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サステナブル社会へ環境負荷低減。素材メーカーたちがにらむ商機

サステナブル社会へ環境負荷低減。素材メーカーたちがにらむ商機

住友ベークライトの「バリアスキンパックフィルム」

サステナブル社会の実現に向けた機運が高まる中、素材メーカーが環境負荷低減につながる製品の開発に力を注いでいる。住友ベークライトは食材の消費期限を延長させるパッケージフィルムを開発した。東洋インキSCホールディングス(HD)はフィルム材料の再利用を推し進める。事業を通じ、社会や環境課題に対処することで、企業の成長を持続する。素材各社の動きを探った。(前田健斗)

消費期限延長フィルム

環境省の統計によると、2018年度の食品ロス推計量は食品製造業など事業系で324万トン、家庭からは276万トンだった。いずれもここ数年、一定の水準で推移する。一方、農林水産省は「食品循環資源の再生利用等の促進に関する基本方針」で事業系食品ロスについて、30年度までに00年比で半分の273万トンへの削減を目指している。

そのフードロスの削減手段の一つとして期待されるのが、消費期限の延長だ。品質を維持したまま伸ばせれば、売れ残りなどによる消費期限切れのリスクを抑えられる。住友ベークライトは、食材の消費期限を一定期間延長できる「バリアスキンパックフィルム」を開発。このほど4度Cでの保管で、牛サーロイン肉は一般的なトレー包装と比べて17日間、牛もも肉も同様に11日間、消費期限を延ばせることを確認。微生物検査ではパックしてから28日目まで生菌数が基準値以下だった。食肉関連の第三者機関に依頼した試験で実証した。

内容物の形状に沿って密着して貼り付く柔軟性とバリアー性を両立した。酸素に触れにくいため、内容物の消費期限が延長でき、フードロス削減につながる。鮮度の維持を前面に押し出し、23年度には同フィルムの売上高で5億円を目指す。新型コロナウイルス感染拡大防止のため、食品スーパーで“まとめ買い”をする消費者が増えており、需要の高まりが期待される。

高冷凍耐性クリーム

一方、スイーツでは大量に作れて、必要な分だけを解凍できるフローズンチルドが食品ロス削減にメリットがある。ただ解凍後に食感や風味が落ちるといった課題があった。そこで知恵を絞るのが製パン・製菓業界向けのマーガリンや練り込み用クリームを手がけるADEKAだ。乳化機能素材などの構造を工夫して冷凍耐性の高いホイップクリームを開発。解凍後もみずみずしく滑らかな食感を保たせ、食べる人の満足度を向上させた。

他にもパンの消費期限を従来比1・5倍に延長できる練込用マーガリンを販売する。4月にはコロナ禍での買いだめ需要に応えようと、消費期限の延長に加え、冷凍耐性も付与した新製品を発売した。城詰秀尊社長は「おいしさの追求を前提に植物由来の食品の開発なども加速させ、サステナブル社会の実現に貢献したい」と強調する。

印刷インキ除去

資源の有効活用と二酸化炭素(CO2)の排出量削減には素材のリサイクルが欠かせない。プラスチック循環利用協会によると、19年のプラスチックのマテリアルリサイクル(再生利用)率は22%の186万トン。その底上げを目指すのが東洋インキSCHDとDICだ。

東洋インキSCHDは、子会社を通じてプラスチック製の包装材などに使われる印刷インキ成分の除去技術の実用化を目指している。

菓子の袋など軟包装材は、薄いフィルムでインクなどを挟む複層構造となっていることが多く、質の高い再生利用が難しい。さまざまな色が混合された再生品は色が黒くなるため、用途がパレットなどに限られている。同社の「脱墨技術」で取り出した樹脂は透明に近く、ボトルや包装用フィルムなど用途の幅が広がる。

21年中に実証パイロットプラントを完成させ、25年をめどに商業プラントでの事業化を目指す。同社の原子詩奈サステナブルパッケージング推進部長は「元来、軟包装は軽量で低炭素社会へ貢献できる形態。リサイクルの出口用途拡充で、社会貢献度を高めていく」と話す。

プラスチック代替材

DICも同様にフィルム内のインクを取り除く技術を開発した。5月には製パン大手メーカーとフィルムの再資源化で協業の覚書を締結。手始めに食品包装フィルムの加工工程などで発生する端材の再利用に乗り出す計画だ。同社の福田吉成新事業統括本部次世代パッケージングビジネスユニットリーダーは「再生材の用途を拡大し、プラスチックパッケージの循環利用を促進したい」と強調する。

資源そのものの有効活用もサスティナブル社会実現のカギを握る。リグノマテリア(東京都新宿区、三浦善司社長兼最高経営責任者〈CEO〉)は6月、杉由来の新素材「改質リグニン」の実証プラントを稼働させた。同素材は原料が自然由来の杉で環境に優しく、耐熱性に優れ、加工もしやすい。そのため石油由来のプラスチックの代替材として注目されている。当面は用途開発向けに年間約100トン生産する。三浦社長は「2―3年以内の商業化を目指す。安定生産できれば、将来は日本発の資源として輸出できるかもしれない」と展望する。

地球温暖化や資源不足が進む中、生きる上で欠かせない食品のムダ削減や、資源の有効活用に向けた技術開発は、持続可能な社会に向けた“キーテクノロジー”となる。

日刊工業新聞2021年8月10日

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