どうして男は小さな面倒を押し付けるのか?男女間の「失敗」を紐解く

【なぜ?なに?失敗】#5 「桃山商事」代表 清田隆之氏

 恋愛にまつわる話の収集という一風変わった活動を行うユニット「桃山商事」の清田隆之氏は、これまでに約1200人の恋愛相談や悩み相談を受けてきた。それぞれのエピソードに共通する男性のコミュニケーションにおける「失敗」を20項目に分類し解決策を考えた著書『よかれと思ってやったのに 男たちの「失敗学」入門』が話題だ。目次には「小さな面倒を押し付けてくる男たち」「謝らない男たち」「付き合い始めると油断する男たち」といった項目が並ぶ。失敗に対し、「男をひと括りにするな!」と反発する方も多いだろう。「しかし、女性たちから聞くエピソードの中には、このような男性たちが繰り返し登場するのもまた事実です」と同書の中で清田氏が指摘するように、多くの男性に共通する「失敗」は存在する。(取材・昆梓紗)

「男らしくない」と言われて育つ男たち


―この本は桃山商事の活動がベースになっていますね。
 大学時代から約20年間、桃山商事の活動でたくさんの恋愛相談を受けてきました。相談を寄せるのはほぼ女性で、初めの頃はその悩みも「女性の問題」だと思っていて。でも相談を受けているうちに、それぞれの内容の共通点が見えてきてこれは男性の問題でもあるのでは、と考えるようになりました。

―そもそもなぜ男性からの相談が少ないのでしょうか。
 思うに、感情の言語化があまり得意ではないこと、弱みを見せることへの抵抗、さらに自分の心身に対するケア意識の希薄さといった要因があるように感じています。これらの条件が重なって相談に来にくい環境にあるのではないでしょうか。自分の中にもそういうところがあって、悩みごとや苦しい出来事があっても人に相談するのがわりと苦手なので……。

―本書では1つの項目に対して注釈や具体例の列挙、論理的な説明にかなりの分量を割いています。誤読リスクを考慮しているのでしょうか。
 どうしても「男性性」や「男らしさ」といったものに対して批判的な本になるだろうことは想定していたので、男性の耳の痛い話をどう届けるか、そこは長いこと悩みました。僕自身、決して高みに立つような人間ではなく、様々な失敗をやらかしている“当事者”なので…そのあたり正直に書いた方が届きやすくなるのではと思い、自己反省も含め自分のエピソードを多く書き込みました。
 また「Not all men(男をひと括りにするな)」という話ではあると思うので、事例や論拠を示す・攻撃性を薄める・意見を押し付けない、ということは書く上で強く意識しました。行間を持たせず、「こういう男性のエピソードがあり、自分はこう考えているけれど、皆さんはどう思いますか?」というスタンスで書きました。

―そもそもコミュニケーション上の失敗に気づけるのか?という問題もありますね。
 コミュニケーションは相手があってのものなので、他人に見えている自分の方がリアルに近いのではないかと個人的には考えています。アクションした時の相手の反応を見て、「いまの言い方はまずかったかな」などと考えますよね。しかし自分起点になってしまうと、「何でわかってもらえないの?」などと独りよがりの見方になったり、失敗を相手に指摘されたとき防御反応をとったりしてしまうのではないかと思います。

―失敗を認められない、防御反応などの背景には個人の性格や環境の問題もあると思いますが、こうも共通してエピソードの中に登場しているところを見ると、それだけではない気がします。
 やはり弱みを見せづらいというのが男性をとりまく環境にあると思います。子どものころから「泣いたら男らしくない」などと言われて育ったり、友人同士でも弱みを見せるといじられたり、最悪いじめられたり…。そういった「男らしさ」の型をつくる圧力が複雑に混ざって失敗を認められない何かを形成しているのだとは思います。
いったんジェンダーのせいにして、失敗を認めてみるのもひとつの手だと思っています。失敗を認められないままでいると、周囲の信用を食い潰すことになります。失敗を認めた上でその原因や対策について考える方が前向きです。
 不満が蓄積した結果、ふとしたきっかけで感情が爆発することを「コップの水があふれる」と表現をします。男女関係において、コップの水があふれた瞬間(例えばケンカ)や表面張力の部分(不機嫌や一触即発の雰囲気など)に注目しがちですが、そもそも「水」はどんなときにたまるのか、「水」とは何なのかを一冊かけて考えた本にしたつもりです。

