業績好調の旭化成、さらなる稼ぐ力の強化法
旭化成の利益創出力を示す自己資本利益率(ROE)は、2019年度7・6%、20年度5・6%と目標とする2ケタを割り込む水準が続いた。20年度はコロナ禍や石化市況低迷の影響により当期利益が減少したが、21年度は世界経済などの回復により業績は好調、当期利益は過去最高を見込む。ROEの回復も予想するとともに、さらなる稼ぐ力の強化に取り組む。
化学各社の間で事業ポートフォリオによる差はあるが、19、20年度のROE低下傾向は共通する。同業の19、20年度のROEは、三菱ケミカルホールディングスが4・2%、マイナス0・6%。住友化学が3・2%、4・7%。旭化成のROEは両社を上回っており、木住野元通上席理事財務部長は「(19年度に買収した医薬会社の)米ベロキシス・ファーマシューティカルズの組織再編に伴い発生した税金費用の戻りなどにより、21年度のROEは2ケタを超える見込み。22年度以降も継続的に2ケタのROEを目標とする」と話す。
また現在進める事業ポートフォリオ変革はさらなるROE向上のポイントとなる。4月からは事業別にROIC(投下資本利益率)目標を設定。各事業の特性に合わせた指標を用い事業ごとに改善することで、より効率的な利益創出を目指す。
一方、財務の健全性を示すD/Eレシオは、積極的なM&A(合併・買収)や投資を行いながらも目安の0・5倍程度を維持している。1000億円超を投じた米ベロキシス買収により有利子負債が増加し、19年度は18年度の0・31倍から悪化したものの0・52倍で着地し、20年度は0・45倍。化学業界は設備投資額が大きく、柔軟な資金調達のためにD/Eレシオは低く抑える方針の企業が多い。旭化成はその中でも保守的なスタンスだ。住友化学は0・7倍程度を目安とする。
成長投資や温室効果ガス排出削減対策のため投資額の増大が予想され、今後のD/Eレシオの目安は「議論中」(木住野部長)という。また既存事業の利益創出力が一層重要となる。グリーンボンドなどのサステナビリティー関連の資金調達手段も積極的に活用する。事業変革を支える財務戦略を進める。
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