韓国政府の民間救済、「国家レベルで日本の造船業を守ってもらうしかない」

造船工業会会長(IHI会長)・斎藤保氏インタビュー

 造船業界は世界的な過剰船腹が続き、低コストを武器とする中国・韓国勢との競争などで依然厳しい環境にある。他方で環境規制強化で得意とする高付加価値船や省エネルギー船の需要増加が見込まれるなど、明るい材料もある。業界として今後取るべき方向性は何か。6月に就任した日本造船工業会の斎藤保会長(IHI会長)に聞いた。

 ―現在の業況は。
 「好調とまでは言えないが良くなっているのは確か。米中貿易摩擦の影響は短期的にはあるだろうが中長期には何とも言えない。中国との取引が制限された結果、多くの企業がベトナムやフィリピンに拠点を移しており、アジアシフトが進むだけとの見方もある」

 ―韓国、中国とも再編で造船所の大型化が進んでいます。どう対処すべきとお考えですか。
 「会長就任時、経営基盤の強化と技術基盤の強化、国際協調の推進。この三つが大切だと申し上げた。経営基盤の強化は各企業の努力次第だが、あくまで国際協調ができていることが前提。安値受注で公正競争がゆがめられてしまっては、各企業の努力も無意味になってしまう」

 ―韓国の大宇造船海洋への融資が政府による民間救済に当たるとして、2018年に世界貿易機関(WTO)に提訴しました。
 「民間や一企業の力ではどうにもならない。国家レベルで日本の造船業を守ってもらうしかない」

 ―ロボットや人工知能(AI)、IoT(モノのインターネット)活用は。
 「国土交通省の海事生産性革命『iシッピング』計画では、新型船の開発期間半減、サプライチェーンを含めた全体の生産性を50%増、25年に世界建造シェア3割を目指す目標を定めた。これをどう実現するか、委員会を設立し、検討作業を進めている。個別企業の中には(IoTなどの)対応が進むところもあるが、一方で改善余地がまだ大きいことも事実。そうしたところを中心に導入を進める」

 「高齢化で退職年齢が迫る熟練工のノウハウをどう保存するかも課題だ。これらはロボットでは代替できない。AIを有効活用したい。ロボットのシステムエンジニアが足りない問題も大きい。今後はロボットが動きやすいように障害物をなくしたり、ラインを直線にしたりと工場の変更も必要だろう」

 ―いずれも人材確保が課題です。
 「基本的には造船業に夢を持ってもらうことだと思う。小さいころから造船業に憧れや好意を持たせる努力は非常に重要だ。造船学科を持つ大学が8校あり、連携を強化したい。造船業は部品加工などで裾野が広く、基幹産業に十分なれる可能性がある」

【記者の目】
 最盛時、世界シェアの過半を占めていた日本造船界も韓国、中国に抜かれ、現在は約1割が定着。両国は政府の後押しもあって大型再編を進め、規模に物を言わせて同型船を大量受注、コスト競争力を高めている。一方で技術力や環境規制対応力の高さなど日本に利もある。斎藤会長が言う、若い世代に夢を持たせる努力も大切だ。
(嶋田歩)

日刊工業新聞2019年7月22日

  

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