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【ディープテックを追え】CO2を資源化、“やっかいもの"の有効利用

#33 CO2資源化研究所

二酸化炭素(CO2)を食べて増える菌。これを使って、たんぱく質や化学製品を作り出す-。こんな“奇妙な”話を口にするのは、CO2資源化研究所(CO2研、東京都江東区)の湯川英明社長だ。脱炭素の流れが強まる中、「やっかいもの」とされるCO2を使い、たんぱく質や化学製品を作り出す動きが加速している。サスティナブルな工業社会の実現に向けた同社の取り組みを追った。

独自の水素細菌

水素細菌「UCDI株」

CO2研が使用するのは独自の水素細菌「UCDI株」だ。CO2と水素を使い、高速で増殖する。驚くべきはその速度だ。1グラムの菌が24時間で16トンにも増殖する。

菌には栄養素になるCO2と水素を微細な泡にして供給する。菌が最も生育するのに適した温度である、セ氏52度を保つために電気を消費するが、CO2を生育に使うため全体のCO2排出量は減らすことができるという。

米航空宇宙局(NASA)の研究成果の産業化を目指す米キベルディなど競合もいるが、湯川社長は「増殖の速度は圧倒的に優位性がある」と自信を見せる。同社はこの水素菌を使い、たんぱく質やポリエチレン(PE)などのプラスチック化学製品を作る計画だ。

培養前の様子
培養後10時間経過した様子

24年ごろの供給を目指す

水素細菌から作ったプロテイン

すでに製品化が進んでおり、菌から作ったプロテインを開発している。たんぱく質の含有量が約83%と競合の菌類に比べ、20%以上も高い。近年、代替たんぱく質の需要が高まっている。牛や豚を飼育するとメタンが発生するほか、多くの飼料が必要になるためだ。湯川社長は「環境保護や人口増加を背景に、プレミア価格でも手に取ってもらいやすい流れにある」と話し、食用たんぱく質やミルク製品の市場流通を急ぐ。

また、同社は菌を遺伝子組み換えし、化学製品を生成する。菌が分裂し増えるのを抑え、代わりに目的の化学製品をため込む。菌から生産した化学製品を加工することで、さまざまなプラスチック製品を製造する。初めはポリ乳酸から食品用包装容器のサンプルをコンビニ100店舗ほどで配布する。プロテインとポリ乳酸ともに2024年ごろの量産を計画する。次いでPEの生産に乗り出す。10社ほどの企業と共同研究を進めているという。

既存インフラを活用

湯川社長

最終的には既存の石油化学コンビナートの蒸気製造設備などのインフラをそのまま利用する計画だ。石油製品の需要縮小もあり、化学コンビナートの設備休止が相次いでいる。同社は既存のインフラを使うことで投資コストを下げつつ、既存設備の雇用を維持できると強調する。湯川社長は「我々にとってはコストを抑えることができる。化学メーカーにとっては遊休資産を最大限活用できる」と説明する。

石油代替の歴史は古く、90年代は米国を中心にバイオマス産業が活況だった。その後、食品でもあるとうもろこしの価格高騰や原油価格の下落もあり、産業自体が下火になった。近年、取り組まれているCO2由来のプロセス産業は石油代替の側面のほか、国連の持続可能な開発目標(SDGs)や環境保護の側面が強い。食品との競合もないため、軋轢(あつれき)を生みにくく、高価格でもビジネスとして成立しやすい。

富士キメラ総研(東京都中央区)は23年度には世界のバイオプラスチック需要を310.7万トンと予想する。各国での石油由来プラスチックへの規制が強まる中、ベンチャー企業の技術競争も加速している。CO2研も海外での展開を視野に入れ、量産技術の確立を目指す。

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ニュースイッチオリジナル
小林健人
小林健人 KobayashiKento 第一産業部 記者
CO2の資源化は脱炭素の流れもあり、最近急速に聞かれるようになったテーマです。すでに出してしまったCO2を回収しないことには、全体の温室効果ガスを削減できません。コストの問題はありますが、石油製品を排除する外圧は大きな追い風です。今後は安定供給が課題になりそうです。

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