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6Gでブレイクするか、「テラヘルツ無線」の世界

テラヘルツ(テラは1兆)帯では連続した数十ギガヘルツ(ギガは10億)もの帯域を利用できるため、100Gbps超の超高速大容量無線通信を実現できる。100ギガヘルツ超の高い周波数を利用するため、自由空間伝搬損は大きくなるものの、高利得アンテナを極めて小型にできるため、すなわち「ビーム」として送受することで、相殺できる。ビームが極めて細くなる点は、より細かな空間分割により同じ周波数を稠密(ちゅうみつ)に利用できることに繋がり、周波数/時分割ではない新たな干渉回避法となるなど、大きな利点がある。

これらの特徴は、8Kなどを扱う次世代携帯機器に対しユーザーが求める性能との整合が良い。そのため次世代通信システムBeyond 5G/6G(B5G/6G)を特徴づける新しい帯域候補としてテラヘルツ帯の利用に期待が集まっている。一方で、テラヘルツ帯を扱う技術のハードルはかなり高い。

これまでに開発された技術だけではビームを自在に制御することはいまだ困難であるため、ハードウエア開発ではアレイアンテナに焦点が当てられている。ビームを制御するシステム技術は、ミリ波を扱う第5世代通信(5G)規格に既に取り込まれているが、テラヘルツ帯ではビームがさらに細くなるため、ビーム制御に関連するシステム技術の高度化が必須である。さらに携帯機器への搭載を仮定した場合の伝送距離は数十メートル程度と5Gのミリ波の場合よりも短くなる。

そのため極めて多数の基地局を設置する必要があるとの論があり、このままでは経済的合理性を満たせずテラヘルツ帯の活用を妨げてしまう。このような課題に対しても、アンテナを共用するなどと言ったシステム側からの解決策が有用である。

NICTではB5G/6Gの研究開発としてシステムアーキテクチャーのあるべき姿に関する議論を行っており、その成果をホワイトペーパーなどで公表している。上記のようなテラヘルツ帯の導入に向けたシステム上の課題を検討することと、分散したネットワーク資源をいかに活用するかという課題との共通点が多く、具体性を持った議論ができる部分でもある。NICTでのテラヘルツ無線の研究は、材料からシステムまでに及んでいる。総合力としてさまざまな課題を解決し必ずやB5G/6Gでブレークできるだろう。

Beyond5G研究開発推進ユニット ユニット長 寳迫 巌

日本鋼管(現JFEホールディングス)のULSI研究所を経て通信総合研究所(現NICT)に入所。21年より現職。IEEE 802.15.3mbの副委員長。テラヘルツ帯の各種システムの研究開発に従事。博士(理学)。
日刊工業新聞2022年8月30日

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