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NICTが研究推進、通信網「ソフトウエア化」の世界

オンライン会議やライブ配信などのさまざまな通信サービスでは、膨大な情報がネットワーク内の通信機器を通過する。従来、ファイアウオールやルーターなどの通信機器には専用のハードウエアが用いられていた。近年は通信機器に実装されたソフトウエアでこれらの機能を実行するネットワーク機能仮想化技術(NFV)が広く開発されており、NFVを発展させたネットワークサービス仮想化技術(SFC)が研究されている。これらの技術は、コストや運用管理工数の削減などに効果的で、一部の通信事業者でも実際に運用されつつあるが、安定した運用に向けてはさまざまな課題が残る。

NICTでは、通信の効率化を目的とした情報指向ネットワーク技術(ICN)を研究している。ICNは、通信量に応じてサーバーなどのネットワーク資源を柔軟に利用できるアーキテクチャーである。我々は、SFCとICNを連携させ、通信量に応じて他の機器で機能を実行(分散)する「オフローディング機構」を設計し、これによりSFCの抱える課題を解決する取り組みを行った。私たちが提案するオフローディング機構は、ICNの国際標準仕様に準拠する通信ソフトウエア「Cefore」を用いて実装し、NICT内の実験ネットワークに導入した。

実験では、動画配信サービスで広く利用されているストリーミング技術を用い、多数の仮想モバイル端末が提案システムを介して高品質動画配信サービスを同時に視聴する環境を構築した(図参照)。SFCのサービス停止の危険性がある場合でも、提案システムにより柔軟な機能オフローディングが働き、各端末が必要なネットワーク機能を利用しつつ安定的に高品質の動画を視聴できることを示した。

今後は、資源利用効率の最適化や、ユーザーが体感する通信品質、省エネなどの観点で、提案システムの有効性検証を行う予定である。ネットワーク仮想化の限界を乗り越えて、どこまでネットワークがソフトウエア化されて柔軟になれるか、これからも探究していきたい。

ネットワーク研究所・ネットワークアーキテクチャ研究室 研究員 速水祐作

2019年関西大学大学院理工学研究科博士後期課程修了。同年、NICT入所。コンピューターネットワーク、情報指向ネットワーク、トラフィック制御、ネットワーク仮想化に関する研究に従事。博士(工学)。

日刊工業新聞2022年6月7日

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