―いくつかの問題の根底にあるのは「軽視」だと思います。相手との関係もそうですが、自分に対しても「軽視」する傾向にあるように感じます。
 いわゆる「セルフネグレクト」というものですよね。男性社会には自分のことを省みない人がかっこいいという風潮すらあるように感じます。本書の中で紹介した「上下関係に従順すぎる男たち」は、乗り気でなかったり他の予定を後回しにしてまで、上司や先輩からの誘いを断れないという例です。また「身体のことを考えていない男たち」では体調不良を軽視して病院に行かない、不摂生を栄養ドリンクやサプリなどで一発逆転しようとするエピソードなどを紹介しました。
 これらには「いやだな」「つらい」という自分の気持ちを無視して、ガンガン進むのをするのを良しとする風潮に流されていることから生まれているように思います。その価値観に染まってしまうのは怖いなって思います。

―女性でもそうですが、「いやだな」などと思っても感情を整理して言葉にすることって意外と難しいですね。
 本書中には失敗のパターンの1つに「不機嫌になって黙り込む」「不機嫌の理由を述べず相手に忖度を求める」を紹介しました。不機嫌な態度を取る男性たちって、自分の中にどのような不快感が発生しているのか、それを理解(=言葉で捉える)しないまま相手に「取り除け!」「ケアしろ!」と求めているわけですよね。これは感情の言語化がうまくいっていない典型的な例だと思います。
 本書でも紹介した『ソーシャル・マジョリティ研究』(綾屋紗月ほか著、金子書房)という本によれば、感情の言語化とは「身体的把握」と「言語的理解」がうまく結びついて初めて実現されるそうです。つまり、「お腹が痛い」とか「ドキドキする」という身体的反応が先にあり、「それは緊張しているからだ」とか「相手から威圧感を感じてビビっているからだ」という文脈的な理解ができて初めて、感情が言語化される、という感じです。
 しかし身体反応に対し、実感とは異なる言葉を貼りつけてしまうと、間違いが起こる。例えば恐怖によって足が震えているはずなのに、その恐怖を認めず「これは武者震いだ」「ビビってないぜ!」など実態と乖離した言語的理解をしてしまうと、自分の感情がよくわからなくなっていく。特に男性はこういうことをやりがちなのではと感じています。

 


―なんだか“中二病”というか小学生男子みたいですが…
 大人でもついこういうことをやってしまいますよね(笑)。これを避けるためには、まず自分の身体反応に敏感になることと、その反応に対し適切な言葉を割り当てていく習慣を身につけることが必要だと思います。
 その時に問題になるのが「ネガティブな感情を認めることができない」という傾向です。本当は悲しいのに「これは悲しみではない」などと否定してしまう男性は少なくないと思います。あとはボキャブラリーの貧困さ。「つらい」とか「いやだ」と思うことはとても大事だと思いますが、その言葉だけだと解像度が低く、ざっくりとしか把握できない。また、身体反応に間違ったラベルを貼ってしまう、身体反応そのものを無視する、というのも起こりがちです。

―ボキャブラリーを増やしたり、間違ったラベルを正しく貼りかえたりするにはどうしたらよいのでしょうか。
 誰かに自分の話を聞いてもらうと、話しているうちに「自分はこう思っていたんだ!」と発見することってありますよね。そういう体験を重ねることで感情の言語化能力は養われていくように思いますが、一方で自分の感情を「話しきる」ことって意外に難しく、特に男性同士の会話の場合、話の途中で茶化しやイジりのようなものが入り、話し手もそれに乗ってふざけてしまったり…ということが少なくありません。
 特に今の時代、コミュニケーションの“持ち時間”が少なくなっているように感じています。バラエティ番組のように「ボケ」「ツッコミ」など役割が決まってしまったり、テンポの良さが求められたり。自分の話を未整理のままダラダラ話す機会は果たしてあるのだろうか?と。

失敗は青春に似ている


―「男」と括らずに「男女限らず人間こういうとこありますよね?」という書き方もできたと思います。
 この本は女性たちから聞いたエピソードをもとにしているので「男たちの失敗学」としていますが、もちろん男性だけの特徴というわけではないと思います。ただ、すべて異なる男性のエピソードにも関わらず、なぜこんなにも似通った話が多いのか…。自分としてはそこがとても気になる部分でした。僕には集まったエピソードをもとに考察することしかできませんが、例えば多くの女性たちが不満に思っている「小さな面倒を押し付けてくる男たち」という問題の背景には、家事やケアを“女性の仕事”と見なす価値観が関与しているかもしれない…。そういうアプローチでひとつひとつの問題と向き合っていきました。
 ただ、本を読んでくれた女性からは「私にも当てはまるところが結構あります」という声をよく聞きます。一方の男性からは「これって男だけの話じゃないよね?」という声が多い。女性のほうが自責的な傾向があるのか、この違いも興味深いところだなと感じています。

