コロナ禍が加速させたメタバース。「ないと生き残れない技術」になるか
―2019年に出版した書籍の改訂版です。
「メタバース(仮想空間)やブロックチェーン(分散型台帳)技術を活用した次世代インターネットの『Web3(ウェブ3)』など、仮想現実(VR)にとって新しい分野を補強し、全体の3分の1くらいを新たに書き直した」
―4年間で変わったことは。
「コロナ禍だ。技術の方向性が基本的に変わっていなくても、良くも悪くも社会の方が大きく変わった。人と接触しては駄目となり、そのリテラシーを身に付けざるを得なくなり、リソースをそっちに割くようになった。例えばリモート会議やテレワークが急速に普及するなど、さまざまな活動をリモートで行うことが推奨された」
「確かにコロナ禍は不幸なことだし、フラストレーションもたまる。しかし、社会の中でものすごい相転移が起きた。私たちはデジタルの世界にもう一つの活動の場を求める重要性を思い知ったのではないだろうか。VRの技術も、『あれば便利な技術』から『ないと生き残れない技術』へと認識が変わったかもしれない。結果として後から見ればある種の閉塞(へいそく)状況から何かが取り除かれたという風に思い返されるかもしれない」
―現在、メタバースは世界的にブームとなっていますが、00年代に大流行した初期のVRである「セカンドライフ」などとの違いは。
「VR技術に、デジテル変革(DX)技術的な要素が加わったのがメタバースの技術ということになる。より広範に社会のデジタル化を進める場合、身体性や空間性などのVR的な要素を吸収せざるを得ない。VRとDXの融合がメタバースになるかもしれない」
「例えば設計などで一つのツールを使うだけならVRだけでもいい。でも、メタバースのすごいところはそれをいろんな場面で利用できるようにするところだ。ある世界と別の世界が双方向に使えるようになる。この先、英語のように基盤化する可能性もある」
―メタバースが一過性のブームで終わる恐れはないでしょうか。
「確かに今回のブームもどこかで終わるかもしれない。しかし、また次のブームがいつかやってくる。その時にブームで終わらずに定着するかもしれないし、それがダメならまた次がある。何遍もやっていたら『これがエッセンス(本質)だ』というようなものが見えてくるかもしれない」
―エッセンスをつかむのが大事と。
「以前、『ウエアラブル・コンピューター』を作ったが、洋服の中にコンピューターを仕込むなど名前の通りに作ってしまった。エッセンスはそうではない。動きながらコンピューターを見たり操作したりするところだ。今ではスマートフォンなどで当たり前になり、すっかり定着した。VRもエッセンスだけ生き残ればいい」
「でも今回の場合、もしかしたら違うのかもしれない。ブームで終わらない可能性もある。コロナ禍は相当のインパクトがあった。デジタルの世界でつながる未来をみんなが見てしまったからだ」(編集委員・小川淳)
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今さら聞けない…VRとメタバースの違いとは?
「VR+DX=メタバース」メタバースはVRの子孫
書籍紹介
技術応用が日々拡大するVRの中で、大きなトピックになっているメタバース。この波に乗れるかどうかが企業にとっての岐路となるため、主導権争いは激化。VRを取り巻く社会環境は変化している中、人気書籍をアップデートし第2版として発行する。
書名:今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしいVRの本 第2版
著者名:廣瀬通孝 監修、東京大学バーチャルリアリティ教育研究センター 編
判型:A5判
総頁数:160頁
税込み価格:1,760円
<監修者>
廣瀬通孝(ひろせ みちたか)
東京大学大学院情報理工学系研究科 教授
東京大学バーチャルリアリティ教育研究センター長
1954年5月7日生まれ、神奈川県鎌倉市出身。1982年3月東京大学大学院工学系研究科博士課程修了(工学博士)。東京大学工学部講師、助教授、同大大学院工学系研究科教授、先端科学技術研究センター教授、大学院情報理工学系研究科教授、東京大学バーチャルリアリティ教育研究センター長(併任)を経て現在に至る。日本バーチャルリアリティ学会会長、日本機械学会フェロー、産業技術総合研究所研究コーディネータ、情報通信研究機構プログラムコーディネータなどを歴任。専門はシステム工学、ヒューマン・インタフェース、バーチャル・リアリティ。