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ユーグレナ・出雲氏「追い風に頼るな。ミドリムシで世界を席巻」

【連載#4】ポスト平成の経営者 ユーグレナ社長・出雲充氏
 ミドリムシで、空を飛び、世界の栄養問題を解決する-。ユーグレナは、微細藻類の可能性に大きな夢を描く。世界が循環型社会へ舵を切る中、出雲充社長に日本のバイオ技術ベンチャーとしての思いを聞いた。

平成の研究を次代へ、出発点に立つ


 -ミドリムシと廃食油を原料にしたバイオ燃料の実証工場が10月末に完成しました。自動車や飛行機での利用が期待されます。
 「ベンチャーはいつも大変だが、特に今が踏ん張り時だ。工場に約60億円をかけ、飛行機が飛ばなければ『何をやってるんだ』となる。良い意味のプレッシャーをどんどん感じている。平成時代の研究成果を次の時代に発揮する出発点に立った」

 -国連が持続可能な開発目標(SDGs)を提唱し、追い風が吹いていると感じます。
 「日本初のバイオ燃料工場はSDGs7番のクリーンエネルギーと、13番の気候変動対策へのミドリムシなりの答え。だが、追い風という言葉では、みんな安心してしまい、本当の実力が見えなくなる。欧米と中国ではバイオ燃料で飛行機が15万回飛んでいる。2022年のバイオ燃料の導入目標は日本の83万kLに対し、米国は1億3600万kL。周回遅れの次元ではない」

 「実証工場での生産量は少ないが、ANAホールディングス(HD)の支援を受け、まず日本で今0回の有償フライトを2020年までに1回にする。ただ、ミドリムシを原料にした燃料で飛行機が飛んでも、一発大逆転の神風ではない。ちゃんとロードマップを持って進める。次は25年に年産25万kLの工場を作り、コストを今の1L当たり1万円から100円にする。その工場を一斉に増やせば、やっと海外を追いかけられる」

日本復活、これしかない


 -急速に生産規模を拡大できますか。
 「成功事例を標準化し、水平展開するのは日本企業の十八番だ。何も心配してない。豊富な経営資源を持つ大企業とのオープンイノベーションで、アジアへ一気に展開し、首位を取る。日本が復活するには、これしかない。ユーグレナの売上高は約151億円。100億円を10倍にするビジネスなら、大企業が本気で取り組める」

 「ミドリムシの協力先はANAHDやいすゞ自動車、マツダといった大企業や地域、公共団体、行政と、加速度的に増えている。みんな危機感がある。海外では飛行機が15万回飛び、空港内の物流や給油などのノウハウが蓄積されている。燃料とノウハウがセットで日本に進出してくると、厳しい競争になる。協力先と一緒に経験を積む必要がある」

一粒で二度おいしい


 

 -オープンイノベーションの成功には何が必要ですか。
 「成功するための正解はわからないが、うまくいかない理由は二つに集約される。一つは、大企業の研究期間が短く、多くは3年未満ということ。炭素繊維のように、じっくりやれば大化けする研究をやれない。もう一つは、売上高1兆円の大企業は10年で150億円のビジネスはわりに合わない。大企業は、1人の先生が20-30年かけてコツコツ研究する大学と、0から1にするベンチャーを、うまく使わなければいけない。そして一粒で二度おいしいのが、両者が組み合わさった大学発ベンチャーだ」

 -中期的に売上高300億円を目指しています。
 「これはベンチャー論ではなく、機能性食品として達成したい。ローヤルゼリーの山田養蜂場(岡山県鏡野町)、黒酢のやずや(福岡市南区)のような規模を目指し、絶対に一本勝負で300億円やる。ミドリムシのポテンシャルを確信している。その先は、独自技術を中核にグローバルな食品企業になった味の素やキッコーマン、ヤクルト本社のように、大きく脱皮しなければならない」

