【AI新時代】業務の高度化を図る三菱UFJモルガン・スタンレー証券の生かし方
業務高度化
三菱UFJモルガン・スタンレー証券はコンプライアンス(法令順守)の面から人工知能(AI)を活用し、フィデューシャリー・デューティー(顧客本位の業務運営)の強化につなげる。4―5年前から営業員が顧客への提案や連絡状況を記録した日報をAIで分析しているのに加え、9月には顧客との通話記録のデータをAIで解析するシステムを導入する。AIを使って業務の高度化と効率化を目指す。
AIで通話記録を解析するためには、まず通話音声をテキスト化する必要があり、7月に音声テキスト化のシステムが完成した。それを日報同様にAIが解析し、問題のありそうな部分をスクリーニングした上で内部管理責任者に配信される仕組みだ。日報はあくまで営業員が提出したものが対象になるため、分析するにも限界があった。
全営業員の携帯電話や固定電話での通話量は、音声をテキスト化したもので換算すると1日当たり約15万メガバイトに上る。営業員が手入力する日報は約10メガバイトのため、通話記録は約1万5000倍と膨大な情報量となる。業務量は確実に増えるが、AIの活用で業務の高度化と効率化を目指す。例えば、顧客の意に沿わない取引につながりそうなキーワードをAIに学習させてリスクを定量化する。
テキスト化
音声データは翌々日にはテキスト化しスクリーニングした上で内部管理責任者へ配信される。1日約1万件の受注がある中、これまでは通話記録の中からリスクが高そうな部分を探りながら実際に音声を聞いて確かめる必要があった。1日に平均4時間も担当者が通話録音を聞かなければならないなどストレスを伴うほか、手間とコストがかかっていた。宮田典行執行役員営業考査部長は「トラブルなどが発生した後のモニタリングではなく、未然防止により重心を置きたかった」と新システム導入の狙いを語る。
構造改革推進
証券業界では主力事業である株式などの取引回数に応じた売買手数料は減少傾向にある。三菱UFJモルガン・スタンレー証券は、投資助言サービスを通じて顧客の預かり資産残高を増やすアドバイザリー型の収益構造へとビジネスモデルの構造改革を進めている。顧客が望まない取引の未然防止に加え、営業員の提案力の質向上にもつなげたい考えだ。「ビジネスモデルを転換する中で顧客からアドバイスに対する手数料を頂くには、営業員の提案の質が担保されなければならない」(宮田執行役員)と強調する。(高島里沙)