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【ディープテックを追え】「ディープラーニング」ではないAIで狙う市場は?

#23 エイシング

2000年代から現在まで続く「第三次人工知能(AI)ブーム」。火付け役になった深層学習(ディープラーニング)は、膨大なデータをクラウドコンピューティングを使い、処理することでAIが自ら学習、知能を得ることを可能にした。様々な産業で応用が進む一方、大容量のデータを使うことで生じるコストや高い演算能力を必要とする点がネックとなり導入が進んでいない産業も多い。

そこでFA機械や輸送機械向けに注目されているのが、端末側に組み込んで使うエッジAIだ。エイシング(東京都港区)はセンサーなどのデータから機械制御を行うエッジAIを開発している。

USBを差し込むだけで使えるお試しタイプも

指先サイズのAI

同社のAIの特徴は対応のスピードにある。独自のアルゴリズム「メモリーセービングツリー(MST)」に強みを持つ。MSTは木構造のアルゴリズムだ。ディープラーニングでは、通常ではほとんど起こりえない結果も学習することで精度が下がる。MSTでは、通常起こりえる範囲のみのデータを学習する。データ処理の範囲を切り分け、対象となるデータにはまるとアルゴリズムが分岐する仕組みだ。加えてデータの範囲を決めることで高い演算能力を必要としない。また、追加学習を行うことで機械の個体差や経年劣化などを補正する適応性のあるAIだ。

指先サイズでAIを活用できるのが同社の魅力
同社のAI組み込みマイコンのイメージ

ディープラーニングとは異なり、センサーなど比較的小さいデータを直列で処理し、学習と予想に用いる。追加学習に使用したデータは掛け捨てする。データが蓄積し、メモリーを圧迫しないよう学習したモデルのみをAIが保持する形を取る。また、AIが利用するメモリーの上限をユーザーサイドで決めることができる。産業機械に使われるマイコンなどの半導体に組み込むことでコストを抑えつつ、AIの活用を可能にするものだ。

画像処理など高い演算能力を必要とする業務には向かないが、路面データに基づく自動車や製造機械の制御など、対応にスピードが求められる分野で力を発揮する。出澤純一最高経営責任者(CEO)は「これまでコストの問題でAIを搭載できなかった製品にも組み込み式で搭載することができる」と力を込める。

コスト低減効果も

2018年にはオムロンと共同で、製造機械を制御するプログラマブルロジックコントローラ(PLC)にAIを搭載した製品を開発した。オムロンが実施した技術検証では、2次電池のセパレーターに使う樹脂フィルムを巻き取り裁断する工程で生産ロスを減らすことに成功。金額にして4000万円ほどのコスト効果だという。以前は工場の温度や湿度などを感知し制御するのに、10秒ほどかかっていたもの1秒まで短縮した。出澤CEOは「製造業にある、産業革命以降の命題『生産性』と『品質』のトレードオフを解消したい」と話す。

出澤CEO

同社は様々な産業用途での活用を想定しており、例えば自動運転。自動車の加速度データを参照しその後の動向を予想する。それにより少ないデータ数で最適な行動をフィードバックできる仕組みだ。それ以外にもコストを抑えつつ、AIを搭載しながら品質の向上を目指したい分野を中心に需要の掘り起こしを目指す。ディープラーニングで失敗した共同研究を再生させる「Re-PoC (リポック)」も始めた。実際、同社は50社ほどのパイプラインを持っている。出澤CEOは「エッジAIを使って、『これ以上は難しい』とされていた機械制御の効率化の分野でブレイクスルーを起こしたい」と意気込む。

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小林健人
小林健人 KobayashiKento 第一産業部 記者
AIといえば、「GAFA」に代表されるテックジャイアントの激戦領域です。しかし、彼らが得意なのはクラウドコンピューティングを用いたディープラーニングです。まさにエッジAI領域はブルーオーシャンといえます。日本のお家芸である機械制御との相性の良さも競争優位に働きます。日本勢の巻き返しに期待したいです。

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