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【ディープテックを追え】"造影剤"いらず、負担の大きい検査を変革

#34 Luxonus

リンパ管や微細な血管を3次元(3D)映像で捉える医療機器を開発するLuxonus(ルクソナス、川崎市幸区)。同社はキヤノン日立製作所京都大学慶応義塾大学などが参画した研究プロジェクトを実用化するため設立された。八木隆行最高技術責任者(CTO)は「新しい検査技術を通じて、患者に最適な治療を届けたい」と話す。

ヘモグロビンを"波"のように捉える

同社が手がけるのは「光超音波3Dイメージング装置」という検査装置だ。近赤外波長のパルスレーザー光を体内に照射した際、血中ヘモグロビンが発生させる超音波をおわん型に配置した512個のセンサーで捉える。一つひとつのヘモグロビンから出る超音波を“波”のような捉える仕組みだ。

手のひらの血管であれば、5分ほどで撮影できる。これまでとは異なり3次元で撮影することで、血管の位置する場所だけでなく、深さも表示できる。また、画像以外にも動画撮影にも対応した。

同社の装置で撮った手のひらの血管

最大の特徴は侵襲性の低さだ。これまでのX線や磁気共鳴断層撮影装置(MRI)では、特定の臓器を浮かび上がらせるために造影剤や肺などを透過させるX線が使われてきた。ただ、機械が大型で撮影時間がかかったり、被爆が伴うため妊婦は利用できないなどの制限があった。同社はこの検査時間を大幅に削減しつつ、患者の身体への負担を軽減した。また、これまでは大まかにしか捉えられなかったリンパ線も、造影剤を使うことで3D画像として撮影する。

写真中央のおわんの部分で血管を捉える
装置の全長
撮影した血管を写すモニター

難解な手術の事前準備に応用

同社は、手足にリンパ液が滞ってむくむ「リンパ浮腫」や皮膚移植といった医療での活用を想定する。

これらの手術としては、正常な血管とリンパ管や移植元の血管をつなぐ方法が考えられる。代表的なのは、およそ0.5ミリメートル程度の細い血管を縫い合わせる「スーパーマイクロサージャリー」。繊細さが要求されるこの手術の事前準備に使いたいという。同社の装置を使い、事前に細かい血管の位置を3次元で把握できれば、手術の難易度を下げられる。実際、京大や慶大と協力し知見を積み重ねている。術後の経過観察もしやすく手術の効果が見えやすくなる。相磯貞和社長は「検査が進化することで施術が進化するのが医療。顧客の病院とともに新しい使い方を見いだしたい」と話す。

また、がんのように悪性の腫瘍の周りに血管が集まる特性の病気へも応用できると視野に入れる。

(左から)相磯社長、八木CTO、高橋義晴執行役員

9月には約4億3000万円の資金調達を実施。この資金を機器の製造費用などにあてる。また、研究機関や製薬会社向けに動物用の同機器を販売する。新薬などの毒性や血管への浸透具合を把握するのに役立てる。人向けの装置は22年の販売を予定する。価格は既存のX線コンピューター断層撮影装置(CT)と同等の金額を予定している。八木CTOは「顧客のために早く製品を出したい」と力を込める。

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ニュースイッチオリジナル
小林健人
小林健人 KobayashiKento 経済部 記者
実際に撮影する風景を拝見しましたが、かなりの短時間で終了しました。見せていただいたのは手のひらでしたが、足などでも装置に体を乗せるだけで撮影できるとのことです。術後の経過を視覚的に把握できるのは医師だけでなく、患者にとってもメリットがあります。導入病院が順調に増やせるかに注目です。

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