生成AIけん引…「電子部品」好調、上場50社通期見通しの全容
スマホ・パソコン出荷回復
電子部品分野の上場企業50社の決算は、2025年3月期の連結業績予想を発表している49社中、38社が営業利益で前期を上回る見通しだ。自動車の電動化のほか、端末側で人工知能(AI)を動かす「エッジAI」の普及や生成AIの利用拡大に伴うAIサーバーの伸長も各社の業績をけん引する。スマートフォンやパソコン(PC)といった最終製品の出荷数量も緩やかに回復する見通しで、明るい兆しが見え始めた。(阿部未沙子)
49社の売上高の合計は前期比2・5%増の19兆2253億円、営業利益の合計は同18・5%増の1兆6823億円となると予想する。増収営業増益のけん引役の一つとして期待されるのが、エッジAIだ。
エッジAIの例としてAIPCやAIスマホが挙げられる。24年は「AIPC元年」と言われるように、PCメーカーはAIの推論に使う「NPU(ニューラルネットワーク・プロセッシング・ユニット)」を搭載したPCの売り込みに注力している。また韓国サムスン電子は、音声通話時に即時的に翻訳できるAIスマホを発売した。
ハードウエアの進化を後押しするのがソフトウエアだ。具体的には米オープンAIが開発した生成AIの大規模言語モデル「GPT―4o(フォーオー)」はその一つ。GPT―4oにより、従来のGPT―4と比べて音声での対話を円滑に行えるようになった。
野村証券の秋月学アナリストはGPT―4oの登場が電子部品業界に与える影響について「直接的にはマイクやスピーカーの音声機器の高機能化と需要の増加が進む。より広義にはスマホやPCなどエッジデバイスに搭載されるプロセッサーの高機能化も進むだろう」と考察する。
また「エッジAIという新たな端末が登場することで、PCやスマホの買い替え需要が見込まれるのではないか」(業界関係者)との指摘もあり、スマホやPCの出荷数量が増えることで、電子部品の出荷数量も増える可能性がある。
「サーバー」市場拡大、競争激化
生成AIを活用する機運が高まる中、電子部品各社はAI関連需要を逃すまいと投資を続ける。中でも、AIの推論を支援する「AIサーバー」市場に注目する企業は少なくない。ニデックもその1社で、AIサーバー向けの冷却装置を増産すると発表した。
AIサーバーの設置拡大に伴う電子部品の需要を取り込もうとするのは大手企業だけでない。サーバー向けのICパッケージ基板を手がけるイビデンはAIサーバー向けの需要を見据え、生産能力を引き上げている。同社の青木武志社長は「顧客とのロードマップの共有や信頼関係を踏まえるとトップのシェアを維持できる」と自信を示す。
ただ新光電気工業をはじめとした競合が存在するため、イビデンの青木社長は「(顧客が)マルチソース(調達先の複数化)を考える可能性はある」との見方も示し、今後、市場での競争激化を見込む。
ICパッケージ基板のほかにも、アルミ電解コンデンサーを主力とする日本ケミコンもAIサーバー市場に攻勢をかける。高性能な画像処理半導体(GPU)や中央演算処理装置(CPU)の搭載に伴い、同社が扱う導電性高分子ハイブリッドコンデンサーへの引き合いが増えると予想する。そのため、設備投資を進め、増産体制を整える。
また積層セラミックコンデンサー(MLCC)を手がける太陽誘電の佐瀬克也社長はAIサーバーの普及について「米エヌビディアのGPUを使うようなハイエンドのAIサーバーに搭載されるMLCCの数は従来のサーバーと比べて倍以上。非常にインパクトがある」と指摘する。AIサーバー向けを含む付加価値の高いMLCCを増産する方針だ。
このほか生成AIの普及に伴い、大容量のデータを処理する「ハイパースケールデータセンター(HSDC)」で使う光通信モジュールコネクターの需要も高まりそうだ。
生成AIの普及により電子部品各社は恩恵を受ける見通し。こうした需要に対応するため、各社は生産能力の増強のみならず、性能向上や販売体制の強化を推し進めていく。
搭載増、電動車向け伸長
ただAIをめぐっては欧州連合(EU)でAI規制法が成立した一方、日本は法規制についての議論が始まったばかりで、生成AIが浸透するには時間がかかりそう。そのため電子部品各社が引き続き期待を寄せるのが車市場だ。電動化により電子部品の搭載個数が増えるためだ。TDKは車1台当たりに搭載するMLCCについて内燃機関(ICE)の場合は5000個であるのに対し、バッテリーEV(BEV)は1万個を予想する。
今後、車市場の伸びを商機と捉える企業は多い。コネクターを主力とする日本航空電子工業は民生機器向けコネクターを車向けにも展開。さらに「海外市場の一層の強化を図る」(同社の村木正行社長)とし、インドでの販路確立や、中国における販売から生産までの一貫体制で市場を開拓していく。
また抵抗器のKOAは40年にも環境対応車(BEV、燃料電池車〈FCV〉、プラグインハイブリッド車〈PHEV〉、ハイブリッド車〈HEV〉)が乗用車の販売台数のうち約74%を占めると推測する。花形忠男社長は「(抵抗器の)使用量は増えていく」とみる。
東海東京インテリジェンス・ラボ企業調査部の萩原幸一朗シニアアナリストは半導体不足の緩和により「24年度は自動車の生産台数の堅調な伸びが予想され、いろいろな部品が必要になる」とし、電子部品各社への好影響を推測する。
米調査会社のIDCによると、24年のスマホの世界出荷台数は23年比2・8%増の12億台、PCは同2%増の2億6540万台と予測する。電子部品の搭載先となる最終製品の数量は車以外も増える見通しで、24年度は電子部品各社にとって追い風となりそうだ。
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