日本では遅れているものの…モノづくりビジネスのコアとして動き出したCAE
製造業において取引の中心であったリアル商品の代わりとして、バーチャルモデルが取引の対象となり、普及している。そのバーチャルモデルの機能パフォーマンスは、原理原則の理論に従ったCAE(コンピューター利用解析)を用いてデジタル表現されている。このバーチャル商品が、世界ではビジネスのコアになりつつある。
日本では3D設計の普及が遅れており、バーチャル商品の流通とビジネス展開も歩みは遅い。この危機的な実態を鳥瞰(ちょうかん)し、日本の進むべき方向を解説した書籍『バーチャル・エンジニアリングPart4 日本のモノづくりに欠落している〝企業戦略としてのCAE〞」より一部抜粋し、掲載する。(全5回)
ビジネスの中にあるシミュレーションモデル
2010年、ドイツがIndustry4.0(インダストリー4.0)を発表した。ネットワーク環境活用のモノづくりということで話題になってから、すでに10年以上経過した。当時、この内容に世界は驚愕(きょうがく)したものの、デジタル主導で行われる従来の産業の改革、新たな産業の創出などはGAFA(Google、Apple、FACEBOOK(2021年に社名をMetaPlatformsに変更)、Amazon)などの動きを知ることで、自然と、速やかに、表面的理解と同調が続く。
社会には、インダストリー4.0に絡んだ言葉として「デジタルツイン」「バーチャルエンジニアリング(VE)」「デジタルマニュファクチャリング」などのバズワードが溢れるが、その本質の理解はあまり拡がっていないように思われる。特に、バーチャルでのビジネスでのコアとなるバーチャルモデルのパフォーマンスのデジタル化にはシミュレーション、CAE活用が必須であり、モノづくりにおけるビジネスの基盤とも言える。
機能パフォーマンスのデジタル化がCAEで行われる
3DCADによって製品形状のデジタル化が行われるようになり、3Dモデルの挙動もデジタル表現が可能となった。このため、例えば、製品モジュールの持つ長い腕のような部品の立体的可動範囲が簡単に表現でき、工場の製造マシンの稼働範囲などを明確にすることで、工場ラインのレイアウト検討も簡単に行うことができる。このような動きを解析する手法を「機構解析」という。
機構解析は、複数の部品で構成されるモジュール内のリンクなどを持った可動部品を運動方程式でモデル化し、数値積分により変位を算出して、時系列の動きを表現する方法である。従来は部品を剛体とし、また、リンク部のクリアランスも存在しない解析の方法であった。このため、部品の変形からくる遅れ時間や、各回転軸のそれぞれのクリアランスからくるガタ成分の挙動による遅れの動きを表現できず、実物による実際の動きとは、異なることになる。
現在はCAD/CAM/CAEが連携し、力が加わった時の部品の変形はFEM(FiniteElementMethod:有限要素法)解析、また、各回転軸のそれぞれのクリアランスによる挙動遅れは、3DCADの公差解析で求めた累積されたクリアランス内での動きを機構解析で行い、各部品、各解析を連成して行うことで、実物と同じ挙動、同じ時間遅れを求めることができる。これらにより、可動部のクリアランスも、各部品の変形も考慮し、デジタルで表現することで、実物と同じ動きのデジタル表現が可能となる。2010年頃には、CAEを用い、理論的に原理原則に従ったモジュールの実物とまったく同じパフォーマンスをデジタルで表現できるようになったのだ。
納入されるのはデジタル化された形状、機能
形状のデジタルモデル、機能パフォーマンスのデジタルモデル、デジタル化された制御アルゴリズムの3つを連携したデジタルモデルがほぼ現実(=バーチャル)のパフォーマンスを表現するモデルとなる。このようなデジタルで表現したモジュールの3Dモデルとシミュレーションモデルの連携のため、序章で前述したように「シミュレーションモデル間I/F標準規格」を構築する目的のプロジェクトが設定する必要があるほど、2005年以降、すでに、欧州では3Dモデルとシミュレーションモデルがサプライヤーと自動車会社、メガサプライヤー間での納入物件の一つになっていたことになる。
(「バーチャル・エンジニアリング Part4 日本のモノづくりに欠落している“企業戦略としてのCAE”」p.20-p.22より一部編集して抜粋)
<販売サイト>
Amazon
Rakutenブックス
日刊工業新聞ブックストア
<書籍紹介>
書名:バーチャル・エンジニアリング Part4 日本のモノづくりに欠落している“企業戦略としてのCAE”
著者名:内田孝尚・栗崎彰
判型:四六判
総頁数:228頁
税込み価格:1,980円
<目次(一部抜粋)>
序章 ほぼ完了した設計変革
第一部 モノづくりビジネスのコアとして動き出したCAE
第一章 シミュレーション活用に関して日本で知られていないこと
第二章 問われる設計の役割
第三章 バーチャルモデルが中心となるビジネス基盤構築バーチャルモデルがビジネスに
第四章 CAE/CAD/CAM連携の大きなポテンシャル
第五章 バーチャルモデル環境の成立に必要なこと
第二部 設計のためのCAEの現状とこれからの施策
第六章 設計のためのCAEの現状
第七章 CAEの位置付けと状況の変化を捉える
第八章 CAEの現場をアップデートせよ
第九章 CAEの最大活用、データドリブン型のCAEに向けて
特集・連載情報
日本では3D設計の普及が遅れており、バーチャル商品の流通とビジネス展開も歩みは遅い。この危機的な実態を鳥瞰(ちょうかん)し、日本の進むべき方向を解説した書籍『バーチャル・エンジニアリングPart4 日本のモノづくりに欠落している〝企業戦略としてのCAE〞」より一部抜粋し、掲載する。