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空を安全に使い尽くせ、ドローン運用管理システム開発の現在地

空を安全に使い尽くせ、ドローン運用管理システム開発の現在地

経産省が作成した未来社会のイメージ

日本の飛行ロボット(ドローン)運航管理システム(UTM)の開発が実用化に向けて“離陸”しようとしている。飛行ルート調整などの基礎的なシステム開発のめどがつき、運用を見据えてユーザーインターフェース(UI)の開発に移る。これは運航管理を担う組織のマネジメントにも影響する。システム運用を組織に落とし込むには時間がかかる。第三者上空の目視外飛行を2022年に実現するには、制度や運用の議論を加速させる必要がある。ドローンベンチャーは固唾をのんで見守っている。(取材・小寺貴之)

「技術面の実証はできた。これで運用の議論が進む」と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の宮本和彦プロジェクトマネージャーは目を細める。29事業者がドローンを一斉に飛ばしてUTMの運用性を検証した。実証試験は1平方キロメートルの空間に1時間で146フライト、最大37機が同時に飛行した。プロジェクトに参画するNTTドコモや楽天など17事業者に加え、一般から名古屋鉄道や三菱重工業など12事業者が参加。機体の監視機能やルート調整機能の信頼性はもちろん、システムに多数の事業者が接続して使うシステム接続性や拡張性を確かめた。

UTMはドローンを高密度に飛ばし、空を安全に使い尽くすために必須のシステムだ。NEDOは各事業者の機体管理システムから情報を集めて、調整管理するUTMを開発してきた。この相互接続を担保するAPI(応用プログラムインターフェース)が事実上の標準になりえる。

そのためシステム開発のプロジェクトではありながら、実態は官民のステークホルダーの技術面での合意形成に近い。開発を担ったNECの橋本研一郎シニアマネージャーは「一企業としてはもっと速く進めたいと思いつつも、一推進者としてはなんとかここまでこれた」と振り返る。相互接続のめどがつき、ほっと胸をなで下ろす。

【行方見守るベンチャー】

ドローンベンチャーにとってUTM整備の進捗は重要な問題だ。実証試験に参加したeロボティクス福島(福島県南相馬市)の山岸和彦工務部長は「監視や調整なしで多数の機体が飛ぶ状況を想像しぞっとした。事業者間で調整するシステムは必須だ」と話す。東日本計算センター(同いわき市)の中野修三執行役員は「無許可で飛ばす野良ドローンへの対応も必要」と指摘する。

現行の市販機は開発中のUTM接続に対応していない機体が多い。そこでドコモは60グラムの小型スマートフォンを使って機体の位置や進行方向を測り、UTMに送る技術を開発した。開発担当の山田武史主査は「スマホとアプリでUTMへの接続性を担保できればコストを極限まで抑えられる」と説明する。

ドコモの60gのドローン監視小型スマホ(手前)

次は運用を見据えた開発に進む。実証試験ではUIの改善の要望が集まった。ただ、UIのデザインは実運用時の申請項目や承認手続きに左右される。実際の運用手順に沿って設計しないと、誰でも簡便に使えるシステムにはならない。

課題はUTMの運用主体が定まっていない点だ。基礎自治体で数人の職員が運用するのか、官庁に専門組織を作るのか、手順や人員によって管理作業や自動化の範囲が変わる。UTMの立ち上げ期は自動化率を減らしてでも運用面のトラブルを洗い出した方がいいかもしれない。

システムの運用を組織に落とし、オペレーションを成熟させるには時間がかかる。実証試験は設備の整った福島ロボットテストフィールド(福島県南相馬市)で実施したが、UTM管理者を増やすには福島以外でも試験や訓練をしたいところだが、試験環境は限られる。視点を変えると、ドローンの操縦が教習ビジネスになったように、運航管理の訓練や代行もビジネスになる可能性がある。

また技術の進歩は速く、制度の整備を追い抜いていく。中国DJIは日本市場向けに重さ199グラムの小型ドローンを製品化した。DJI JAPAN(東京都港区)の呉韜社長は「風のある屋外でまともに飛べる200グラム未満の機体はこれが初めて」と胸を張る。200グラム未満の機体は法規上は模型航空機に分類され、ドローンに必要な飛行計画申請が要らない。私有地やアウトドアなどで気軽に飛ばせる。

199gの小型ドローン(DJI)

200グラムは墜落時にリスクが小さいとされる重さだ。ただ小型ドローンが業務用ドローンに衝突すると重量物が墜落することになる。200グラム以下の小型機はふらつきやすく、風のある屋外では安定して飛行するのは難しいと考えられてきた。だが技術は進歩し小型機が実用化した。22年には申請なしで飛ぶ小型機が増えていると予想される。UTM整備の方針や計画を示さないと、技術と制度のギャップが開いていく可能性がある。

【国交省との連携検討】

UTMは国土交通省の飛行計画の電子申請システム「ドローン情報基盤システム」との連携が検討され、22年から本格的な社会実装が進められる予定だ。残り2年と数カ月で制度設計と組織作り、UI開発にめどを付ける。その間にも空を巡る状況は大きく変わるかもしれない。

NEDOの宮本マネージャーは「官民の制度設計の議論と歩調を合わせつつ、22年度に間に合うよう全力で取り組む」と力を込める。技術開発と制度整備、どちらかが欠けても空の産業革命は実現しない。ドローンベンチャーが飛躍できるかどうか正念場が続いている。

【追記】

 NEDO開発の統合UTMは衝突回避のための事業者間ルート調整の機能がメインで、各機体の安全管理やトラブル対応は各事業者のUTMが担います。各事業者のUTMは一人で管理するものから、組織的に運用されるものまで考えられます。まだ双方を無人化できるほど技術は成熟していません。システム同士の接続と、運航管理者同士の連携は分けて検証した方がいいと思います。統合UTMを運用する組織への落とし込みや、人の連携のプロセス管理。人はコストに直結するので、技術面の合意形成より、運用面の合意形成はハードになるかもしれません。技術がみえてきて、運用を具体的に検討できるようになると、計画目標まで残り時間は短いと感じる次第です。

日刊工業新聞2019年12月2日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
 野良ドローンやドローンへの攻撃を前提に安全策を講じると、どうしてもシステムが高価になってしまいます。ですが100mの高さから機体が落ちて人に当たれば、ヘルメットをかぶっていても首がやられてしまいます。当面は人口密集地を飛ぶよりも、第三者上空とはいえほとんど人がいない地域で採算のとれる仕事を探すことが先で、物流と農地計測、警備と交通量計測など、複数のタスクをこなしてフライトあたりの付加価値を高める必要があると思います。農作物の生育スクリーニングは、農地上空を横断して最短ルートを飛ぶためにも有用だと思います。