―家庭や夫婦、親子をとりまく環境は過渡期にあると感じています。従来決められていた男女の役割的なものが変化しているので、次の世代の男性は本書にあるような傾向とはまた変わってくるかもしれません。
 そうかもしれませんね。本書ではアラサー世代の女性から聞いたエピソードがもとになっているので、その恋人や夫、あるいは会社の上司まで含めても、ここに登場する男性は20代後半から上はアラフィフ世代くらいになると思います。桃山商事でもここ数年は大学生男子からの相談も増えていますが、確かにジェンダー観の変化は感じています。

―清田さんにとって失敗とはどういうものなのでしょうか。
 ありふれた言葉で恐縮ですが、失敗は人生を豊かにしてくれるものでもあると思います。失敗をしたときって、ものすごく落ち込みますよね。自分の存在が認められなかったり、拒絶された気持ちになったり、そういった苦しさや悔しさを避けては通れないし、今まで当たり前だと思っていたものが通用しなくなったり、時間の流れが急に変わってしまったような感覚に陥ったり…。人は失敗をすると、一挙にいろいろなことを感じると思います。自信もプライドも傷つくし、できれば避けたいものではあるのですが、そういった体験が自分を耕してくれる部分は確実にあると思います。渦中にいるときは苦しいけど、振り返ってみると今の自分を構成する大事な要素にもなっている。それが失敗というものではないかと思います。
 くさい言い方ですが、失敗は「青春」にも似ていますよね。青春って先行きの見えない時間の中で言葉にならない膨大なエネルギーに振りまわされる季節のことだと思うんですが、七転八倒やトライアンドエラーを繰り返しながら、少しずつ成熟していき、人は大人になっていく。あとから振り返ったときに思い出として残るのは、無難な日々よりも手痛い失敗の経験ではないかと思います。

 

―年齢を重ねてくると、失敗が起きていることに気づかないふりをしがちなのかもしれません。失敗をどんどん流していくと、周りの人に負担や歪みが押し付けられることが多発していくのではないでしょうか。
 確かに失敗と向き合うのはエネルギーが要るし、忙しい日々にあっては、なるべく気づかないふりをして過ごしたほうが生産性やコストパフォーマンスは向上するのかもしれません。しかし、たとえ失敗が表面化しなかったとしても、そのしわ寄せが誰かに行ってしまったり、まわりの人から秘かに冷ややかな目で見られていたり…そういったことが怒っているかもしれない。失敗を認めて恥ずかしい思いをすることと、知らぬ間に他者からの信頼を失うことでは、はたしてどっちが怖いですかって話だと思うんですよ。どう考えても後者のほうが恐ろしいですよね…。そうならないためにも、失敗と向き合えるマインドをキープしていきたいなと、個人的には思っています。

おっぱいじゃなく失敗を見つめよう


―ジェンダーの話が盛り上がって忘れかけていましたが、「ニュースイッチ」は一応ビジネス系のウェブサイトなので、「職場で起こりやすい男の失敗例」も教えていただけますでしょうか。
 最も恐ろしいのは「失望され、信頼を失うこと」だと思います。職場は一種の公共空間であるはずなのに、まるで自分の家かのように振る舞い、後輩や女性たちから失望されてしまう。使った備品を戻さない、小さな面倒を押し付ける、相手の話をろくに聞かない、セクハラめいた発言を繰り返す……など、失敗の種はそこかしこに広がっているように思います。

―上司、部下など力関係も相まってより失敗が起こりやすい環境にありますね。
 仕事の文脈で出会う人は、女性であろうと男性であろうとすべて「仕事相手」として接する。これを原則に振る舞うのが大事だと思います。たとえ女性の部下に褒められたり頼られたりしても、それは「上司として」頼られているのであって、「男として」褒められているわけではありません。また男性の部下に対しては、「同じ男だから」といった感覚は一切捨てるべきでしょう。例えばご飯に行けばライスの大盛りを強要する。激務を嫌がる男性社員を「軟弱者」と見なす。最悪の場合、飲み会のあとに風俗やキャバクラへ連れて行く。こういった振る舞いは相手が同じ男性であっても「ハラスメント」になるという意識を持つべきだと思います。

