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半導体・EVの設備投資加速も、為替・株価の乱高下で意欲減退の懸念

半導体・EVの設備投資加速も、為替・株価の乱高下で意欲減退の懸念

EVやAI技術に使う銅の価格水準も上昇している

人工知能(AI)導入などに伴うデジタル化や脱炭素化の加速を背景に大企業は半導体関連や電気自動車(EV)の設備投資を拡大する。日本政策投資銀行がまとめた2024年度設備投資計画調査で、24年度の設備投資は前年度実績に比べ大幅増の計画となった。ただ足元では為替・株価の乱高下に伴って景気の不透明感が強まっており、企業の投資意欲の減退も懸念される。(編集委員・川口哲郎)

DC需要増・脱炭素の潮流

政投銀の調査によると、全産業の24年度国内投資は前年度実績比21・6%増と大幅に増えた。このうち製造業は同24・7%増と23年度実績の伸び率を11・9ポイント上回る見通し。非製造業(電力除く)も同16・7%増と23年度伸び率より10・4ポイント高い。

2024年度は引き続き半導体・EV関連、都心再開発などがけん引

23年度設備投資はもともと高い計画値だったが、着地は大きく下方修正された。人手不足などによる工期の遅れや工事費高騰に伴う計画見直しなどの理由が増えている。ただ、設備投資を見送った場合にも8割近くの企業が従来の計画を維持すると回答している。

24年度設備投資計画は、製造業が半導体やEV関連の投資で引き続き高い伸びを示す。半導体や材料の能力増強、EV向け電池や電磁鋼板なども投資が進展する。「人手不足を起点としたデジタル化の加速が進むと、データセンターなどに使われる半導体の需要が増え、関連の設備投資も増えていく構図になっている」(政投銀産業調査部)。

また、脱炭素の流れでもEVや太陽光発電、送配電網強化などの投資につながっている。非製造業ではインバウンド(訪日外国人)増加などによる人流拡大を背景に空港やホテル、娯楽施設の投資が伸びる。

製造業の業種別でみると、「石油」が再生可能エネルギーや持続可能な航空燃料(SAF)などの次世代エネルギー事業により同46・9%増、「化学」が半導体・電動車向け材料、医薬品などを中心に同34・1%増と高い伸びだ。「自動車」や「精密機械」も同20%以上と引き続き堅調な伸び率のほか、「鉄鋼」も電動車向け電磁鋼板の能力増強投資などが旺盛だ。

ただ足元では急激な円高進行や株価暴落など市場は大きく動いている。当面は株価や為替の乱高下に警戒する展開となっており、企業の投資意欲やインバウンドへの影響が読みにくい状況となっている。

人材・デジタル重視 中途採用強化・AIで業務効率化

ところ、「物価上昇」が最も高く、「人件費上昇」「為替変動」「人手・後継者不足」も高水準で続いた。物価上昇のリスクが顕在化する中、「販売価格への転嫁が十分でない」とする回答が過半を占めている。

国内設備投資の増減率

有形固定資産以外も含めた広義の投資において、人材投資やデジタル投資の優先度がここ数年で徐々に高まっている。人的投資の内容をみると、人手不足の中で「人材の獲得」が最多となった。

その方法として「中途採用の強化」がさらに高まり、新卒採用を上回った。「賃金引き上げ」の割合も高まっている。政投銀は「人件費をコストではなく投資としてみている」と分析する。

不足している人材として、IT・AI人材、技術職・エンジニア、現場の熟練労働者を挙げる企業が多かった。人材が獲得できなかった場合の対策として、製造業、非製造業ともに「業務の削減・合理化」「デジタル活用」の割合が高い。製造業を中心に機械やロボットなど「自動化投資」の割合も高い。

一方で人手不足の対応策として「従業員のリスキリング」を挙げる企業はまだ少数だ。人的投資の内容でも「成果連動の強化」「ジョブ型雇用の導入」「社内起業の支援」といった先進的な取り組みを回答する企業は少数にとどまっている。

従業員の生産性向上につながるような人的投資はまだ進んでいないのが現状だ。政投銀は「わが国の持続的な成長の課題になっていく可能性がある」と指摘する。

デジタル化投資の意欲は高い。23年度は同11・1%増と3年連続で増加し、24年度は同34・0%増を計画している。コロナ禍を経て人の往来が戻り、インバウンド需要も享受するサービス業を中心に非製造業は同46・9%増と大幅増の投資を見込む。卸売り・小売りの電子商取引(EC)インフラの拡充や、電力・ガスの遠隔保守管理、運輸の顧客対応や倉庫の自動化などがメーンだ。

デジタル化投資水準

AI、IoT(モノのインターネット)の活用も大きく高まっている。活用していると回答した企業は前年度から10ポイント増の30%に達した。多くの企業が議事録作成や業務効率化に用い、在庫・価格・需要などの各種予測にも活用している。製品検査や創薬、空調・熱源最適化といった高付加価値化に資する用途もあった。

供給網見直し 海外現地調達を拡大

サプライチェーン(供給網)を見直す動きも続いている。見直しの契機は依然として「原材料費の高騰」の割合が他を大きく引き離して高い。「米中対立や各国の自国産業強化政策」も一定程度を占めている。「半導体の供給不足」や「新型コロナウイルス感染症」の割合は23年度から大きく下がった一方で、「円安」「人件費の高騰」の割合が上昇している。

サプライチェーン見直しの内容として「海外の仕入れ調達先の分散・多様化」が前年より5ポイント低下の36%。「需要地での事業拡大」を図る企業の割合は同5ポイント上昇の30%となった。半導体などの供給制約の緩和もあり、戦略在庫の確保が一服している。海外拠点の国内回帰は同2ポイント上昇の6%にとどまった。

製造業の中期的な供給能力の見通しは、海外拠点強化が向こう3年程度に限ると50%未満とコロナ前の19年の比率に戻らない状況が継続。ただ、10年先は強化するとの回答が6割強に達している。国内生産拠点は向こう3年程度、10年先ともに強化するとの割合が半数近くに達した。「円安もあって企業は国内にも目を付けつつある状況」(同)と分析する。

海外設備投資は前年より5・9ポイント増の21・3%増の計画だ。北米は自動車、天然ガスや水素などのエネルギー関連が高い伸びとなる。アジアは自動車や不動産により増加する。

国内設備投資の地域別では、北海道が発送電関連設備の更新などで同53・9%増と最も伸びが高い。北関東甲信は電気機械、化学、精密機械などの投資が堅調に続き、同43・0%増。一方で九州は23年度伸び率が同46・2%と高かった反動で24年度は同2・2%増と小幅増にとどまる。

日刊工業新聞 2024年8月8日