【ディープテックを追え】「アンモニア製造」に100年ぶりの革命
農業用肥料や工業原料など幅広い用途で使われるアンモニア。主な製造方法は100年以上前に生まれた「ハーバー・ボッシュ法」だが、日本から新しい製造法が生まれようとしている。つばめBHB(東京都中央区)はアンモニアの製造を小規模で行えるプラントの研究開発を手掛ける。
小規模でアンモニア製造
20世紀初頭にドイツで生まれたハーバー・ボッシュ法は「空気からパンを作る」と謳われ、農業生産の飛躍的な向上に貢献した。一方、空気中の窒素と水素を原料に200気圧から350気圧、500度の反応条件を必要とするため、エネルギー負荷が高く、大規模プラントを必要とする。
つばめBHBが手掛けるのは、これまでとは違い「低温、低気圧」でアンモニアを製造するプラントだ。そのカギを握るのが、東京工業大学の細野秀雄教授が発見した「C12A7エレクトライド触媒」だ。
エレクトライド触媒は、セメントの構成構造に電子を取り込んだエレクトライドにルテニウムナノ粒子を固定化させたもの。従来よりも10倍の触媒効果を持ち、アンモニアの生成反応に必要なエネルギーを低減することができる。この触媒を用いて、これまでより低温かつ低気圧でアンモニアを製造する。同社はオンサイト(現地)製造を行う施設を提供し、アンモニアの流通に変革を起こす。
生産の遍在を解消
「アンモニアの価格のほとんどは輸送と保存にコストを費やしている」。こう話すのは中村公治執行役員。実際、アンモニア生産は消費国や、エネルギー源の天然ガス生産地に集中している。オンサイト設備をアフリカなど生産量の少ない地域に設置し、地域の遍在を縮小させる計画だ。また、利用地域での生産を可能にすることで、輸送にかかる二酸化炭素(CO2)を削減できる。
アミノ酸を製品に利用する工場内に設置することを想定。すでに川崎市のパイロットプラントで年間20トンの生産能力を実証しており、21年から利用企業などから受注を開始し、23年中の納品を目指す。
近年の脱炭素の流れも追い風だ。次世代エネルギーとして、水素を活用した発電の研究開発が進んでいる。だが、水素を輸送するため液化する際に大量のエネルギーを必要とする。そこで水素キャリアとして有力なのがアンモニアだ。輸送ノウハウが多いアンモニアを水素に変えて利用する。再生可能エネルギーで作った電気でアンモニアを製造すれば、製造時も利用時もCO2を排出しない「クリーンアンモニア」になる。ただ、「電気からアンモニアを製造し、それをまた水素に変換するのはエネルギー効率の観点から見て疑問はある」(中村執行役員)。可能性は残しながらも、連携する企業との間でエネルギー効率の最適化をする必要があると見ている。
連携で「死の谷」を超える
また、同社は事業会社との提携にも積極的だ。株主でもあり、アミノ酸を製造に使う味の素や、プラントの運用や建造では第一実業、輸送ノウハウを持つ日本郵船など、パートナーの範囲はアンモニアにかかわる川上から川下まで多岐にわたる。
中村執行役員は「ベンチャーがすべてを手掛けようとすると、資金も時間も足りない」と話し、「我々の強みは触媒。そこを中心に業務提携を通じて、事業範囲を広げる」と展望を話す。
ベンチャーには、製品を量産化していく最も難しい「死の谷」と呼ばれる期間が存在する。ここを乗り越える意味でも事業会社との積極的な連携は極めて重要だ。アンモニアの消費量は今後緩やかに増加するとされ、安定生産の確立は急務だ。
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