ニュースイッチ

【アイシン精機】グループ企業の経営統合へ突き動かしたドイツの脅威

【連載・企業研究(3)アイシン精機】
【アイシン精機】グループ企業の経営統合へ突き動かしたドイツの脅威

アイシン精機が開発する電気式ユニット「eAxle(イーアクスル)」

 10年ほど前、自動車部品大手の独コンチネンタルや同ボッシュの台頭を目の当たりにした自動変速機(AT)大手、アイシン・エィ・ダブリュ(AW)社長の尾崎和久は、危機感を覚えていた。「日本でもドイツの力が突出し、競争に負ける状態が出るのではないか」―。技術役員同士の議論の末、尾崎はグループ企業のアイシン精機やアイシン・エーアイ(AI、愛知県西尾市)の役員に連携を持ちかける個人活動を始めた。

連携のタネ開花


 そして今、尾崎は変速機を中心とした「パワートレインバーチャルカンパニー(VC)」プレジデントとして、仕込んできた連携のタネを花開かせている。手動変速機(MT)を手がけるAIでのAT部品生産や、グループのアート金属工業(長野県上田市)へのエンジン用ピストン事業の集約などだ。アイシン副社長の三矢誠は「AWがAIの工場を使うなんてありえなかった。この2―3年で変わってきた」と、驚きを隠さない。4月にはAWとAIが経営統合に踏み切る。仮想でないリアルの融合が進んだ最初の事例だ。

 事業の効率化で創出した人員は、注力領域である電動化の分野に振り向ける。パワトレVCの開発部隊のうち、電動化に関わる人員の比率は、VC設置前の15%から現在は40%に上がった。将来は60%まで高める計画だ。尾崎は「VCの中で動きが活性化し、やりやすくなった」と手応えを感じる。

 生産だけでなく営業面でも顧客向け戦略会議の方法を、より連携した形に変えた。米国ではこれまでアイシンが商用車AT、AWが乗用車AT、AIがMTと、別々に会議していた。これを一本化し、顧客にもワンストップで対応できるようにした。製品のセット提案も始めている。

意識改革の好機


 パワトレ事業はATの需要増が追い風となり、ここ数年は右肩上がり。役員の間でも危機意識には差があった。 

 そこに18年後半、けん引役である中国経済の失速が襲った。尾崎は「危機感を持たせる面では、ある意味ちょうどいい刺激だった」と、意識改革の好機ととらえる。

 連携は進んできたが「まだまだやるべきテーマは多い」(尾崎)。今も営業、技術、調達、生産技術、製造と分野ごとにワーキンググループを作って課題を抽出し、VC役員やアイシン精機本社とも毎週のように顔を合わせ戦略を立てる。燃料電池車(FCV)やエンジンのさらなる高度化、次世代ピストンなど将来のタネも見据え、事業サイクルの加速を目指す。(敬称略)

「グループの力生かし生産性高める」/アイシンAW・尾﨑社長に聞く


 ―バーチャルカンパニー(VC)ができて、社内の変化は。
 「以前よりは危機感が浸透したが、外部との競争に直面しているかどうかによっても反応は異なる。人間は一度事態に直面しなければ身体が動かないものだが、それでは遅い。これから事業を担う人材を中心に、働きかけ続けなければいけない」

 ―VC設置後に着手したことは。
 「自動変速機(AT)の需要の急拡大にどう対応するかが最初の課題だ。アイシン・エィ・ダブリュ(AW)の工場や仕入れ先だけでは足りない。手動変速機(MT)を手がけるアイシン・エーアイ(AI)でのAT部品生産や、アイシン精機の仕入れ先を活用するなど、グループ全体で対応した。2019年度はAIの吉良工場を拡張してAT生産を始めるなど、生産性を高める」

 ―AWとAIは経営統合します。
 「開発人員や工場、生産ラインなどを融通する中で、統合した方が効率がいいとの結論に至った。VCで実際に業務を進める中で、一緒にやった方がいいという素地ができた。両社の関係が近くなり、中には早く統合してほしいと考える人もいたようだ」

 ―経済の失速が懸念される中国で、AT増産計画を掲げています。影響は。
 「影響はあるが、投資を決定しただけでこれから着手する部分もある。まだ調整は可能だ。先行きを注視して、最適な状態を作り上げる」

 ―次世代技術の仕込みも必要です。
 「足元の仕事が忙しい中、将来の電動化に向けてどう開発体制を強化するかがテーマ。需要が減速しているMTの部隊を中心に、電動化領域に振り向けた。アイシンの人材も集約して、電動化の商品開発チームを作るといったことも始めた。電動化の製品ラインアップ構想は、技術的にはまとまってきた。今は顧客への売り込み方や生産体制を議論している」

 ―電気式駆動ユニット「eAxle(イーアクスル)」の開発を進めています。
 「現在は第1世代だが、もっとモーターを進化させるなど、日本の強みを極めた第2世代を早期に出したい。ほかにも燃料電池車(FCV)やエンジンのさらなる燃費向上、排ガスの要素技術など、できていない部分は残っている。CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)を意識しながら対応しなければいけない。また品質の高さはアイシンの強みだが、一方でコスト競争力は足りない。これもテーマに入れる」
(文=政年 佐貴惠)
アイシン・エィ・ダブリュ社長(パワトレインVCプレジデント)の尾﨑和久氏

連載・企業研究 アイシン精機


【01】CASE時代へ、東京事務所の“壁”を壊したアイシン精機の危機感(2019年4月1日配信)
【02】経営改革を断行する“連結の申し子”のビジョン(2019年4月2日配信)
【03】グループ企業の経営統合へ突き動かしたドイツの脅威(2019年4月3日配信)
【04】「絶対に負けられない」電動化対応ブレーキの戦い(2019年4月4日配信)
【05】競合相手と統合して得たモノ、得ていないモノ(2019年4月5日配信)
【06】シートやドアを自動制御、コンセプトカーが現実になる日(2019年4月6日配信)
【07】規模3年で倍に、成長性を確信する事業の正体(2019年4月7日配信)
【08】CASE対応へ社長が考える選択と集中の軸(2019年4月8日配信)
日刊工業新聞2019年3月21日記事に加筆
政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
パワトレは今やアイシンの心臓部と言っても過言ではないほど大きな事業となり、パワトレVCも最大の陣容を誇る。そんなVCからリアルの経営統合の事例が出たことは、今後のVC制の先行きにも大きく影響しそうだ。クルマの動力源が変わりつつある中、次世代技術の開発加速は最重要事項。逼迫する足元の生産に対応しつつも、カンパニー全体が次の開発に意識を向けられるかがカギとなる

編集部のおすすめ