―これからの時代、新しいジェンダー観を持って働くには。
 性別に囚われず、まずは相手の話にしっかりと耳を傾けることが大事だと思います。その中でもし「これは男女の差に起因する問題だ」と感じるものがあれば、背景にあるジェンダー構造を学び、日々の仕事やコミュニケーションに反映させていく。そういう態度でのぞむことが、後輩や女性たちから失望されないための道ではないかと、個人的には考えています。

―「敗戦に学ぶ」「企業不正の歴史」「PDCAビジネス術」などどいう類の本やエピソードは好んで読まれます。ビジネスにおいての失敗はしっかり認識され、研究されていますよね。
 ビジネスの文脈においては、「失敗は成功の母」という格言がリアリティを持って受け止められているように感じます。でも、こと人間関係、特に男女間のコミュニケーションにおいては、はたして失敗というものはしっかりと直視・検証されているのか。個人的にはそこに疑問を抱いています。
 以前ツイッターで「男は落ち込んだとき、『おっぱい揉む?』って言われると元気になる」という内容のつぶやきが話題になったことがありました。傷ついた心を優しく癒やして欲しいという心情の表れだとは思いますが、それでは具体的な振り返りにはなりませんよね…。韻を踏みたいわけじゃありませんが、「おっぱいじゃなくて失敗を見つめよう!」と声を大にして言いたいです。そのほうが絶対、イケてるメンズになれると思うので。


【略歴】
清田隆之(桃山商事)
きよた たかゆき
1980年東京都生まれ。文筆業、恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。早稲田大学第一文学部卒業。これまで1200人以上の悩み相談に耳を傾け、それをコラムやラジオで紹介している。恋愛とジェンダーの問題を中心に執筆活動を行い、雑誌、ウェブメディアなど幅広く寄稿。著書に『二軍男子が恋バナはじめました。』(原書房)、『生き抜くための恋愛相談』(イースト・プレス)、『モテとか愛され以外の恋愛のすべて』(同)、トミヤマユキコさんとの共著に『大学1年生の歩き方』(左右社)がある。

 

『よかれと思ってやったのに 男たちの「失敗学」入門』
目次
PART1 モヤモヤさせていること
 その1 小さな面倒を押し付けてくる男たち
 その2 何かと恋愛的な文脈で受け取る男たち
 その3 決断を先延ばしにする男たち
 その4 人の話を聞かない男たち
 教えて、先生! テーマ「セクハラ」金子雅臣先生
PART2 軽く引かれていること
 その5 謝らない男たち
 その6 女性の身体について無理解な男たち
 その7 仕事とプライベートで別人のようになってしまう男たち
 その8 プライドに囚われる男たち
 教えて、先生! テーマ「性教育」村瀬幸浩先生
PART3 迷惑だと思われていること
 その9 イキるくせに行動が伴わない男たち
 その10 男同士になるとキャラが変わる男たち
 その11 すぐに不機嫌になる男たち
 その12 何ごとも適当で大雑把な男たち
 教えて、先生! テーマ「ホモソーシャル」前川直哉先生
PART4 悲しい気持ちにさせていること
 その13 付き合い始めると油断する男たち
 その14 「ほうれんそう」が遅すぎる男たち
 その15 上下関係に従順すぎるたち
 その16 話し合いができない男たち
 教えて、先生! テーマ「DV」中村正先生
PART5 理解できないと思われていること
 その17 お金のつかい方が意味不明な男たち
 その18 身体のことを考えていない男たち
 その19 保守的で変化を嫌う男たち
 その20 シングルタスクな男たち
 教えて、先生! テーマ「ハゲ問題」須長史生先生



連載・なぜ?なに?失敗(全6回)


【01】動物ライター 丸山貴史氏(8月19日配信)
【02】元JAL機長 小林宏之氏(8月20日配信)
【03】元芝浦工業大学大学院教授 安岡孝司氏(8月21日配信)
【04】離婚式プランナー 寺井広樹氏(8月22日配信)
【05】恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表 清田隆之氏(8月23日配信)
【06】感性リサーチ社長 黒川伊保子氏(8月24日配信)

昆 梓紗

昆 梓紗
08月23日
この記事のファシリテーター

「男の」と一括りにすることに賛否はあると思いますが、実際に起きている失敗に目を背けて良いのでしょうか。もちろん男女問わずジェンダーバイアスに囚われたことによる失敗は起こります。コミュニケーションの失敗で特徴的なのは、本人が自覚しにくいことだと思いました。気づかぬうちに、静かに信頼を失っているかもしれません。
一見刺激的な本ですが、清田さんの優しく細やかな文章で耳の痛い話も受け入れやすくなっています。

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