“大人”への注文


 -出雲社長は度々、〈持続可能な循環型社会〉への強い決意を表明しています。実現へのハードルは。
 「価格や便利さが大事なのもわかる。私もすぐに実現するとは思ってない。だが、恥をかいても、日本でも誰かが『こっち』と言わなければいけない。壮大な計画でイノベーションを促す〈ムーンショット〉やグランドデザインは欧米が得意とするが、平成の次の時代はそのイニシアチブも日本がとりたい。実現に必要な技術の多くは日本発でも、最大の功績はビジョンを発信した海外の人。それでは、日本に元気が出ない。若い技術系スタートアップ皆で、これを変えたい」

 -次に続く若手経営者に期待することは。
 「年齢はそんなに変わらない。一緒にがんばりたい。一方、大人の人にはもう少し温かく見守ってほしい。日本でムーンショットのようなことを言えば『どうやって実現するんだ』と質問攻めになる。大学の研究も同じ。しゅんと落ち込んで、絶対にできる目標しか言わなくなる」

 「尖ってておもしろいものを、私たちは本当に頑張って0から100億円のところまで持って行くから、そしたら1兆円や10兆円企業に『おもしろいから育てよう』と見つけてもらう。大企業とのオープンイノベーションで、アジアで1番をどんどん作る。私はミドリムシで世界を席巻したい」

 

連載「ポスト平成の経営者」


激動の平成を支えたベテラン経営者と、今後を担う若手経営者に「ポスト平成」への提言・挑戦を聞くインタビューシリーズ
(1)キッコーマン取締役名誉会長・茂木友三郎氏「世界の情勢に乗るな。自ら需要を創り出せ」
(2)キヤノン会長兼CEO・御手洗冨士夫氏「米国流に頼るな。グローバル経営に国民性を」
(3)テラドローン社長・徳重徹氏「『世界で勝つ』は設立趣意。不確実でも踏み込め」
(4)ユーグレナ社長・出雲充氏「追い風に頼るな。ミドリムシで世界を席巻」
(5)プリファードネットワークス社長・西川徹氏「誰もが自在にロボット動かす世界を実現する」
(6)元ソニー社長・出井伸之氏「これが平成の失敗から学ぶことの全てだ」
(7)日本生命保険名誉顧問・宇野郁夫氏「経営に『徳目』取り戻せ。これが危機退ける」
(8)オリックスシニア・チェアマン・宮内義彦氏「変化を面白がれば、先頭を走っている」
(9)東京電力ホールディングス会長・川村隆氏「日本のぬるま湯に甘えるな。今、変革せよ」
(10)JXTGホールディングス会長・渡文明氏、10兆円企業の礎を築いた合併・統治の極意
(11)ダイキン工業会長・井上礼之氏「二流の戦略と一流の実行力。やっぱり人は大事にせなあかん」
(12)昭和電工最高顧問・大橋光夫氏、初の抜本的な構造改革、個人の意識改革が最も重要だった
(13)パナソニック特別顧問・中村邦夫氏、次の100年へ。中興の祖が語る「改革」と守るべきもの
(14)住友商事名誉顧問・岡素之氏、終わりなき法令遵守の決意。トップは社員と対話を
(15)セブン&アイHD名誉顧問・鈴木敏文氏、流通王が語るリーダーに必須の力
(16)WHILL CEO・杉江理氏、電動車いすの会社じゃない!「WHILLが建築をやる可能性も」と語るワケ
(17)ispace CEO・袴田武史氏、宇宙ベンチャーの旗手が語る、宇宙業界を変える民間の力
日刊工業新聞2018年12月19日掲載から加筆・修正
梶原洵子
梶原洵子 Kajiwara Junko 編集局第二産業部 記者
出雲社長は優しい風貌の中に、とても熱い思いを持っています。いつのまにか、海外から出てきた大きな方針をいち早くキャッチアップするか考えることに慣れてしまって、反省しました。次回は27日にプリファードネットワークスの西川徹社長のインタビューを予定しています。ロボットがPCやスマホのように普及した世界を西川社長はどう想像しているのか。これだけでなく、驚きのたくさんある話でした。ご期待ください。

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