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“生産地獄のテスラ”とパナソニックが付き合う意味

電池技術の力を示すインジケーター
“生産地獄のテスラ”とパナソニックが付き合う意味

テスラ公式ページ(イーロン・マスクCEOと「モデル3」)

パナソニックは電池など環境領域に関わる車載部品の2018年度売上高を、16年度比88%増の7500億円に大きく伸ばす計画だ。電気自動車(EV)メーカー、米テスラ向け車載電池の販売拡大が貢献する。

 テスラは足元で新型車の生産立ち上げに苦戦するが、既存車種の販売は好調。17年の納車は前年比31%増の10万台に迫る勢いだ。テスラとの事業は投資リスクもあるが、パナソニックの成長を大きく後押ししているのも事実だ。

 テスラは17日、新型スポーツEV「ロードスター」とEVトラック「セミ」を市場投入すると発表した。ロードスターは最大航続距離1000キロメートル。時速60マイル(約96キロメートル)まで、わずか1・9秒で達する。

 セミは最大航続距離800キロメートルで、車線維持システムなどのオートパイロット機能を備える。テスラ最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスクは「100万マイル(約160万キロメートル)走行しても壊れない」と自信満々だ。

 現時点で、テスラの新型EVに電池を供給した実績があるのはパナソニックだけだ。テスラには中国でEV工場を建設するとの観測もある。パナソニックは近い将来、テスラとのさらなる投資を決断する可能性がある。

 マスクは常人離れした発想で知られる。再利用型ロケットで世界の都市を結び、ニューヨークと上海を39分間で移動する構想などを掲げている。

 電池工場のギガファクトリーも「世界中に10カ所造りたい」と発言している。蛮勇にも思える起業家精神だが、約100年を経て大企業になったパナソニックに足りないものでもある。

 パナソニック社長の津賀一宏は1月にギガファクトリーで会見し「投資が大きいか小さいかではなく、電池で世の中を変えられるかどうかが最大の興味」とマスクの精神に共鳴してみせた。

 テスラとの協業は起業家精神や斬新(ざんしん)な発想を取り入れる投資でもある。マスクの新しい発想にどこまでついていけるか、パナソニックの力も試される。

太陽電池事業でもシナジー


 「テスラが『モデル3』の立ち上げに苦戦している影響で、これ以上電池を生産できない」。社長の津賀は10月末、米ネバダ州の電池工場「ギガファクトリー」の稼働遅れに言及した。

 テスラの新型車モデル3の生産が計画通りに進まず、パナソニックはモデル3向け電池セルの生産停止に追い込まれた。テスラのマスクも「我々は深い“生産地獄”の中にいる」と、モデル3の生産遅れを認める。

 原因とみられるのは、テスラの電池パック自動生産ライン。パナソニックは自動ラインに代わって、手作業で電池パックの組み立てを手助けしているという。

 テスラは2018年1―3月に週5000台のEV生産を軌道に乗せるとするが、当初計画より3カ月遅れる。パナソニックの17年度業績への影響も避けられそうにない。

 パナソニックは17年6月、工場内でモデル3用のリチウムイオン電池セルの生産を始めた。20年のフル稼働までに約2000億円を投じる。

 モデル3は7月に出荷を始めたテスラ初の量産車。50万台もの予約を受けている。モデル3の生産遅れは、両社の経営を左右しかねない問題だ。

 パナソニックはテスラとの協業を決めた当初から投資リスクを指摘されてきた。それでも16年12月には、太陽電池事業にも協業範囲を広げ、19年までに計300億円を投じることを決めた。リスクを冒してもテスラと協業する理由は何か。

 副社長の伊藤好生はテスラとの関係を「電池技術の力を示すインジケーター」と表現する。世界トップクラスの性能を持つテスラのEVに電池を供給すれば、安全性を含む最高レベルの電池技術を持つことを示せる。

 太陽電池でもテスラは米国最大の設置量を持つ。縮小した日本市場で窮するパナソニックの太陽電池事業は、テスラを通じた米国市場の開拓に活路を見いだそうとしている。
テスラと協業する電池工場「ギガファクトリー」

(敬称略)
日刊工業新聞2017年11月24日/25日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
このままいけば車載電池事業の売上高の5割超をテスラが占めることになる。リスクはあって当然、むしろここまで電池事業のトップラインを伸ばしてきたことをよしとすべきだろう。対テスラビジネスに関してはいかにサムスンなどが入る込んでくる隙間を小さくするか、テスラ以外の顧客部分をどう伸ばしていくか。電池部門におけるアカウント攻略でどう組織を動かしていくのかに注目したい。

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