いつまで炎上する?AIにジェンダーは必要か。背景に「ステレオタイプの黙認」

ひろがるジェンダーレス #5 ジェンダーと商品開発

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官公庁や公共のキャンペーンで美少女キャラクターを起用し「炎上」するような問題が後を絶たない。ジェンダーに関する問題の本質が正しく理解されていないことも、炎上を繰り返す要因の1つだ。一方、ジェンダーの視点をうまく取り入れれば、新たな商品やサービスを生み出すことにつながるかもしれない。(取材・昆梓紗)

卑猥な発言にも優しく返答

2019年5月にユネスコが出した報告書(※1)の中で「AIスピーカーなどに搭載されている音声アシスタントの声がデフォルトだと女性と認識される」ことが指摘された。さらに、無礼な発言や卑猥な発言に対するAI側の反応も、やんわり受け流すような対応であることも明らかになった。
 AIアシスタントの機能は「従順な補佐」。この特性と、女性を思わせる声が組み合わさると、「女性は従属的、補佐役」という社会的通念が踏襲されることにつながる。

この社会的通念がAIアシスタントという身近な商品に落とし込まれている問題点とは何か。大阪大学大学院文学研究科の西條玲奈助教は2つの問題を指摘する。
 1つは、ネガティブなステレオタイプによって、該当者のパフォーマンスが低下する恐れがある点。直接ネガティブな内容を言われたわけでなくても、影響が出る。これを「ステレオタイプ脅威」という。
 近い例で、「女子学生は数学に弱い」というネガティブなステレオタイプによって、難しい数学のテストの点が男子学生より低くなってしまう、という実験結果がある(※2)。AIスピーカーの例でも同様に、少女や女性に対してネガティブな影響が懸念される。
 もう1つは、「女性が従属的な立場」というのを、なにも考えず商品に落とし込んだ作り手の態度だ。問題のあるステレオタイプを黙認し、広めることに加担する結果となっている。

モノにジェンダーを感じるとは

そもそも、モノやサービスに「ジェンダー」を感じるとはどういうことか。公衆トイレの男女表示を思い浮かべるとわかりやすい。文字の場合もあるが、たいていはインフォグラフィックスが掲示されている。女性はスカートを思わせる形、長髪、赤色などで女性用を識別している。一方、男性は記号が少ない例が多いが、多くは青や黒色などで、シルクハットやネクタイなど男性的な装いを表す場合もある。
 この場合、「女性=スカート、長髪、赤」といったものがジェンダーを感じさせる記号(ジェンダーマーカー)に値する。そういった格好の女性ばかりではないし、スカートを着用する人が女性とも限らないが、現在の日本社会では女性を表す記号として認識され、流通している。

トイレの標識でのジェンダーマーカーは、「その空間は女性/男性に利用される場であること」を示すために用いられる。「トイレはジェンダーに応じて使われるべきだ」という社会慣習に従うとき、ジェンダーマーカーは必要な情報を与える。しかし、個人が使うAIアシスタントの表すジェンダーに同様の役割はない。そのため、AIアシスタントの例では、「高い声」が女性を想起させる上に、「従順、何を言っても怒らない」という情報が組み合わされて発信される点が問題視される。

商品開発に活かすには

ジェンダー要素を取り入れて表現したいものがある場合、誰向けのものか、流通の仕方、発表する場などを考え慎重に行う必要がある。そして、問題を起こさないために最も簡単な方法は「ジェンダーを表す記号(ジェンダーマーカー)を入れないこと」だと西條助教は話す。
 ジェンダーマーカーを取り入れると親しみを持たれやすいという効果がある。官公庁や町おこしのアイコンに美少女キャラクターを起用することなどが顕著な例だ。しかし、どれも似た表現になっており、訴求できる層が限られる結果となっている。逆に、多用されてきたジェンダーマーカーを抑制すれば、新たなデザインが生まれ、今までリーチできなかった層に届くものになるだろう。
 また、バリエーションを増やすことでステレオタイプのメッセージを回避することもできる。例えば、米アップルのAIアシスタント「Siri」は男女の声を選べるようになっている。GROOVE X(東京都中央区)の家庭用ロボット「LOVOT(ラボット)」は性別を定めず、服飾品でユーザーが自由にカスタマイズできる。
 ジェンダーの問題を知り、商品開発に生かすことは、新たな発想や顧客を生む可能性がある。

「Siri」は、声を男性・女性で切り替えられる
「ラボット」

ただ根本として「炎上だけを避ければいい」という考えだけで行動するのではなく、なぜ問題かを理解することは重要だ。「現在たまたまそういった差別に対する風潮の高まりに流されているだけだと、今後バックラッシュ(揺り戻し)が起こった場合、また社会に流されて差別に加担するリスクが高まる」(西條助教)。
 表現は文脈によって捉えられ方が異なる。問題になっているのは、その捉えられ方の背景にある差別の歴史や社会環境なのだということを理解する必要がある。

(※1)https://en.unesco.org/Id-blush-if-I-could
 (※2)クロード・スティール『ステレオタイプの科学」藤原朝子訳、英治出版、2020年

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