この10年で変われなかったサムスン、日本への敬意と依存

日韓関係が動く重要なポジションに

 2010年、ソウルにある韓国サムスン電子の本社へ取材に訪れたことがある。対応してくれたのは、当時、副会長で取締役会議長だった李潤雨(イ・ユンウ)氏。同社の中興の祖、二代目会長の李健熙(イ・ゴンヒ)氏の右腕として、技術開発や日本など対外交渉を取り仕切り、サムスン躍進の実質的な立役者と言われている。

 そんな大幹部である李潤雨氏は興味深いことを話してくれた。「これまではテレビや半導体など単品商売で成長してきたが、今後はハードとサービスを一緒にしたソリューションに取り組まないといけない」と危機感を示し、米アップルなどを意識したビジネスモデルを志向する考えを力説したのだ。

 サムスンはその年、設立40周年を迎え前年には「ビジョン2020」を発表。2020年に売上高を4倍の4000億ドル(約43兆円<18年実績は約21兆円>)にするという壮大な目標を掲げていた。トップの李健熙氏も社内に対し「今の事業や製品は、10年以内に多くが消える。そうなれば、また一から始めなければならない。躊躇している時間はない」と警告を発していた。

 既存事業のほかに医療、環境、バイオなどへの進出ー。それから約10年たった現在、その構想は実現していない。成長を牽引してきたスマートフォンは、中国勢の台頭でこの数年、利益が急減。半導体頼りが鮮明になっていた。

 しかし2019年4ー6月期の半導体部門の営業利益は前年同期比71%減少。さらに日本の輸出規制強化を受け、半導体生産に欠かせない部材を機動的に調達できないリスクが浮上している。輸出手続きを厳格化した高純度のフッ化水素とレジストは、回路線幅5ナノ―7ナノメートル(ナノは10億分の1)の最先端半導体の製造に不可欠な材料だ。その主な用途は人工知能(AI)と第5世代通信(5G)。

 李潤雨氏は当時の取材でも、日本の競争力について「一部製品でシェアは落ちているが部品や素材産業は世界に誇れる」と高く評価。中小企業などが育っていないことを韓国の課題としてあげ、日韓の補完関係の重要性を説いていたのが印象的だった。

 韓国の輸出全体の約2割を占めるサムスンの業績が韓国経済に与える影響は大きい。現在、サムスンの経営トップである李在鎔(イ・ジェヨン)副会長が7月に来日、さまざな日本企業の幹部と接触、輸出規制強化の打開策を模索したと言われている。李健熙氏を父に持つ在鎔副会長は朴槿恵への贈賄疑惑で8月中に最高裁判決が出る予定。

 サムスンは必ずしも文在寅政権と一枚岩ではないという見方もある。サムスンは今後、日本そして韓国政府とどう向き合っていくのか。日韓関係の重要なポイントでもある。

  

ファシリテーター紹介

記者・ファシリテーターへのメッセージ

この記事に関するご意見、ご感想
情報などをお寄せください。