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ゆっくり冷やすだけ。銅スラグの鉛・ヒ素を封じ込める

愛媛大が手法開発
 愛媛大学大学院理工学研究科の武部博倫教授らの研究グループは、銅製錬で生じるスラグから有害物質が溶出しないように封じ込める手法を開発した。特別な工程の追加は不要。スラグをゆっくりと冷やすだけで有害な鉛とヒ素が不溶組織に取り込まれる。土壌汚染対策法の試験に使われる塩酸への溶出量を従来に比べ10分の1以下に減らし管理基準を満たした。道路の路盤材などの製品展開につながる。

 銅スラグをコンクリートや道路に用いるためには、不純物の地下水溶出や口に入った際の健康リスクについて、土壌と同じ基準を満たす必要があった。直接摂取リスクは不純物の塩酸への溶出量で評価する。一般に銅スラグは塩酸溶出試験を通過できずセメント原料など用途が限られていた。

 研究グループは銅スラグの冷却速度を10分の1以下に落としスラグ中の鉄酸化物などを結晶化させた。すると残りのアルミナなどが酸に溶けにくい不溶組織を形成した。この不溶組織が鉛とヒ素を取り込み封じ込める。塩酸溶出試験では従来のスラグは1キログラム当たり368ミリグラムの鉛、179ミリグラムのヒ素が溶出していた。徐冷スラグでは鉛は21ミリグラム、ヒ素は4ミリグラムと、10分の1以下に抑えられた。

 製錬所では高速で処理するため、溶けたスラグを大量の流水に加えて急冷する。今後、冷却速度などを検討し処理効率を高める。スラグが商品として売れないと産業廃棄物として処分費用がかかる可能性があった。

 銅スラグを道路の路盤材やコンクリートの骨材など使用量の多い用途に販売できるとスラグの安定処理につながる。
日刊工業新聞2016年6月16日 科学技術・大学面
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
銅鉱石の3分の1は銅に、3分の1は硫酸などの硫黄に、3分の1はスラグになります。スラグの販売先確保は長年の課題で、「スラグが止まれば、炉が止まる」と言われるほどです。いわゆる「トイレのないマンション」になりかねず、買い手が強いです。背景には食べても大丈夫なスラグでないとコンクリートの骨材に使えないなどの制限があります。食べても大丈夫が塩酸溶出試験です。コンクリート材料に土と同じ安全基準を求めるのは厳しすぎるかもしれませんが、法律で決められているため守らねばなりません。今回、武部先生たちはスラグの冷まし方を変えるだけで鉛とヒ素を封じ込めることに成功しました。処理効率など改善は必要ですが、スラグを安く資源に変えるかもしれません。(日刊工業新聞科学技術部 小寺貴之)

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