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量子技術が情報対策にもたらす変革

現在のインターネットを駆け巡る情報の実体は0と1の系列、デジタル情報である。しかし、量子力学の世界では、0でもあり同時に1でもある状態が存在し、量子情報という新たな概念が登場する。スーパーコンピューターよりはるかに短時間、省電力で計算できる量子コンピューター。原理的に盗聴されない量子暗号。究極の伝送効率を実現する量子通信。従来の精度や感度をはるかに凌駕(りょうが)する量子計測・センシング。これらの量子技術が今、社会に大きな変革をもたらそうとしている。

情報通信研究機構(NICT)では、2001年から量子暗号や量子通信の研究開発に取り組んできた。10年には、東京量子暗号ネットワーク(Tokyo QKD Network)を構築し動画の完全秘匿伝送を世界に先駆け成功した。16年には、超小型衛星を用いた量子通信の実証に成功している。20年には、企業による量子暗号の事業化が始まった。

そして、21年、NICTはわが国の量子技術イノベーション拠点の一つ、「量子セキュリティ拠点」に指定された。同時に発足した量子ICT協創センターと、2001年から続く量子ICT研究室がコアとなり拠点の活動を推進している。

将来的には、量子暗号や量子通信を量子コンピューターや量子計測・センシングと融合し、さらに光ネットワークや無線ネットワーク、現代暗号基盤とも統合した新たな基盤「量子技術プラットフォーム」を構築し、35年頃から衛星コンステレーションを介してグローバルネットワーク化することを目指している。

当拠点では、日々、基礎研究から応用研究、社会実装、人材育成までさまざまなテーマに係る打ち合わせや勉強会が開催されている。参加者は、産学官の研究部門、事業部門、知財や標準化部門、事務部門など多岐にわたる。量子技術の最前線は、週単位で技術やビジネスの風景が塗り替わる躍動感にあふれている。

今後も、さまざまな分野、業界の皆さまとエキサイティングな時間を共有し、ともに取り組んでいきたい。

量子ICT協創センター 研究センター長 佐々木雅英

大学院博士課程修了後、NKK(現JFEホールディングス)勤務を経て96年に郵政省通信総合研究所(現NICT)入所、量子情報通信技術の研究開発に従事。21年から現職。NICTフェロー。博士(理学)。
日刊工業新聞2022年9月6日

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