オンラインでロボット競技会、現実と仮想をどう融合するか

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生活支援ロボのシミュレーションリーグ。運営の稲邑准教授が解説し中継

ロボット競技会「ロボカップ」が、オンラインでの競技会開催に挑戦している。ロボットは実機が前提となる研究分野で、人工知能(AI)やデータ分析に比べ、競技会自体をオンライン化することは簡単ではない。そこでロボットシミュレーターの活用や競技会場にある実機の遠隔稼働、複数の競技会場をネットでつなぐなど、さまざまな手法が試されている。産業界でも技術営業や技術コンペティションでオンラインの重みが増している。学術界の挑戦は産業界の糧になるか。(取材=小寺貴之)

新たな競技スタイル試行

「集まるだけがロボカップではない。リアルとオンラインを融合させて時代に合った形にしていく」とロボカップ日本委員会の岡田浩之玉川大学教授は説明する。ロボカップは3月に予定していたジャパンオープン2020を延期し、オンラインに切り替えて9月から各リーグの競技を順次開催している。

9月に龍谷大学の瀬田キャンパス(大津市)で工場内物流をテーマにしたロジスティクスリーグをリモート方式で開催。サッカーやレスキュー、生活支援ロボのシミュレーションリーグを開いた。19日には実機を使った生活支援ロボのリーグを開く。

生活支援ロボがゴミ捨てに挑戦(オンライン中継)

特徴は実機とシミュレーションで、さまざまな競技形式に挑戦している点だ。そして大学研究者の取り組みであるため、極力費用がかからないように工夫している。例えばサッカー競技は2次元のシミュレーションに絞った。参加チームはプログラムを提出し、コンピューターの中で自動で対戦をこなしていく。大阪府立大学の中島智晴教授は「プログラムの動作テストやアナウンスなどをボット(自動応答ソフト)で自動化した」と説明する。これで競技者は24時間対応でプログラムチェックができるようになった。世界から競技者が集まっても対応できる。

シミュレーション・AI活用工夫

競技観戦は、AI技術で盛り上げた。深層学習で4000試合のデータから学んだAIが得点が入りそうな気配を数値化。この気配に応じて歓声が大きくなったり、小さくなったりする。シュートが決まっても、ボールをクリアしても、見せ場だとわかる仕組みだ。

レスキュー競技もシミュレーションで開催した。大地震が起きた都市で、ロボットが、がれきをどかして道を開通させたり、消火したりと、広域での分散協調戦略を競う。競技は実施できたものの配信に苦労した。愛知大学の岩田員典教授は「オンラインで授業への質問対応をしつつ、並行して配信もする時間があった」と振り返る。コロナ禍で春と夏の学会活動が延期され、秋と冬に集中している問題もある。

生活支援ロボの競技では10月30日−11月1日にシミュレーションリーグが開催された。このリーグではロボットのプログラムを提出する方式はとらなかった。競技会場をシミュレーター上に再現して、このサーバーにロボットのプログラムがアクセスし競技に参加する。利用する基本ソフト(OS)やライブラリ(プログラムの部品を一つにまとめたもの)がさまざまで、複雑なシステム同士を競わせるケースに向く。

ロジスティクスリーグの競技会場。現地では大学生が技術サポートした(オンライン中継)

シミュレーターの中ではアバター(分身)がロボットに指示し、ゴミ捨てなどのタスクを実行させる。アバターが机上のペットボトルを指して「あれ捨てといて」と適当な指示をしても、ロボットは指先の延長線上の物体を特定し、それがペットボトルであると認識し決められたゴミ箱に捨てるという技術が問われた。指示の理解と物体認識、移動、把持、間取り把握など複合的な機能が求められる。

国立情報学研究所の稲邑哲也准教授は「競技者は研究室に集まり開発するチームが多かった。競技会がリモートで開催されただけで、大きな影響はなかった」と説明する。開発中はメンバー間でウェブ会議システムをつなぎながら、運営側もテキストチャットで回答するなど、リモートでの共同作業は日常になっている。

課題は競技としての公平性を担保する部分だ。同リーグはロボットの一般の人との対話能力を競う。この一般の対話者の接続が悪く特定のチームが不利になると不公平になる。対話者はインフラの整った施設に集めるなど工夫が必要になる。

会場の実機をリモート操作

最も苦労したのは実機を使った競技だ。ロジスティクスリーグでは、龍谷大に集めた実機に高校生たちが接続して、物流コードの読み取りなどのタスクを実施した。

高校側のネットワークの事情で参加校の数だけ、接続方式が変わった。接続トラブルが続発し、競技会場の大学生はトラブル対応に奔走。最終的に高校からプログラムをメールで送り、USB経由で会場のロボットに導入した。

同大の植村渉講師は「ロボカップは世界大会でも無線ネットワークが鬼門だ。今回も安定した接続を確保するのに一番苦労した」と振り返る。機体は移動部分が独フエスト製で、アーム部分がデンソーウェーブ製だった。植村講師は「共通部分が多く、何とか運営できた」と説明する。

19日には生活支援ロボの実機リーグが始まる。大学など複数の拠点に競技フィールドを設置し、現地で実演する様子をオンラインでつなぐ。機体はトヨタ自動車の生活支援ロボ「HSR」などを使う。運営の難しさを想定して、タスクを厳選して実施する。

実行委員長を務める愛知工業大学の伊藤暢浩教授は「実施して良い点は大会を継続できることに尽きる」と説明する。

サッカーシミュレーションリーグ。黄色チームがゴール前に迫る

コロナ禍で大会が中止されると次年度以降つながらない。同時にコロナ禍だからこそ、世界中の研究者が同じ環境でシミュレーションを実行し、結果を確認できる仕組みを開発した。

性能評価方法も再構築

競技自体も変化の必要性が出てきている。玉川大の岡田教授は「これまでは会場に集まれば現地でどうにかできた。リモートで時差もあると難しい。評価自体を細分化し、標準性能評価(STM)を作る必要がある」と指摘する。

STMは物体認識や移動、把持など、ロボットユーザーの視点でロボットの機能を分解し性能を評価する仕組みだ。対テロや災害対応ロボで整備が進んでいる。生活支援ロボもSTMを整備し、競技会を通してロボットユーザーの声を集め、評価体系自体を磨いていく必要がある。

コロナ禍で競技会がリモート化し、運営の24時間対応やシミュレーションの活用、評価体系の再構築など、課題の発見と進歩があった。技術を発信する競技会の次の形が生まれようとしている。

日刊工業新聞2020年12月10日

COMMENT

小寺貴之
編集局科学技術部
記者

ロボカップのオンライン開催は、改めてロボカップを発明しているかのようです。課題は山積みですが競技会はできそうです。ロボカップの社会とロボット開発コミュニティーをつなぐ部分が、オンラインになって課題になっています。ロボット好きのお父さんが子供を会場に連れてくるようなことができません。開催を誘致する地方自治体が集客していたのでアカデミアだけの発信力では弱い面があります。ただ動画はコンテンツとして長く残ります。チームの成長が見える化されると思います。ただ成長していないチームも記録として残るので痛し痒しかもしれません。

キーワード
ロボカップ 玉川大学

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