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不正相次ぎ危機感のトヨタグループ、ガバナンス総点検

不正相次ぎ危機感のトヨタグループ、ガバナンス総点検

ダイハツの側面衝突安全試験における不正問題について自社メディアで語る、トヨタの豊田会長

トヨタ自動車がグループを挙げてガバナンス(企業統治)の見直しに乗り出した。ダイハツ工業など、グループ企業で不正が相次ぐ状況を受け、グループ首脳を集めた会合を実施。各社の課題意識や対策方針などを共有した。軸には2009年のリコール(回収・無償修理)問題の反省と、以降、地道に続けてきた風土改革がある。透明性が高く、問題発生時に迅速に対処できる風土をグループ全体に浸透させられるか。出資比率のあり方にも踏み込み、難題に取り組む。(編集委員・政年佐貴恵)

「どうすれば風通しの良い職場を作れるか」「管理職クラスが現場で起きている異変を感じる力を付けるにはどうすべきか」―。12日に開かれた緊急会合。集まったトヨタグループ各社の首脳は、口々に危機感や悩ましさを吐露したという。会合にはトヨタの豊田章男会長以下、グループ17社の社長と次期社長らが出席した。

この1年ほど、トヨタグループでは日野自動車のエンジン認証不正を皮切りに、豊田自動織機のフォークリフト用エンジンの排ガス認証不正、そして直近のダイハツによる側面衝突安全試験での不正と、問題が相次いでいる。そこでトヨタはグループ全体で、コンプライアンス(法令順守)やガバナンスを総点検する方針を示していた。

会合では豊田会長が「経営者としての覚悟が問われる」と訴えたという。その裏にはリコール問題と、それに伴う米議会での公聴会出席の経験がある。そこで得た信条は「社会の公器として、不安に思う顧客や従業員らのためにも、すぐにオープンに説明責任を果たす」ことだった。ダイハツの不正は自動車の安全に直結する重大事案だけに、迅速な対応につながった。

今後はグループ全体で、認証手続きなど各工程で不正が起きていないか徹底チェックするとともに、不正が起きる背景や原因の解明を進める。併せてトヨタが実施してきた風土改革をグループにも促す。新車の発売時期などに関わる開発や納期の遅れに対し、現場のプレッシャーは大きい。長田准執行役員は「停止せざるを得ない局面で、『プロジェクトは止まってもいいんだ』ということをグループの全従業員に分かってもらうことも必要だ」と説明する。

とはいえ納期を守る規律は無視できない。また開発から生産まで工程が細分化される中、限られた工程に携わっているだけでは、異変の察知も限界がある。判断できる人材の育成や判断基準の統一、納期管理との両立など、簡単には答えの出ない課題に対し、長期で取り組む構えだ。

トヨタはトヨタ生産方式(TPS)チームによる業務効率の向上など、人材派遣も含めてガバナンスに対する文化醸成を支援していく方針。またガバナンスと競争力の観点で、株式保有比率の見直しも視野に入れる。

電気自動車(EV)や脱炭素化対応など、今後の競争激化が予想される中、風通しの良い職場は課題に迅速かつ柔軟に対応するためにも欠かせない要素になる。グループ各社のトップの多くが50代へと若返りを図る今、より良い企業風土の構築に向けた節目のタイミングでもある。グループとはいえ、各社の事業や規模、社風などは異なる。

1社1社が自社なりのガバナンスをいかに構築するか、新たな時代に向けた重要テーマになりそうだ。


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日刊工業新聞 2023年05月18日

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