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若手研究者のトップ10%論文割合25%へ…国際卓越大に東北大学、極めて高いKPI達成への勝算

論文被引用数高める
若手研究者のトップ10%論文割合25%へ…国際卓越大に東北大学、極めて高いKPI達成への勝算

会見で質問に応じる東北大の冨永総長(24日、東京都千代田区)

東北大学国際卓越研究大学として認められた。卓越大の公募が始まったのは2022年の12月。2年かけてようやく出発点に立った。24年度内に154億円が振り込まれ、新しい大学像を作っていく。課題は極めて高いKPI(重要業績評価指標)設定だ。無理に達成しようとすると学術を歪(ゆが)める可能性さえある。卓越大は次回公募が始まった。丁寧な検証が必要になる。

「トップ10%論文に関しては本当に頭を悩ませている。ただ基本は良い論文を書くこと。本当に研究力を高めることが王道だと考えている」―。東北大の冨永悌二総長は説明する。KPIの一つに若手研究者のトップ10%論文割合を25%に引き上げるという目標がある。トップ10%論文とは被引用数の多い上位10%の論文を指し、この数が研究力を表すと考えられてきた。

世界と同水準で研究し、自然に任せていると10%になる。だが日本は5・1%。13・0%の英国や11・6%の米国に差を付けられ、ブラジルの4・7%に近い水準にある。

これを東北大は大学全体で25%、若手も25%に引き上げる。勝算はある。足元では大学全体で9・8%だが、若手研究者に独立した研究環境を提供し、年間最大250万円や先端設備で支援したところ13・8%まで向上した。環境を用意すれば研究者は応える。冨永総長は「大きな自信になった」と振り返る。

一方で素直な研究環境整備では10%台が限界とも考えられる。海外では被引用数を稼ぐために互いに引用し合うネットワーク構造がある。文部科学省の科学技術・学術政策研究所(NISTEP)の調査で、中国とエジプトやイランなどのグローバルサウスの国々は、その中での被引用数が大きくなっていることが分かってきた。

日本とブラジルは、この国々との結び付きが弱く、同時に欧米とも結び付きが弱い。ただ戦略的に被引用数を稼ぐとしたら、それは自然な学術ではなくなる。東北大は基本に立ち返り研究基盤を強化する。卓越大は次の公募が始まった。KPIを提案する側も審査する側も丁寧な検証が求められる。

日刊工業新聞 2024年12月27日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
いい論文だから被引用数が多いのか、戦略的に被引用数を稼いでいるから優れた研究者と見なされているのか、現在はわからなくなってしまっています。高ければ高いほどいいものでもなくて、やたら高いとなんかやってんなと勘ぐる必要性が生じています。東北大は25%ありきではありません。冨永総長はもちろん、大野前総長も、トップ10%論文のみを追いかけると副作用が大きいから多様なKPIを設定して健全な成長を目指すと仰っていて、副作用があることは承知の上でKPIに掲げています。あくまでもいい研究をして、論文が増えていって、大学としてのプレゼンスが上がっていくと25%に届くだろうという成長ストーリーを描いています。とはいえ平均が25%なので、10%-40%くらいの研究者分布になるとすると、30%以上の研究者は論文の本数を絞ってホームラン狙いになるのだろう、そんな教員の下で博士課程の大学院生は卒業論文をかけるのだろうか。東北大ではないですが、高IFの雑誌にしか投稿を許さず。7年、8年選手の博士課程の院生が昼夜問わずゾンビのように働いている研究室もあったなと思い出しました。国際卓越研究大学が始まる前からKPIに注文を付けるのもなんですが、一度掲げると一人歩きするのがKPIです。次回公募には間に合わないとしても、自然な成長を促すKPIを設計する必要があるように思います。

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