【アイシン精機】「絶対に負けられない」電動化対応ブレーキの戦い

【連載・企業研究(4)アイシン精機】

 「もっと電動ブレーキの分野に人を出せないか」。アイシン精機社長で走行安全バーチャルカンパニー(VC)プレジデントを務める伊勢清貴はこの1年ほど、幾度となく事業のスクラップ・アンド・ビルドを指示し、新規領域への経営資源のシフトを厳しい態度で実行してきた。

 同VCはブレーキやシャシーなど、車の「走る」「曲がる」「止まる」の制御に関わる事業領域をカバーする。中でも今後の柱に据えるのが、回生協調ブレーキをはじめとする電動化対応ブレーキだ。電動パーキングブレーキの需要も伸びており、この分野も人員を増やしている。電動化だけでなく、自動運転での採用が見込まれる電動ブレーキや、関連する車両運動制御領域の強化が同VCの大きなテーマだ。

外野の視点


 開発畑の伊勢には、技術者らが自ら手がける製品や事業にこだわる気持ちは身に染みて理解できる。一方でトヨタ自動車出身という、ある意味で外野の視点も持つ。それだけに、こだわり以上に「今、筋肉質にしなければ勝ち残れない」との危機感が勝る。

 伊勢は今後の競争力や成長潜在性などを鑑みて足回り部品を再編、効率化し電動ブレーキ事業への人員配分を加速。自らスクラップ・アンド・ビルドを実行し注力分野に人員を出す姿を周囲に見せた。不退転の姿勢を示すと同時に、より人材を有効に活用できる流れを作り出す。

 経営資源を集中的に投入するのは、制御ブレーキをメーンで手がける、グループ会社のアドヴィックス(愛知県刈谷市)だ。同社を軸とした事業再編も着々と進む。2018年にアドヴィックスの完全子会社となった豊生ブレーキ工業(同豊田市)にドラムブレーキ事業を集約し、この先も需要が見込める同事業の開発体制を効率化。さらにアドヴィックスは半田工場(同半田市)を拡張中で、新築部分にディスクブレーキ事業を集約するなど、生産体制も整えている。

伸びしろ大きい


 アイシン、デンソー、トヨタ、住友電気工業が出資し、各社のブレーキ部門の統合で01年に設立したアドヴィックスは、収益的にはまだおぼつかない。伊勢は「つまりは伸びしろが一番大きい所かもしれない」と分析する。収益力を高め、一つの経営の柱にすることを期待する。

 「ブレーキ事業はまだ独ボッシュや同コンチネンタルに次ぐ3番手だが、絶対に負けられない」―。伊勢の目はすでに、事業再編後のグローバル競争でどう勝ち抜くかに向いている。(敬称略)

「事業効率化し次世代技術に対応」/伊勢清貴社長に聞く


 ―ブレーキシステムを手がけるグループ会社、アドヴィックス(愛知県刈谷市)の体制強化を加速しています。
 「走行安全バーチャルカンパニー(VC)の最も大きな柱が電動ブレーキで、これをアドヴィックスがメーンで手がけている。アイシン精機側からも人員を出したり、ドラムブレーキ事業を子会社の豊生ブレーキ工業(愛知県豊田市)に集約するなどして、電動ブレーキ事業に関わる人員を厚くする」

 ―アドヴィックスと豊生ブレーキを経営統合する考えは。
 「ドラムブレーキの需要が急激に落ちれば考えなければならないが、低コストのメリットもあるので一定量は維持できるのではないか。事業ごとの分離ができており、開発や設計者のアドヴィックスへの集約も進んだ。今のところ、経営統合の必要性が高まっているとは考えていない」

 ―シャシー事業でも再編を実施しました。人員シフトは円滑に進んだのですか。
 「いろいろと議論はした。やはり自分たちが手がける製品にこだわりがなくては、良いモノができる訳はない。良い意味での執着はしてほしい。ただ(アイシングループとして成長するという)より上位の視点に立てば『ここはおかしいよね』という部分も出てくる。それを判断すれば、その先に進める。事業の取捨選択はトップの仕事だと思う。議論も良いが、どこかで決めなければいけない」

 ―経営資源を振り向けるには、仕事の効率化も必要になります。
 「人工知能(AI)やITを使うといった効率化が一つ。もうひとつ、本来やれるはずの経営資源の中で業務を行うことが大切だ」

 ―具体的には。
 「顧客からの仕事を受ける上で、実は複数の工程で同じ事をやっていたということがある。顧客からの要求でやらねばならない部分もあるが、本来はおかしい。そこを変える。顧客にとっても、より小さい経営資源で部品開発ができればコストも下がり、メリットがある。(重複をなくし、より効率化する)ためのスクラップ・アンド・ビルドでもある」

 ―電動ブレーキ以外の事業展望は。
 「シャシー分野は経営資源を分散させずになるべく固めて、トヨタ以外への拡販を進めたい。また自動バレー駐車システムも重要な分野だ。アイシンが手がけるドライバーモニターの開発強化など、力を入れる」
(文=政年 佐貴惠)
アイシン精機社長(走行安全VCプレジデント)の伊勢清貴氏

連載・企業研究 アイシン精機


【01】CASE時代へ、東京事務所の“壁”を壊したアイシン精機の危機感(2019年4月1日配信)
【02】経営改革を断行する“連結の申し子”のビジョン(2019年4月2日配信)
【03】グループ企業の経営統合へ突き動かしたドイツの脅威(2019年4月3日配信)
【04】「絶対に負けられない」電動化対応ブレーキの戦い(2019年4月4日配信)
【05】競合相手と統合して得たモノ、得ていないモノ(2019年4月5日配信)
【06】シートやドアを自動制御、コンセプトカーが現実になる日(2019年4月6日配信)
【07】規模3年で倍に、成長性を確信する事業の正体(2019年4月7日配信)
【08】CASE対応へ社長が考える選択と集中の軸(2019年4月8日配信)

日刊工業新聞2019年3月21日記事に加筆

政年 佐貴惠

政年 佐貴惠
04月04日
この記事のファシリテーター

伊勢社長自らが引っ張る走行安全VCは、攻めの体制を整えている最中。トヨタでシャシー技術領域長や先進技術開発カンパニープレジデントなどを歴任した伊勢社長だからこそ、専門家として切り込める部分は多そうだ。アイシン、アドヴィックスに加え、同じく車両走行に関わる領域を手がけるデンソーとジェイテクトの4社で新設した自動運転に関する共同出資会社の行方も、今後の焦点だ。

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