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トヨタがグループ再編加速、自動運転車などに「ヒト・モノ・カネ」

かけ声は「ホーム&アウェー」
 トヨタ自動車が「ホーム&アウェー」(豊田章男社長)のかけ声の下、グループの事業再編を加速している。既存事業の競争力を高めつつ、自動運転車やモビリティーサービスといった次世代領域に「ヒト・モノ・カネ」を割り当てるためだ。グループ各社には結束を強めてトヨタを支えつつ、世界規模のサプライヤー競争の中をどう生き抜くかという戦略も求められている。

 「トヨタ単体として見れば『アウェー』でも、グループでは『ホーム』として強みにしている会社がある。ホーム&アウェーの視点でグループの事業を再構築する」。豊田社長はこう述べる。トヨタは6月、デンソーに主要な電子部品事業を、豊田通商にはアフリカ市場の営業業務を移管する検討を始めた。

 特に、デンソーには19年末をめどにトヨタが広瀬工場(愛知県豊田市)で手がけるパワーコントロールユニット(PCU)の生産を移管。生産関連の従業員らが1000人規模でデンソーに出向する異例の措置となる。

 トヨタグループ幹部は「トヨタのPCUがコモディティー(汎用品)化し、事業の先行きが見えてきた。そこで競争力を持つデンソーに集約することになった」と、移管に至った背景を解説する。グループ内で重複する業務を解消し、より競争力を持つ企業に集約して効率を高めるのが狙いだ。

 トヨタでは既に数年前から、強みを持つグループ会社に自社の事業の一部を任せる方針を鮮明にしている。14年末頃から、ディーゼルエンジンの開発や生産を豊田自動織機に集約。17年1月には、16年に完全子会社化したダイハツ工業とともに「新興国小型車カンパニー」を設置し、東南アジアなど向けの小型車の開発主体をダイハツに移した。

 トヨタ紡織、アイシン精機、シロキ工業(愛知県豊川市)の3社も15年、トヨタ向けの自動車シート骨格事業をトヨタ紡織に集約。トヨタ紡織の笛田泰弘取締役専務役員は「さまざまなグループ内の協業を検討している。今後も協力関係は強まっていく」と、さらなる再編検討を進めているもようだ。

 デンソーの松井靖常務役員は「トヨタが大きな変化に直面する中で、リソーセス(経営資源)を新領域に振り向けるのは世の必然。(事業の移管は)トヨタさんを支えるデンソーの責務でもある」と強調し、トヨタグループの結束強化を訴えかける。

 一方で、6月の再編発表直後、トヨタ系部品メーカーの首脳などからは、デンソーのトヨタ以外への販売に影響を及ぼすことを心配する声も上がった。グループ各社はトヨタ向けで培った技術やノウハウを生かし、トヨタ以外への拡販活動を進めている。しかし事業再編によって各社の“トヨタ色”が強まれば、独立性が薄まり、結果として競争力が損なわれるのではないかという懸念がある。

 18年3月期における各社のトヨタ向け販売比率をみると、デンソーはトヨタグループ向けとそれ以外への販売がともに4割強ずつ占め、トヨタ以外への拡販が進んでいることが分かる。一方でトヨタ紡織は9割前後をトヨタグループ向けが占めるほか、豊田合成も約7割、アイシン精機も約6割がトヨタグループ向けだ。トヨタ以外への拡販が、各社の共通課題となっている。

 そもそも車部品業界では独ボッシュなどのメガサプライヤーが複数部品の一体化を進めているほか、電動化の流れを受けてパナソニックや三菱電機などの電機大手も車載事業の拡大を目指しており、既存部品メーカーとの競争は激しい。現状は一定の事業規模を持つトヨタ系各社も「このままでは新興勢力に負けかねない」(部品メーカー首脳)との認識が広がりつつある。

プロジェクトで連携の動き


 こうした中、個々のプロジェクトごとに連携する動きも始まっている。トヨタ紡織、豊田合成、東海理化の内装関連3社は、シートベルトやエアバッグなどの機能を融合する次世代シートの共同開発に着手した。「オール・イン・シート」と呼ぶプロジェクトで、トヨタ紡織のシートを中心に豊田合成のエアバッグや東海理化のシートベルトなど各システムを一体制御することで、快適性や衝突時の乗員保護などの機能を高める。

 複数部品を一体化するモジュール化のトレンドに加え、将来の自動運転車も見据えて各種内装品の一体的なデザインの重要性が増しており、競争よりも協業で新たな製品を生み出す考え方だ。

 電動パワーステアリングを主力とするジェイテクトも、アイシン精機子会社のブレーキ大手アドヴィックス(愛知県刈谷市)などと連携し、操舵(そうだ)やブレーキなどの一体制御技術を開発している。幹部の一人は「個々のプロジェクトごとに連携するのが現在のスタンス」と語る。

 
日刊工業新聞2018年8月16日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
トヨタグループに再び吹き始めた再編の風。しかし各社には「トヨタについていくだけでいいのか」と自問する姿勢も見え隠れする。トヨタグループの全体最適を考えつつ自立の道も探るという、難しいかじ取りが続く。

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