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「バーチャルモデルが最終製品となる」の理由

おすすめ本の抜粋「バーチャル・エンジニアリング Part4 日本のモノづくりに欠落している“企業戦略としてのCAE”」 #2

バーチャルモデルとは?

3D形状のモデルとシミュレーションモデル、制御指示アルゴリズムをすべて連携し、連成解析を行うと、実際の最終製造品とまったく同じ形状、同じパフォーマンスを表現するモデルとなる。このモデルの挙動、変形、バラツキも含めた制御された動きは、他のバーチャルモデルと連携し、車1台、飛行機1機、製造物1台の動きを正確に把握することができる。また、このモデルのデジタルデータでそのまま製造すれば、どこでも、誰が行っても同じモノを造ることができる。バーチャルモデルはモノではないため、手で持って、重さを感じることはできないが、そのモジュールの形状、機能をデジタルで正確に表現していることから、これは、すでに製品である。

形状と機能パフォーマンスと制御アルゴリズムのデジタル化

表では、3つのデジタル化を示している。

その第一が「形状のデジタル化」である。2D図面のデジタル化は、1980年代に始まっていた。しかし、2D図面のデジタル化は図面自体のデジタル化であり、形状のデジタル化ではない。形状のデジタル化は3D設計、3Dスキャン計測などでやっと実現できるようになった。特に、3D設計は、1995年頃から世界中に、脅威的なスピードで普及し、ほとんどの製品、部品およびモジュール機構の形状デジタル化は世界の常識となっている。

第二には「機能パフォーマンスのデジタル化」である。設計仕様の持つ機能パフォーマンスを知るために、従来、実機によるテスト解析が行われてきた。機能を理論的な原理・原則によるデジタル表現であるCAE解析が20世紀の半ばから始まった。大学などの研究者向けではなく、一般技術者向けのCAEの市販が始まったのは1960年代であった。CAEによる解析は機能パフォーマンスの原理・原則による理論的なデジタル表現であり、基本的には一度理論的に証明された公理に従った解析なので、条件を把握さえすれば、非常に再現性の高い解析法となる。これが、CAE解析が発展してきた理由と言える。

形状のデジタル化の3DCAD上でCAEを用いることで、設計段階で製品の形状と機能パフォーマンスを同時にデジタル表現化できるようになった。これは製品モジュールの機能パフォーマンスのデジタル化であり、そのため、3Dの製品図面に機能パフォーマンスのデジタル情報が付加されるようになったと言える。CADとCAEが同一のデジタル環境で行うことができようになったのは、21世紀の幕開けと同時と言える。

そして、「制御アルゴリズムのデジタル化」である。3D挙動検証については3DモデルとCAE結果の機能パフォーマンスを連携することで、ハードウェアを用いずに部品の変形、隙間ガタ成分の影響を含めた制御検証が可能となった。
(「バーチャル・エンジニアリング Part4 日本のモノづくりに欠落している“企業戦略としてのCAE”」p.32-p.34より一部編集して抜粋)

<販売サイト>
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日刊工業新聞ブックストア

<書籍紹介>
書名:バーチャル・エンジニアリング Part4 日本のモノづくりに欠落している“企業戦略としてのCAE”
著者名:内田孝尚・栗崎彰
判型:四六判
総頁数:228頁
税込み価格:1,980円

<目次(一部抜粋)>
序章 ほぼ完了した設計変革
第一部 モノづくりビジネスのコアとして動き出したCAE
第一章 シミュレーション活用に関して日本で知られていないこと
第二章 問われる設計の役割
第三章 バーチャルモデルが中心となるビジネス基盤構築バーチャルモデルがビジネスに
第四章 CAE/CAD/CAM連携の大きなポテンシャル
第五章 バーチャルモデル環境の成立に必要なこと
第二部 設計のためのCAEの現状とこれからの施策
第六章 設計のためのCAEの現状
第七章 CAEの位置付けと状況の変化を捉える
第八章 CAEの現場をアップデートせよ
第九章 CAEの最大活用、データドリブン型のCAEに向けて

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日本のモノづくりに欠落している“企業戦略としてのCAE”
日本のモノづくりに欠落している“企業戦略としてのCAE”
製造業において取引の中心であったリアル商品の代わりとして、バーチャルモデルが取引の対象となり、普及している。そのバーチャルモデルの機能パフォーマンスは、原理原則の理論に従ったCAE(コンピューター利用解析)を用いてデジタル表現されている。このバーチャル商品が、世界ではビジネスのコアになりつつある。
 日本では3D設計の普及が遅れており、バーチャル商品の流通とビジネス展開も歩みは遅い。この危機的な実態を鳥瞰(ちょうかん)し、日本の進むべき方向を解説した書籍『バーチャル・エンジニアリングPart4 日本のモノづくりに欠落している〝企業戦略としてのCAE〞」より一部抜粋し、掲載する。

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