由を語れることです。たとえば、自社製品がどのように社会に役立っているのか再確認してみてください。紐付けた明確な理由が説明できるようになるはずです。上下水道事業を展開するメタウォーターの中村靖社長は、貢献するゴールを宣言したものの、「世間からは『独りよがり』と映っているのでは」と心配していました。たとえば紐付けた理由を聞かれた時、明確に回答できれば「独りよがり」の不安は払拭できます。むしろ社外の人にも自社について深く理解してもらえるきっかけになるはずです。

もう1つ、範囲を狭めずにマッピングしてみてください。部品を製造する中小企業であっても、部品自体は違っても、その部品が搭載された完成品がSDGsのいずれかのゴールに当てはまっているはずです。自社と社会との関わりについて、思わぬ発見があるかもしれません。

マッピング全般については、斉藤商事(埼玉県富士見市)のホームページが参考になります。同社は企業にユニフォーム(制服)を販売する中小企業ですが、各ゴールと紐付けた理由、社会との関係性がわかりやすく説明されています。

ポイント
●マッピングによって自社の存在価値を再認識できる
●ターゲットを熟読し、自社の事業や製品の社会的な役割も再確認できる
●紐付けた理由を明確にしておくと、社外にも自社の価値を伝えやすくなる

松木 喬(まつき たかし)
日刊工業新聞社 第二産業部 記者、編集委員
2009 年から環境・CSR・エネルギー分野を取材。現在、日刊工業新聞「SDGs面」(毎週金曜)の取材・編集を担当。主な著書に『SDGs 経営“社会課題解決”が企業を成長させる』(日刊工業新聞社)。新潟県出身。

工場管理 2020年5月号  Vol.66 No.7
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雑誌名:工場管理 2020年5月号
判型:B5判
税込み価格:1,540円

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※第6回は5月25日頃公開予定
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
マッピングでSDGsの理解度がわかる気がしています。ホームページに掲載のマッピング結果を見て、深く理解していると読み応えありあます。逆に浅いと「貼りつけただけ」。あとマッピングしか掲載がないと「とりあえず、やったんだな」と。SDGsの取り組みに決まったルールはありませんが、思考停止にならずに工夫して進めましょう。

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