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世界で安定した通信網…NICTが研究開発に挑む「衛星光通信」の世界

世界で安定した通信網…NICTが研究開発に挑む「衛星光通信」の世界

可搬型光地上局(NICT提供)

近年になり民間による宇宙開発の事業が活発化している。多数の小型衛星を高度数百キロメートルの低軌道に投入し連携して運用する衛星コンステレーション技術を用いれば、全世界のあらゆる場所にインターネット接続サービスの提供が可能となる。しかし、従来から用いられている電波による通信方法では使用可能な周波数帯域が逼迫(ひっぱく)しており、今後通信の大容量化には対応できない。

情報通信研究機構(NICT)では、近赤外線帯のレーザー光を用いた衛星光通信技術の研究開発を推進している。光通信には周波数帯の制限がなく、短時間で多量のデータ伝送が可能で、高い指向性を持つことから電波のような干渉の影響も少ない。今後の衛星コンステレーションにおいても、通信網を支える重要な大容量通信技術として衛星光通信は期待されている。

従来の衛星光通信の地上局は、ドームに格納、固定した光アンテナにより運用される。地上局のある地域が長期間の天候不順などの理由で利用できない場合は、他の地域にある地上局に切り替えるサイトダイバーシティー技術の導入が不可欠である。現在NICTでは、複数の光地上局による運用の研究と並行して、地上局自体が移動可能な可搬型の光地上局の開発を進めており、実運用間近になってきた。

8トントラックからなる可搬型光地上局の荷台には、口径35センチメートルの光アンテナが搭載されている。同アンテナは上空を高速移動する低軌道衛星を高精度に追尾しながら、衛星から届くレーザー光を集光してトラック上の光受信機に導く。天候の長期安定が見込まれる地域に移動可能な可搬型光地上局を運用することで、あらゆる場所において衛星光通信が可能となる。

NICTでは2021年に、衛星と可搬型光地上局間の衛星光通信を模擬した地上実験を実施した。スカイツリー展望台を衛星に見立て光送信機を設置、直線距離で約3キロメートル離れた上野公園に可搬型光地上局を搬入し、両者間での実証実験を実施した。22年度中には国際宇宙ステーションに搭載予定の光送信機と可搬型光地上局との間で衛星光通信の実証実験も予定している。

このようにNICTでは固定の光地上局の運用や移動可能な可搬型光地上局の開発を通して、今後の衛星コンステレーションなどにおける衛星光通信分野の発展に向けた取り組みを続け、世界で安定した通信網確立を目指して研究開発を行っていく。

ネットワーク研究所・ワイヤレスネットワーク研究センター・宇宙通信システム研究室 研究技術員 中園純一

21年にNICT入所。現在1・5メートル光地上局や1メートル望遠鏡の運用管理、可搬型光地上局開発に従事。修士(工学)。
日刊工業新聞2022年7月19日

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