【アイシン精機】経営改革を断行する“連結の申し子”のビジョン

【連載・企業研究(2)アイシン精機】

 アイシン精機が導入したバーチャルカンパニー(VC)制において「グループ本社」は、各事業VCに横串を通し効率的に運営する仕組みを整える役割を持つ。調達や人事などの総務系機能に加え、全事業に関わる素材系グループ会社を傘下に置く。重複している業務や拠点、異なる制度を洗い出し、各機能を統一、あるいは集約し一体感ある経営体制を作り上げる。

根本的に一本化


 「もっと根本的に一本化して発想を変えなければ、勝てない」。部隊を率いるアイシン副社長の三矢誠は、2年前のグループ本社立ち上げ時にこう宣言。次々と改革に着手した。

 例えば人事制度。これまでの人事評価基準は、グループ会社ごとに設定していた。すると例えばアイシンでは高評価でも、グループ会社に異動すると評価が下がるといった事例が起こってしまう。グループ全体の人材を活用して成長事業への投入を促している今、人の異動は今後ますます活発になる。そこで人事評価基準とそれに対する処遇を統一。4月からグループ主要14社で運用を始める。

 経理システムも統一に向けて動きだす。アイシン・エィ・ダブリュ(アイシンAW)が導入するシステムをベースにアイシンがシステムを構築し、これを横展開する計画だ。北米や国内の物流ルートも集約した。

 調達や生産技術、営業は量のメリットが出る領域で「良い所取り」の統合を実施するなど、成果は着実に積み上がってきた。グループ本社の業務効率を3割程度向上し、より付加価値の高い業務に人員を充てる考えだ。

         

 三矢にはグループ連携に対する強い危機感を持つきっかけとなる経験があった。およそ20年前、グループ向け保険や、資金管理システムの作成に携わっていた頃だ。新制度の導入に奔走していたが、グループ内での考え方に隔たりがあり、制度を理解し活用してもらうには各社を何度も往復しなければならなかった。なぜ、同じ企業グループなのにここまで違うのか―。その時生じた疑問はずっと心に残っていた。

連結の申し子


 「連結目線で物事を考え、体制をスリムにして議論と決断のペースを速めなければ、この先の競争は勝ち抜けない」―。当時の経験も踏まえた上で、三矢は自身を「連結(経営を推進する)の申し子」と表現する。

 4月には法務・監査機能の統合も完了し、新たな体制が始まる。しかし三矢は「考えているスピード感には足りない」と、はやる気持ちを隠さない。長年描いてきた改革はこれからが本番だ。
(敬称略)

「全体最適で融合図る」/三矢誠副社長に聞く


 ―グループ連携の重要性について社内で課題意識が生まれたのはいつ頃ですか。
 「2013年に社内向けに『2020年ビジョン』を作った。IoT(モノのインターネット)や電気自動車(EV)、自動車以外の分野からの業界参入といった社会の変化について議論し、グループ連携を深めようという話題も出ていた。しかし、これまで推進してきたグループ各社の独自路線が強く、連携の下地もできていなかったため実現は難しかった」

 ―戦略転換のきっかけは。
 「15、16年頃に世間では米IT大手の台頭やEV普及の機運などが出始め、一方、社内では自動変速機(AT)を軸に右肩成長が続いていた。目先の仕事が忙しく、かつ将来のCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)に向けた投資の両方をやらねばならない、となった時、これまでの個社個社のやり方ではとても追いつかないとの結論が出た」

 ―投資の集中と選択が必要になります。
 「顧客や技術、設備、注力テーマなど、それぞれの会社が良い資産を持っている。だが、バラバラで有効活用できていなかった。これを効率良く使おうというのが、バーチャルカンパニー(VC)制だ」

 ―グループ本社の役割は。
 「経営の方向性や業務プラットフォーム(基盤)を一つにしていくことだ。人事や法務、監査、IT関連はもちろん、コンプライアンス(法令順守)も対象だ」

―制度やシステムの統一も進んできました。
 「4月から法務・監査機能を統合するが、2年たってようやく、という印象だ。もっとスピード感を持って、すぐにでもやるべきだと感じている。議論はすべきだが、今の世の中、迅速に動かなければ遅れていってしまう。組織をスリム化し、議論はするが一定の時間で結論を決め、決めたらすぐに動く体制を作りたい」

―事業側との意見の相違も起こりそうです。
 「どこに最も投資をかけるのかを考えるのが我々の仕事だ。一方で当然、事業VC側にも論理はあり、意見はぶつかっていいと思う。ただ経営資源は無限ではない。事業とグローバルでの運営の両軸で、第三者的な目線で意見するのが重要だろう。加えて事業をまたいで相乗効果を生むのも大切な役目だ」
(文=政年 佐貴惠)

アイシン精機副社長(グループ本社プレジデント)の三矢誠氏


連載・企業研究 アイシン精機


【01】CASE時代へ、東京事務所の“壁”を壊したアイシン精機の危機感(2019年4月1日配信)
【02】経営改革を断行する“連結の申し子”のビジョン(2019年4月2日配信)
【03】グループ企業の経営統合へ突き動かしたドイツの脅威(2019年4月3日配信)
【04】「絶対に負けられない」電動化対応ブレーキの戦い(2019年4月4日配信)
【05】競合相手と統合して得たモノ、得ていないモノ(2019年4月5日配信)
【06】シートやドアを自動制御、コンセプトカーが現実になる日(2019年4月6日配信)
【07】規模3年で倍に、成長性を確信する事業の正体(2019年4月7日配信)
【08】CASE対応へ社長が考える選択と集中の軸(2019年4月8日配信)

日刊工業新聞2019年3月20日に加筆

政年 佐貴惠

政年 佐貴惠
04月02日
この記事のファシリテーター

バーチャルカンパニー制導入時から経営に携わってきた三矢副社長は、以前からグループ連携に対する高い危機感を持っていたうちの一人。お話すると物腰が柔らかく穏やかなお人柄だが、その胸の内には熱い思いや連携加速に対する強い意志が秘められているのがひしひしと感じられる。グループ本社はある意味、グループ連携の頭脳部。今後の戦略策定と強い牽引力がVC制の成否を左右しそうだ

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